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Showing posts from August, 2026

【オンリー・ウニ】第14章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第14章  教会の台所には、女性が二〇人、子供が二人いた。子供の一人は、蛇口でコップに水を入れていた。もう一人は、床の排水管にゴールドフィッシュ(金魚の形をしたクラッカー)を詰め込んでいた。忙しそうに働いている二〇人の女性はそれに気づいていないようなので、トリッシュがゴールドフィッシュの男の子を取り押さえた。その子が甲高い声を上げ、台所で順調に進んでいた作業が止まった。  女性らはじっと見ている。トリッシュは彼女らの心が読めた――トリッシュが格闘した亜麻色の髪の男の子は、明らかにトリッシュ自身の子供ではない。  クラッカーを両手で持っている男の子の手を指さした。「これで排水管を詰まらせてたので」  金髪の母親が台所に飛び込んできた。「ダニー、ここにいたのね」誘拐犯から子供を取り返すように、母親はトリッシュから息子をひったくった。  トリッシュは、クラッカーと排水管のことをもう一度説明した。母親は笑った。「違うわ、この子は排水管からクラッカーを取り出そうとしてたんじゃないかしら。スイーティ、行くわよ。小さいところに手を入れちゃダメだって、いつも言ってるでしょ。さあ、手を洗いましょう」四歳の息子に優しく話しかけながら、台所を出ていった。  トリッシュは、シンクで鍋を洗っているティーンエージャーから、コンロ前のスペースを奪い合うおばあちゃんまで、台所にいる全員から注目を浴びた。 「お手伝いに来ました。スペンサーに来るように言われて――」 「はいはい」大きな食器棚の前に座り込んでいた、太ったアジア系の女性が立ち上がった。「スペンサーから聞いてるわ。あなたがトリッシュ?」  トリッシュはうなずいて微笑んだが、青白いブルドッグのような顔は笑顔を返さなかった。「料理はできないって聞いてるけど」  何てこと、長い土曜の午後になりそうだ。  その女性――かめ子は――そのかすかななまりは日本人だろうか?――二人の元気なティーンエージャー、モリーとメアリーの隣にある三つ目のシンクにトリッシュを押し込んだ。「鍋を洗ってくれるかしら」  まあこれだったらトリッシュにもできる。焦げた鍋の底をゴシゴシこすり始めた...

宗教ではなく、イエス様に出会う

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子どもの頃の私は、仏教が身近な環境で育ちました。今日は、そんな私がイエス様と出会い、新しい希望を見つけた体験をお話ししたいと思います。 私は仏教の家庭で育ちました。毎週祖母と本願寺に行き、祖父のために花を供えました。お坊さんはとても親切で、仏教はとても良い宗教だと思っていました。 大きくなってキリスト教のことを知るようになりましたが、私の心の中で、その知識は何の意味もありませんでした。そして中学生のとき、ひどいうつ病にかかったのです。 イエス・キリストが私の罪のために死んでくださったことに気づいたのは、そのときでした。私のありとあらゆる行いは赦されることが可能で、もっと重要なのは、新しいスタートを切るチャンスをイエス様が与えてくださることでした。過去の私に縛られることなく、私の人生は新しくされ、前に進んでいけるのです。 私の人生の中で初めて、神様の力を経験しました。宗教は、もはや盲目に従うものではなくなりました。イエス様が私の人生の中で実在されるという個人的な証拠を得たからです。 ですが、毎週祖母と本願寺へ行くのは止めませんでした。お坊さんたちはまだ私に親切でした。ただ、私は彼らが信じていることをもはや信じていませんでした。 イエス様の時代、パリサイ人は聖書をよく知る宗教指導者でした。私も、自分が慣れ親しんだ宗教から離れることは簡単ではありませんでした。だからこそ、パリサイ人がイエス様を受け入れることの難しさも、少し理解できる気がします。彼らもまた、自分たちが長年信じてきたものに深く慣れ親しんでいたからではないでしょうか。 ニネベの人々と南の女王(シェバの女王)は異邦人(ユダヤ人ではない者)でしたが、神様を信じるようになりました。しかしユダヤ人であるパリサイ人は、イエス様の奇跡を見、教えを聞いたにもかかわらず、信じませんでした。だからイエス様はその頑固でかたくなな心を指摘したのです。彼らはイエス様の権力に反論することまで言い、これは神の聖霊にたてつくのと同じことでした。 イエス様は、ユダヤ人ではなくても、ご自分を信じて従う者は家族の一員であり、ご自分のものであると言われます。私も一時、自分がそこで育った仏教という宗教に慣れていたので、パリサイ人のようにイエス様を信じたくないと思ったときがありました。しかし、イエス様はご自分が実在し、私...

【オンリー・ウニ】第13章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第13章  次の日、スペンサーはトリッシュにアタックをかけた――いや、ビルの前で彼女に近づいた。風が吹いてきたので、髪の毛の細い束がポニーテールからはみ出し、それを片手で抑えながら、もう一方の手で携帯を持っている。「そう、大怪我よ! マグの破片で足を切ったの……割った時にすぐ片付けてたら、注意する必要なんてないじゃない……深い傷じゃなかったから、あなたラッキーね……だめよ、生ごみ処理機は自分で直さなきゃ……だって、管理人に電話したらタバコのにおいに気がついて、猫を見つけて、私たち、追い出されるわ……だから言ったじゃない。もしもし?」携帯を見つめ、口を大きく開けている。「信じられない! 切られた」  トリッシュは身体をひねってバッグのストラップをつかみ、携帯を中に入れた。スペンサーが手を貸そうと近づくと、トリッシュはエボラウイルスの感染者に近づかれたように飛びのいた。 「手伝おうとしただけなんだけど」傷ついたような表情を見せた。  トリッシュには効果がない。「大丈夫だから」その口調は辛辣だった。  ルームメイトとうまく行っていないので機嫌が悪いだけだ。スペンサーは全速力で突進した。「昨日の夜、ラブコメ見たよ」  トリッシュが口をあんぐり開け、その目が一ドルコインのように大きくなったのを見て、スペンサーは満足した。しかし、燃えるように怒る彼女は確かにあまり魅力的ではない。少し金魚みたいに見える。 「『テオドラの日記』っていうんだ」トリッシュの言葉にならない質問に答えた。 「あっちへ行って」 「本当に見たんだぞ」  彼女の目が不信感で細くなった。「へえ、何分間?」 「最初から最後まで。本当だって約束する」  トリッシュは腕を組んだが、気乗りがしなくても楽しんでいるのか、口を開いた。「感心したわ。感想は?」  ジレンマはここだ。他の女の子だったら、見えすいた嘘で逃げ切れる。しかしトリッシュは嘘を見抜くだろうか?  多分見抜くだろう。  他の女の子だったら、真実を言えば腹を立てるだろう。トリッシュはそのバッグで彼の頭を殴るだろうか?  殴らないかも。 「よかったよ」肩をすく...

【オンリー・ウニ】第12章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第12章  トリッシュが和夫の方を向いて立った時、スペンサーは無意識に頭を動かしたが、彼女の体に視界が遮られた。あの青白い顔は二度と見たくないのだから、ちょうどいい。  見ていたら、きっと殴りかかっただろう。  モニターの方に戻った。 「会社に来ないでって言ったじゃない」トリッシュの声は甲高くなった。そして、開いているドアの方へ歩いているような音がした。「私の言うこと、全然聞かないのね」廊下に出てドアを閉めたので、そのセリフの最後の方はよく聞こえなかった。  先週トリッシュがおばあさんと電話で話している時に和夫の名前を言うまで、スペンサーは何年もその名前を聞いていなかった。驚いたが、別のカズオのことを話しているのに違いないと考えた。そんなに珍しい名前でもない。  しかしその声を聞き、顔をチラッと見たら――同一人物だった。椅子の肘掛をつかみ、指をそこに食い込ませると、ゴム製の部分がきしんだ。  和夫にはスペンサーが見えたのだろうか? 何も言わなかったのだから、多分見えなかったのだろう。和夫は、スペンサーの妻と不倫をしていたことを決して言わなかったが、二人は会うと必ずお互いにイライラした。古い縄張り争いのようなものだろうか。  馬鹿げているのは分かっていた。スペンサーとリンダは離婚していて、リンダはその後和夫とも破局している。彼女は今、二番目の夫と一緒にいる。では何故、和夫を見てこんなにイライラするのだろうか? スペンサーの理性は、静脈を走る怒りとの連絡が途切れていた。  つまり、トリッシュは和夫のような男とかかわっていたということか。面食いはやめるという彼女のモラルは――三つのルールと、スペンサーがクリスチャンではないからデートをしないことを含め――あの調子のいい元カレと縁を切るための無条件反射的な反応なのかもしれない。  そしてスペンサーは、会話が途切れ途切れに聞こえてくるのに気づいた。 「……しないわ」トリッシュは一キロを五分で走ったような話し方をしていた。「よりを戻す気はないの」 「君こそが、僕の筆のひと筆ひと筆に込められた美しさそのものだ」和夫の声は深く、滑らかに響いた。「君が...

【オンリー・ウニ】第11章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第11章  スペンサーは息を切らして、駐車場へと出ていったトリッシュの後を走って追いかけた。やれやれ、この娘は怒ると大急ぎ出て行ってしまうのか。叫ばないで話ができるよう、十分近づくまで待った。「謝ったじゃないか」 「知ってるわ。だけどすぐに赦す必要はない」トリッシュは、スマートキーのリモコンを押して車のロックを解除した。駐車している車の列の真ん中あたりで、テールライトがチカチカした。「あった、私の車」  スペンサーは呆れた顔をしたが、トリッシュに追いつこうとダッシュした。「ちょっとからかっただけだよ」 「へえ、それはよかったわね」  今では、スペンサーはトリッシュのことをよく理解していた――彼女は別に怒っているわけではない。ちょっといじめてみたいだけなのだ。 「トリッシュ」彼女の腕をつかんだ。 「何よ」涼しい顔を向けた。  スペンサーは片眉を上げてトリッシュを見た。  彼女は笑い出した。  は! 笑いをこらえることができなかったようだ。「オリビアが言ってたけど、奉仕がしたいんだって?」 「そうなの」 「あーあ、分かった。ルールの三番目か?」  トリッシュの顔の上で苛立ちがチラチラしている。「そんな言い方をしなくてもいいんじゃない」 「どんな言い方だよ?」 「がつがつむしゃむしゃトラアル獣と同じぐらい現実的ってことよ」 「はあ?」一体なんだそれ? きっとこの娘がいつも読んでる本に出てくるキャラクターか何かに違いない。 「あなた、『銀河ヒッチハイク・ガイド』読んだことないの?」トリッシュは、ネアンデルタール人を見るような目でスペンサーを見た。「もういいわ。どうせ、そんなルール守れないって思ってるんでしょ」  トリッシュをさらに怒らせる前に、スペンサーは口を閉じることにした。  彼女はため息をついた。「そうよ、教会で奉仕がしたいの。どんなことができる?」 「まるでファストフードを注文するみたいだな」  トリッシュは彼をにらんだ。 「分かった、分かった。賛美チームが一人ボーカリストを探してる」  彼女の顔が一瞬明るくなった。クリスマスの朝、一つ目の...

【オンリー・ウニ】第10章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第10章  内向的――トリッシュは違った。  全く新しい教会だと思うと少しプレッシャーだが、ガッツで向き合い、長椅子に座っている新しい女の子という不愉快な気分を早く乗り越えよう。  日曜日、エイデンは自分の教会の入り口でトリッシュと待ち合わせをした。その中途半端な笑顔はあまりかっこよくないが――それがエイデンだった。彼女の理学療法士だった時、彼の無表情な顔にいつもイライラし、彼を揺さぶりたい気持ちになった。彼を追いかけてデートに誘うこと――そして、完全に拒否されること――は、多分あまり賢い行動ではなかったと、今では認めることができる。  だけど、今は大丈夫だ。そう願った。エイデンがいとこのレックスと付き合い出してから、彼とは全く会っていなかった。 「ハーイ」最高に明るい笑顔で言った。  彼は一ミリも動かない。「やあ」  彼女は唇の内側を噛んだ。「もう気にしてないでしょ? 私が神様に献身することにしたって、レックスに聞いた?」 「ああ、僕も嬉しいよ、トリッシュ」まだ無表情な顔。彼の頬をつかみ、前後に揺らしたい。 「あまり嬉しそうじゃないわね」  エイデンは彼女に向かって眉を上げた。 「分かった、分かった、気にしないで」アイスマン。 「本当に嬉しいよ、よかったじゃないか」  その顔はあまり活気がないが、目は誠実そうだった。(これだったら何とか耐えられる)「ありがとね」  二人はドアの外でおしゃべりしている群衆の中をくぐり抜け――一体この人たちは、何故、歩行者用の大通りの真ん中で集まりたがるのだろうか――丸テーブルとそびえるようなフラワーアレンジメントが大部分のスペースを占めているロビーに入った。アスターの強い香りのために、トリッシュはくしゃみが出た。 「席が埋まる前に座ろう。後で紹介するよ」  トリッシュは過ぎていく人に明るく微笑んだが、誰も気に留めていないようだった。一体この教会はどんなに大きい――。  信じられない、礼拝堂はコンサートホールのように大きかった。本当のコンサートホールのように、半円形のステージから扇を広げるように椅子が並んでいた。  それに、そこ...

【オンリー・ウニ】第9章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第9章 「もう、そこまで強く引っ張る必要ある?」レックスの車に乗り込みながら、トリッシュはアザができた腕をさすった。  レックスは車のキーを押し込んで回した。「またあいつに騙されるつもり?」 「どういう意味よ?」 「わざと謙虚な態度を取ってるのが見え見えなのよ」 「私もそう思った」何となく。和夫を目の前にすると、まともに考えるのが難しい。「彼を信じたことなんてなかった」  レックスは鼻先で笑った。 「だって、それがあいつのやり方なんだから」 「そうなの?」レックスは、駐車場から出ようとハンドルを回す前に、興味深げにトリッシュの方を見た。 「付き合い出した頃はね、一緒に教会に来てたのよ。最初は興味があるような様子だったんだけど、彼と一緒に来ると、いつも遅れるの。それに、他の人とは絶対に話したがらない。結局私たち二人とも行かなくなっちゃった」  レックスは横目でトリッシュを見た。 「そうなの、分かってる。あんな簡単になびくべきじゃなかった。だけど、今は彼から解放された――」 「あいつが教会まで追いかけて来なければね」レックスは方向指示器を上げて、レーンを変えた。 「ちょっと、あの車の前に割り込んだじゃない」トリッシュは窓の方を向いて微笑み、イラついている運転手に謝るつもりで手を振ったが、中指を突き立てられた気がした。 「和夫に冷たい態度を取ってるようには見えなかったわよ」  確かにそうだ。「だけど、彼の腕に身を任せることもしなかったわ」  レックスは呆れた顔をした。「まあ、少しは進歩したのかもね」 「もちろん進歩よ。電話でも言ったでしょ。私は生まれ変わった、いい娘になったトリッシュなのよ!」腕を大きく広げようとしたが、窓に手をぶつけ、もう少しでレックスの目を突きそうになった。 「ちょっと、気をつけてよ」レックスの表情は優しい反面、少し不信感があるようにも見えた。「トリッシュ、あなたのことはよく分かってる。あなたは人なつっこくて、新しい人に会うのが好き、特に男。あなたがいちゃついていないところは滅多に見たことがないわ。悪く取らないで欲しいんだけど、今回はあなたのこと...

【オンリー・ウニ】第8章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第8章  トリッシュは飛び出し、急に振り向いた。空洞に響くようなドンという音とともに、こめかみをクローゼットのドアにぶつけた。目の前で星が爆発した。 (いた、た、た、たっ!)立ち上がろうとしながら、ズキズキするこめかみをさすった。「マーニー! 大丈夫?」部屋が揺れているように見えるが、何とかよろめきながら居間に出て、マーニーの部屋のドアを叩いた。「マーニー!」  ドアは開かなかったが、マーニーは泣きわめき出した。  ドアの取っ手を回そうとする前に、トリッシュは一瞬ためらった。マーニーの部屋に入ったことはなかったが、彼女の叫び声から警告の銃弾がトリッシュに飛んだ。戦慄の走るような叫び声は、プライバシー侵害の正当な理由になるだろうか? 取っ手を回し、中へ押し入った。  マーニーはベッドの上に座っていた。強烈なピンク、青、緑、赤、紫の色が織り込まれたベッドカバーの真ん中の小さくて暗い突起のように見える。彼女は震える手で、開いたままの携帯電話を握っていた。トリッシュがそこに立つなり、その電話はプラスチックのパキッ! という音と共に壊れた。 「マーニー……」  ルームメイトの手の上の浅い傷口が赤く光り、血を見たことで、マーニーは苦悩に満ちた放心状態から我に返ったようだった。そして、二つに割れた携帯を落とした。悲嘆の声は、早い呼吸へと和らいだ。「彼に……ふられたの」 「あなたの彼?」 「テキストメッセージで」  そんな。トリッシュのお腹は蹴られたように締め付けられた。マーニーの気持ちを想像することもできなかった。だけど、神様のためにマーニーの心を勝ち取るのは、今がチャンスではないだろうか?「あのさ……ちょっと話さない?」 「嫌よ」 「オ、オッケー。じゃあやめよう」  マーニーはベッドから飛び跳ねて、ダッフルバッグに洋服を詰め込み始めた。 「何やってるの?」 「ちょっと考える場所が必要なの」 「出てくの?」こんなことで? リース契約はまだ七か月残っていた。 「違う」 「ああ」(助かった)「何か手伝おうか?」 「大丈夫」  とりあえず、助けようとしなかったわけではない...

【オンリー・ウニ】第7章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第7章 (そんなこと、あり得ない)  一八二センチのゴージャスな男に誘われてる? トリッシュの耳はちゃんと聞こえているのか? 誰か他の人を誘っているのでは?  違う、スペンサーは目の前にいた。このオフィスにいるのは二人だけだという事実はさておき、男性は普通、他の女の子の目を見ながら誰かを誘うことはしない。  ショックの波がひいたとき、トリッシュは心臓がドキドキしてきた。一八二センチのゴージャスな男に誘われたんだ! あの香港人のインターンは食事に誘いもしなかった!(ちょっと陰険だが、本人に聞いたから知っていた)  ちょっと待って。何故誘われたのだろう? ミス香港は彼女より十三キロ以上痩せていて、年も五歳以上若い。それにスペンサーは廊下でいつも女性と話し込むタイプの人だった。 「あの……デートってこと?」  スペンサーの笑顔が少しギクシャクした。「もちろん、どう?」  トリッシュは彼といちゃついていたのだろうか? ここ数日、見ないように頑張ってきた。新しいトリッシュ――生気がなく、礼儀正しく、ちょっと退屈ないい娘バージョンの自分に慣れるまでに、時間がかかった。多分、無意識のうちにフェロモンを撒き散らしていたから、こんなに理解しがたい瞬間が訪れたのだろう。  どうしよう、一八二センチのゴージャスな男に誘われた! ルール一番を守るために頑張ってきたが、彼は先回りして、この爆弾を彼女の膝に落とした。女の子にとって、これは耐えがたい誘惑だった。  だって、ノーと答えなくてはならない。 「マジなの?」トリッシュは唇の内側を噛んだ。自分はクレイジーに見えたのだろうか? 何をしてしまったのか? この二週間夢中になっていたまさにその男性を拒絶するなんて、無理だ。 「うん、マジだよ」彼の眉間にシワがより、イライラしているような声の調子だった。「何で? 何か問題でもある?」 「光栄だとは思うんだけど……」 「だけど……何?」スペンサーの口が引き締まった。  トリッシュは立ち上がった。彼をあまり見上げたくなかったから。「ごめんね、悪気はないんだけど……あなた、クリスチャンじゃないから」  何だ...

【オンリー・ウニ】第6章

『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第6章  トリッシュの上司が「アジア人の時間感覚」を持つ人だったら、細胞培養室の壁時計が十分過ぎていても、会議の時間に間に合ったのに。だけど、ダイアナはアジア系アメリカ人の冗談を面白いと思う人ではない。  トリッシュはニトリル手袋を引っ張り抜き、バイオハザードの容器に入れた。正月休暇が終わった後の初出勤日はいつも忙しいものだ――ダイアナは分かってくれるはず。細胞培養室のドアまで走る途中、たまたまその容器が目に入った。困った、がん細胞に寄生された手袋は容器に入らなかったようだ。トリッシュはキーッと音を立てて止まり、振り返って、手袋の親指と人差し指の間の清潔な部分をつまみ上げて、赤いプラスチックの袋に落とした。  トリッシュはドアをバタンと閉めて、オフィスを出た。ラボ用白衣を引き剥がすように脱ぎ、シンクまでダッシュした。シンクの取っ手を回すと、細い蛇口から水がほとばしり、顔に飛んだ。  ツバを吐き、頭を振って、手を洗うために水量を減らした。手を拭こうとしてペーパータオルを引っ張ると、ほんの小さい一切れだけを切り落としてしまい、もう一度つかむとバサっと大量に出てきてしまった。おバカなタオルディスペンサー。ああそれに、おバカな水は、トリッシュの新しいブラウスにもはねていた。水のシミをこすり、ラボのドアを出て、廊下を走った。  あまりに早くオフィスに突進したトリッシュは、キュービクルの壁に当たって跳ね返り、誰もいない机にぶつかった。横滑りするように、その机の角を回った。ペンとカレンダーをつかもうとして落としてしまった。ペーパータオルは、そこら中に飛んで行った。  ドアを通って階段の吹き抜けにぶつかってから、階段を飛ぶように上がった。三階に着く頃には、息は苦しく、次の呼吸とともに口から肺が飛び出るのが見えるような気がした。カーペットが張られた廊下を進み、会議室まで走った。  ドアの外で、トリッシュは時計をチラッと見た。ゆがんだ顔で、重いオーク製のドアをそっと開け、中をのぞいた。  四組の目が、だんだん近づいてきた。  マズい。「申し訳ありません。今朝、細胞の解凍に問題がありまして」  上司のダイアナは、...