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Showing posts from March, 2026

【ひとり寿司】第8章

→ 作品ページにもどる 第8章 カリフォルニアの服装規定はカジュアル。助かった。サンタナ・ローのクラスタシアン・レストランに入ると、レックスがはじめに抱いていた心配は、消えてなくなった。客の多くはジーンズ。だから彼女のシンプルな木綿のシャツは、場違いではない。 こんなにハンサムな男性と同席するなんて、何か特別な人になった気がした。ただ、品定めをする女性の眼差しに、ジョージは気がついているようだった。 「あの子たちのこと、知ってるんですか?」露出度の高い服を着て、まつ毛をパチパチさせ、くすくす笑っている女の子達に、レックスは会釈した。 ジョージは、注意をさっとレックスに戻した。「あ……いや」明るく、暖かい微笑みが光った。女の子達が彼の肩越しにため息をついているのが見えなければ、レックスはその微笑みに包み込まれるように感じたのかもしれない。(見たいだけ見ればいいわ、お嬢ちゃんたち。この人は私のデート相手よ) 彼はそうやって注目されるのを歓迎しているようだったが、「エペソ」のリスト五番め——「誠実さ」という問題を考えると、幸先が良くない。まあ、食事が終わるまで、このリストとジョージを比較することにしよう。 レックスはメニューをさっと見たが、食べたいものはもう決まっていた。いつもと同じものだ。 ジョージが顔を上げてレックスを見た。「カニ入りワンタンの前菜、一緒に食べない?」 「もちろん、おいしそうですね」リストに追加しよう。(私と同じぐらい美味しい食事を楽しむことができる人) ウエイトレスが、紗のような宝石をちりばめたベトナムの民族服を着て、(映画アラジンの)ジニーのようにテーブルに現れた。「ご注文はお決まりですか?」鈴が鳴るような声だ。 ジョージの目は、メニューからウエイトレスの顔まですっと上がるのではなく——そのスレンダーな曲線の上をゆっくりと動いていった。レックスはあごが引きつった。リストにある「誠実さ」を考えると、ツー・ストライク。このデートはすぐに終わるかもしれない。 「カニ入りワンタンはシェアします。それから、僕はシーザーサラダと、ガーリックでローストしたカニ入りのガーリックヌードル」 少なくとも、食べ物の趣味はいい。「私も同じものをお願いします」レックスは大きいメニューをウエイトレスに返した。 「君、ペア...

不可能な仕事に直面したとき、ダニエルはどう行動したのか

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理不尽な仕事を任されたことはありませんか? どう考えても無理そうなのに、なぜか自分がやることになる――そんな場面です。 私は聖書に登場する預言者ダニエルがとても好きです。 自分の仕事が大変だと感じるときでも、「少なくとも自分で選んだ仕事だな」と思うと、少し気持ちが軽くなります。 でもダニエルはそうではありませんでした。ネブカドネザル王の宮廷で働くか、それともかなり厳しい目にあうか――ほとんど選択の余地がなかったのです。 うーん、なかなか大変な状況ですよね。 しかも彼は、バビロン捕囚の中にあっても、神に真剣に従っていた数少ないイスラエル人の一人でした。 そんな難しい環境の中でも、ダニエルは神を大切にする心を失いませんでした。 しかも状況はかなり極端です。同僚(しかも偽の預言者たち)が、上司から出された少し無理のある課題を達成できなかったために、全員まとめて死刑になるという話になってしまいます。 王は占星術師たちに言いました。 「これはわたしの決定だ。もし夢の内容とその解き明かしを告げないなら、お前たちを八つ裂きにし、家を瓦礫の山にする。」 (ダニエル書 2:5) 「王の夢を言い当てる」というのは、いわば「がんの治療法を見つける」ようなものかもしれません。 不可能ではないとしても、普通の宮廷魔術師にはかなり難しいですよね。 もし私がダニエルだったら、上司の無茶な要求にも、同僚の状況にも、少しイライラしてしまいそうです。 でもダニエルは、冷静さも礼儀も失いませんでした。 こうして知者たちを殺すという命令が出され、ダニエルとその仲間たちも探し出されて殺されることになりました。 王の親衛隊長アリオクが知者たちを殺そうとして出て行ったとき、ダニエルは思慮と分別をもって彼に話しかけました。 (ダニエル書 2:13-14) 彼はすぐにこの問題に向き合いました。 もちろん命がかかっていたわけですが、そういう状況だと、自然と真剣にもなりますよね。 ダニエルは王に時間を願い出て、その後、仲間のもとへ向かいました。 私たちは、仕事の場における「仲間」の大切さを、つい見落としてしまうことがあるように思います。 仕事は競争の厳しい環境でもありますから、なおさらかもしれません。 でも同僚は助けになり得ますし、少なくとも祈って...

【ひとり寿司】第7章

→ 作品ページにもどる 第7章 レックスは、駐車場にある歩道の縁石の外側にすわった。太陽の弱い光のために頭が温かくなり、ストレートヘアがヘルメットのように感じられた。もう一度、深く息を吸ったが、ありがたいことに何もにおわない。少なくとも強いにおいはしない。刈られた芝が、土と何か花のようなにおいと混じったような、かすかなにおいがするだけで、ただ新鮮で無臭の空気だ。レックスの火山のような胃を、もう一度、噴火させるようなものは何もない。 靴のかかとの周りで円を描いているアリを見つめた。このスタートアップの会社で、レックスはあまり優秀な働きアリではなかった。女王アリは、エベレットやアンナの上司のように、理性がないものなのだろうか。 辞めるべきなのか—— いや、それは良くない。満たされているべきではないのか? 「私は、どんな境遇にあっても満足することを学びました」 と聖書に書いてある…… レックスがエベレットと口論になったように、使徒パウロは、ペテロとの筋の通らない口論に耐えたのだろうか? ペテロはエベレットより理性のある男のはずだ。 忍耐が必要だった。走り出したレース、走り通さなくては。自分の敵を愛さなくてはならない。 もっと強い胃が必要だった。 辞めてしまえば—— (言ってはダメだ!) ピピッ、ピピッ。変わった鳥のさえずり……ああ、携帯の音だ。「ハロー?」 「レックス、チェスターだけど」 このいとこは滅多に電話をかけてこない。「どうしたの?」 「今日は笑顔にさせてみせるよ。欠員が出たんだ」 「うるさいわね! どうせ嘘でしょ。で、どんな職種?」 「実は……さ」 やっぱり。「チェスター、嘘をつくんじゃないわよ」 「受付」 レックスはうめき声をあげた。「お給料はいくら?」 「最低賃金」 減給か。だけど——SPZで欠員が出るのはめずらしい! SPZはシリコンバレーで人気のドットコム企業ではないが、北米のスポーツ系ウェブサイトのメッカで働くなんて、夢のようだ。毎日、一日中スポーツづくし。高校、大学、そしてプロ。山積みのスタッツ(スコア表)。レックスの頭はぐるぐる回り始めた。 彼女に受付がつとまるのだろうか? 考えただけで、少し身がすくんだ。メークをして、小ぎれいなスーツを着、バカな人たち...

【ひとり寿司】第6章

→ 作品ページにもどる 第6章 「コンドミニアム探しに行かなきゃ」レックスはチャンキーモンキー・アイスを一口食べ、傷ついたオーク製のコーヒーテーブルに足を伸ばした。 トリッシュは、チェリーガルシア・アイスの隅から見上げた。「え、どうして?」 「計画変更よ」居間に置かれた、光沢のないオレンジ色とにごった茶色のソファの上に落ちてしまった一滴のアイスクリームをこすった。 「キンムンがあなたの最初の作戦だったの? 大した作戦じゃないわね」 レックスは、しばらく怒りがおさまらないだろうと思っていた。本当に、そんなに早く失恋から立ち直れるものだろうか?「幻を見てたんだと思う。それか、理想を追いかけてただけ」 トリッシュはまたアイスクリームにかぶりついた。「どうしてコンドミニアムなのよ? お金を貯めてるのは知ってたけど、プレイオフの遠征のためにそのお金が必要になるんじゃない?」 「まだ足りない、チーム全体ではね。それに、誰かスポンサーになってくれる人がいる、って信じてる。電話を折り返してくれさえすれば」レックスは、音が鳴らない電話をにらみつけた。 「大金だもんね」トリッシュはさくらんぼを引っ張って出した。 「ボーイフレンド探しも続けなきゃ」 「ボーイフレンドは要らないって。誰でもいいから、マリコの結婚式に連れて来ればいいわ」 「おばあちゃんの期待は、一回限りのデート相手じゃなくて、ボーイフレンド。あの人は、恋人同士のようなそぶりをするかどうかを調べるの」レックスは、たるんだソファのスプリングの上でお尻をずらした。 「誰を連れてったって、おばあちゃんはその彼のことで何か文句を言うに決まってる。でしょ?」 「どういう意味? 私が恋愛してるってだけで興奮するわ。きっとその彼を好きになる」 「賭ける? マリコの時と同じよ。背が低い、背が高い、痩せ過ぎ、太り過ぎ、日本人じゃない、中国人じゃない、ってね。マリコはいつもやり込まれてた」 「まあ、マリコの場合は可哀想なぐらいどうしようもないデート相手だったもんね」 「おばあちゃんが一つも文句を言わなかったから、あの、なんとかって人と結婚するだけだと思うわ」 「私の彼氏のことをおばあちゃんがどう思うかなんて、大体どうして気にするの? おやすみのキスをするのは、おばあ...

【ひとり寿司】第5章

→ 作品ページにもどる 第5章  痩せた女の子がトリッシュの全身にコーヒーを噴き出しているところを、エイデン・ヤングは新聞の端からチラッと見た。 「ああっ!」トリッシュは飛び上がって手を上下にバタバタさせた。「これ、新しいのよ! それで、このコーヒー! レックスどうして——」 エイデンは新聞紙の陰にまた隠れた。トリッシュはメロドラマのヒロインだ。 「トリッシュ、あなた、ちょっと大げさ過ぎない?」長身で痩せた女の子——レックス?—— はトリッシュより声が低かったが、さっきは聞こえなかった不安定で震えるような声が聞こえた。新聞の端からのぞいてみた。 レックスが中学生の女の子に手を突き出していた。「電話」 「だけど私まだ——」 「今すぐ」 レックスが叫んだので、その若い娘は飛び上がったが、携帯電話での会話が終わる頃、目をぐるっと回した。「ごめんなさい、キンムン——」 レックスは携帯電話をひったくり、パチンと閉じた。その顔は雷雲のように暗い。別の手で、トリッシュを反対側のトイレの方へと促した。 今がチャンスだ。エイデンは新聞をたたみ、コーヒーを持って、急いでドアの外に出た。 車にアラームをかけたスペンサーが、駐車場から手を振った。「遅くなってごめん」 運が悪いとは、このことだ。エイデンは、駐車スペースの真ん中でスペンサーを引き止めた。「やっぱ、ピーツ・コーヒーへ行かないか」 「嫌だよ。キャラメル・モカ・フリーズが飲みたいから、今日は特別がんばって運動したんだ」エイデンの横を通り過ぎ、ガラスのドアをぐいっと開けながら、スペンサーは少年のように溢れる笑顔を見せた。 スペンサーが注文している間、トリッシュはあの女の子とトイレに入ったままかもしれない。 お店に戻る途中、エイデンは長いポニーテールの中学生の少女とすれ違った。その目は曇り、まぶたは半分閉じているようだ。近くで見ると、思ったほど若くないようだ——大学生ぐらいかもしれない。その大人びた目線は品定めでもしているように見え、立ち止まって彼に話しかけに来るようにも感じられた。すれ違いざまに彼は顔がほてり、スペンサーの後をついてカウンターへ向かった。 「キャラメル・モカ・フリーズ、ホイップクリーム追加で」スペンサーのしゃべり方は、音節が転がって行くように流暢だ...

【ひとり寿司】第4章

→ 作品ページにもどる 第4章 「分かりました。待ちます」レックスは電話を持つ手をゆるめた。「行ったり来たりしないでくれる? 緊張するじゃない」 トリッシュは、オレンジ色と茶色のストライプのソファの上にドスッとすわった。 「じゃあさ、キンムンが乗り気じゃなかったことが、ちょっとでも気にならないの?」 トリッシュの知ったかぶりな様子にレックスはイライラし、心の中でつぶやいた。(そんなに乗り気じゃないわけではなかったと思うけど?)「そのことは後で話そうよ。今、電話中だから」レックスは古いレイジーボーイ・チェアに寄りかかり、傷のついたオーク製のサイドテーブルに肘を載せていた。 「今は誰とも話してないじゃない」 「気が散るの」 「大丈夫、気が散るようなことはしないわ」 「あなたの話を聞くと感情的になるからダメなの。トモヨシさんとは感じよく落ち着いて話さなきゃ」 トリッシュはあきれた表情をしたが、口を閉じた。 「ハロー、レックス?」 レックスは電話に注意を向けた。「こんにちは、トモヨシさん」 「しばらくレストランで会ってないねえ。元気にしてる?」その親切で陽気な声には、トモヨシさんの太い胴体と寛大な性格が表れていた。 「はい、元気です」 「まだバレーボールを?」 「ええ、実は、私がコーチをしている——」 「まだ覚えてるよ。おばあさんに連れられてレストランに来た時のこと。どうしてもバレーボールを車の中に置いてくるのを嫌がって、結局、自分の丼に当たってラーメンが飛び散ったよね」彼は笑った。 「ええ、そうでしたね」トモヨシさんが覚えているのは、それだけなのだろうか? 話をする機会があると、必ずこのことを言う。彼の日本食レストランでやった卒業パーティのことは? お父さんの厄年にはバースデーパーティだって。それ以外にも何度も食べに行ってるし、恐ろしいほど恥ずかしいハプニングがなかったことの方が多い。「あの、トモヨシさん……」 「おばあさんにはよく会うの?」 「いとこのレッドエッグアンドジンジャー・パーティで会ったばかりです」 「ああ、チェスターの姪っ子さんだね? それはいいなあ」 他の来客にとってはよかったのかもしれない。「ええ、食べ物は美味しかったです」食べてたら、そう思ったはず。 彼...

【ひとり寿司】第3章

→ 作品ページにもどる 第3章 トリッシュはイライラした。彼女を落ち着かせようと、レックスはトリッシュの脇に手を回した。レックスにとってもミミはお気に入りではなかったが、二人の間に入って猫のけんかをやめさせる気分ではなかった。 「ずっとそこにいたの?」トリッシュの声は、ほとんどうなり声に近い。 ミミは、軽率そうな素ぶりで細い肩をあげた。「おばあちゃんがここまで引きずられてきてる時に『私もいます』って発表する暇はないでしょ」 「おばあちゃんを完全に避けたかっただけなんじゃないの」かすかなあざけりを帯びたビーナスの唇が曲がった。 「当たり。気が狂って、あんな最終通告を出されるぐらいならね」ミミは、小さい手でレストランの方向を指した。そしてその手を止め、目を細くして、凝った装飾が施されたドアを見つめている。「私も自分を守らなきゃ」 何故か、不吉な予感がする言い方だ。 ミミは、二二歳という妬ましいほど元気な一四四センチの小さい体を揺らしながら、さっそうと歩いていった。 (待って)レックスは心の中で自分をひっぱたいた。「三○歳は年増じゃない、おばあちゃんが何と言っても」 ビーナスがその繊細な眉をつり上げた。「どうでもいいけど、マリコが結婚したら、いとこの中ではあなたが一番年上の独身女性よ」 内輪の肩書きは、OSFC(Oldest Single Female Cousin)=「いとこの中で一番年上の独身女性」。(万歳!) 「今頃なんだっていうのよ? いつも誰かの粗探しをする人だけど、ここまでひどくなかったわ」 トリッシュが手を上に放り上げた。「マリコが七年間OSFCだったからよ。おばあちゃんは、婚約するまでマリコのことで小言を言ってたじゃない」 ビーナスが鼻先で笑った。「どうしてそんなに早く結婚すると思う?」 レックスは頭をかいた。「妊娠したんじゃなかった?」 トリッシュとビーナスがうなるような音を立てた。ジェニファーはその笑顔がV字形になるまで唇を噛んだ。 ビーナスは、そのうんざりするほど綺麗な目に思慮深い光を浮かべて、レックスを見つめた。「どうして豊胸手術をする、って言わなかったの? そうすれば、おばあちゃんはあの最終通告のことを忘れるかもしれないわ」 「絶対いやよ! みんなに言いふらされるわ」 ...

【ひとり寿司】第2章

→ 作品ページにもどる 第2章 祖母は、レッドエッグアンドジンジャー・パーティの最中に「豊胸手術」と大声で言っただけではなかった。 長く苦しい一瞬だった。レックスの鼓動は止まり、その後、ナスカー・レースのようなスピードで再び打ち始めた。振動するハンドルにしがみついているように、手が震え、こわばった。だが、祖母を操縦するのはどうしても無理。情けない。 レックスは深く息を吸い、戦闘のために身を固めた。「おばあちゃん、そのことは、また今度話そう」 祖母の目が鋭くキラッと光った。「どうして? そんな塩のシェーカーみたいなんじゃ、男の子が寄りつかないのは当然よ」 塩のシェーカー??? 祖母は、「レックスのおばあちゃんが何でも直してあげる」という表情をしていた。その眼差しが下の方で止まった。「サイズは? Aカップかしら? 大丈夫よ、友達のミセス・チャングを知ってる? あの人の二回目のご主人は……」 (おばあちゃん、外に出ましょう。今すぐ)レックスは、祖母の体を取り押さえて運び出し、そこで絞め殺すという素敵な白昼夢をもてあそんだ。 現実に戻り——祖母を乱暴に扱うなんて不可能だ。一見、デリケートに見える老婦人なのだから。 応援が要る。祖母が怒鳴っているので、レックスのいとこ達が寄ってくるはず。騎兵隊はどこにいるのか? いたいた、いくつかテーブルをはさんだところでしゃべっている。レックスが瀕死の危機にさらされているというのに。トリッシュの体はレックスの方を向いていたが、隣のテーブルにいる男の子に気のある素ぶりで横目を流している。レックスは手をあげて振った。 「手を振り回すのをやめて、レックス。ちゃんと聞きなさい。ミセス・チャングがご主人を連れて来てるはずだから」 「だけど私のドレスが……」かたまりかけているソースが胸骨の上で不気味な弧を描いていた。 「今ここで診察するわけじゃないのよ」祖母の理性的な口調は、コールでアイラインを描いた頑固な目つきに隠された、残忍で精神異常者のような心と正反対だ。 レックスはやけくそになって、トリッシュの方を見ながら両腕を高く上げて振った瞬間——少なくとも、このタイトなワンピースを着ながらできる限り高く——椅子から立ち上がろうとした中年男性のあごを引っぱたいてしまった。「きゃっ、ごめんな...

【ひとり寿司】第1章

『ひとり寿司』 寿司シリーズの第一作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第1章 食べて帰る。することはこれだけだった。 遅れたことを理由に祖母に殺されなければ、の話だが。 レックス・坂井は中華料理店の戸口をさっと通過し、人々の会話、赤ちゃんの泣き声、香水と古いごま油が混じったにおいの中にとけ込んだ。敷居でつまずいて、足首をひねりそうになった。この忌々しいパンプス。ハイヒールは苦手だ。 いとこのチェスターは、開いた戸口に隣接する壁に押しつけられた小さいテーブルの後ろでくつろいでいた。 「ああ、チェスター」 「遅いじゃないか。ばあさんが機嫌を損ねるぞ。ここにサインしてくれ」チェスターは、周囲にのり付けされた、ピンク色のレースがやけに目立つゲストブックを指さした。 「これはどうすればいい?」レックスは、ベビー用品店の箱をテーブルに置いた。 チェスターはその箱をつかんでラベルをつけ、慣れた手つきで後ろにポンと投げた。フリルの付いた受付のテーブルの上から見えなくなって欲しいかのように。 レックスには彼の気持ちがよく分かった。いとこ達の多くが子供を持つようになり、中には日本人と中国人のハーフもいる。だから少々退屈でも、いとこ達の多くは中国の伝統的なレッドエッグアンドジンジャーのように盛大なパーティを開いて、生まれた子を「お披露目」していた。家族の大多数は日系アメリカ人なのだが。 レックスはかがんで、ゲストブックに自分の名前を書いた。新しいタイトなドレスは腹筋の辺りまで切れ込みが入っていて、布地は背筋を横切るようにピンと張っていた。トリッシュに説得されて買ったこの流行りのドレスは、レックスのスポーティなシルエットをいくらか曲線的に見せたが、コルセットを付けているようで動くのがむずかしい。前から持っているルースフィットのドレスを着ればよかった。「料理はどう?」こんなに騒々しい集まりの中で唯一価値のあること。ビーチの方がよかったな、とレックスは思った。 「まだ出てこないんだ」 「なーんだ。おばあちゃんの機嫌がまた悪くなるわね」 チェスターは顔をしかめ、真っ赤なカーテンがかかった壁と、巨大な金色のドラゴンの壁掛けがある広間の隅を指さした。「あそこにいるよ」 「サンキュー...

【独身淑女のクリスマス】 あとがき・作者より

→ 作品ページにもどる あとがき 読者の皆さんへ 「独身淑女のクリスマス」を楽しんでいただけましたか?イギリス摂政時代のクリスマスについて調べるのはとても楽しく、特に食べ物の描写は、見ているだけでお腹がすいてくるようでした!  摂政時代に使われていたような1837年の模様を使って、ジェラルドの赤と黒のスカーフを編んでみました。ブログに載せてありますから、編み物をされる方は是非http://bit.ly/KnitGerardsScarfをのぞいてみてください。  ウィンウッド夫人とミスター・ソル・ドライデール、そしてその家族のロマンスについてのストーリーを楽しみにしていてくださいね。この二人のちょっとしたロマンスもあるかもしれません!ウィンウッド夫人シリーズの続巻は今年の終わりに発表する予定です。Eニュースレターでお知らせしますから、購読をお忘れなく。  摂政時代のロマンスをテーマにしたその他の著書には、カルテット紳士シリーズの一冊目「主へのプレリュード」があります。今年の後半から来年にかけて、このシリーズの続巻を予定しています。 キャミー 追伸  校正者が見落としたタイプミスなどにお気付きの方は、どうか私にメッセージを送ってください。よろしくお願いします! → 作品ページにもどる → 他の作品を見る ※最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。