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【ひとり寿司】第29章

→ 作品ページにもどる 第29章 それは、本当に良い考えだったのだろうか? 違う、どうしてだろう? しかし、もしかしたら何とかなるかもしれない。彼女は違った。聞いてみることに、何の害があるだろう? 彼女をデートに誘うつもりなら、急がなくては。残っているのはレッグプレスだけ。煮え切らない時間が長すぎた。マシーンに座っている彼女は、何を見るというわけでもなく、大きな窓から外を見ていた。チャンスは今だ。「それでレックス——」 「どんなところで女の子に会うの?」レックスは振り向いて、エイデンを見た。 彼は瞬きした。「えっ?」 「どういうところで可愛い女の子を引っかけるのか、っていう意味よ」 彼はポカンとした顔をした。 眉毛を上げて彼をチラッと見た。「探し回る? くまなく調べまくる? 何て言ったらいいのか分からないけど」 「笑ったらいいのか、ウエイトを増やしたらいいのか、決めかねるなあ」 「やめて、ウエイトは増やさないで。真面目に教えて欲しいの」 「何で?」 「だって……」彼の目を見るのをためらった。 エイデンは、彼女が何か嘘をつこうとしているのではないかと疑った。ウエイトのキーに手を伸ばした。 「やめて!」手を伸ばして彼を制した。「いい男性を見つけないといけないの」 「君のおばあさんが、何人も連れて来てるんじゃないの?」 「違う、いい人じゃないとダメなの。バークレーのチケットが欲しくない人」 「それだけ?」 「そして、クリスチャン」 いつものように穏やかで無表情の顔を保つのではなく、目をぐるっと回してしまった自分に驚いた。「また、それ?」 「大事なの。宗教の違いのために離婚する人が何人いるか知ってる?」 「知らない、君は?」 「知らないけど、たくさんいると思うわ」 エイデンは腕を組み、彼女を見下ろした。「運動が足りないようだ」ウエイトのピンをつかみ、一つ下に動かした。 「ヘーイ!」 「そんなバカな質問をするぐらいだったら、もっと汗をかいた方がいい」 「祖母のせいよ。素敵なクリスチャンのデート相手を見つけないと、私の中学生女子バレーボールチームにお金を出してくれない、って言うの。その上、結婚もしないといけないって」 「そんなバカな話は聞いたことないね」 ...

【ひとり寿司】第28章

→ 作品ページにもどる 第28章 「ねえビーナス、お願い」装具をもっとしっかり脚に巻きつけようともがきながら、レックスは肩で携帯を持とうとした。 「ごめん、すごく仕事が忙しいの。トリッシュに行ってもらうように電話したから」 「トリッシュ? いつから彼女が私のお気に入りになったの?」立ち上がり、段ボール箱の間を通って、トイレにたどり着いた。 「ジェン、今週末は出かけてるの——ほんと、都合がいいわよね。だから、トリッシュかマリコのどっちかなのよ」 (うわっ)「分かった。何時に来てくれるの?」 「あの子が家を出るときにつかまえたから、もうすぐ来るはずよ」背景でボソボソ言う声が聞こえ、ビーナスの注意がそれた。 「……違うわ、アクション・アイテムを書くの……だから違う——」レックス、行かなきゃ、じゃあね。(カチャッ) ドアベルが鳴った。 トリッシュは痩せたようだ。ぼんやりした目の下には黒いくまができ、口の周りには、苛立っているようにシワが寄っている。「行きましょ」 車に乗るとすぐ、トリッシュは沈黙を破った。「話したくないのよ、分かる? 私たちさ、叔父さんのバースデーパーティに着くまで一緒にいなきゃならないの。だから、今は考えないようにしましょ」 「いいわよ」レックスの歯はかたく食いしばっていたが、腕を組むのはやめた。 「それで……さあ……PTはうまく行ってる?」 (誘導尋問か)マッサージをしてもらっていること、恐怖を克服したこと、その後の勝ち誇ったような気持ちを……アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップの王者のように……数週間前にはトリッシュに話していたことだろう。「うまく行ってるわ」我慢しきれなくて、もう少し掘り下げた。「エイデンが私のセラピストだって知ってた?」 トリッシュの目は風船のように膨らんだ。「エイデンがあなたのPTなの? 彼、元気にしてる?」 「元気よ。バレーボール友達が、みんな、彼を勧めたもんだから」 トリッシュは鼻をすすった。「あなたがクリスチャンだってことで、噛みつかれてない?」 「あなたは噛みつかれたの?」 「ずっとそうだったわ。だから、とうとう言っちゃったの。クリスチャンじゃないからもう付き合えないって。くどくど言われたくなかったし」 くどくど言うのはエイ...

【ひとり寿司】第27章

→ 作品ページにもどる 第27章 「頑張って! もっと早く! ペースを落とさないで」レックスは、ブロッキングのドリルをしている女子中学生らに手を叩いた。 ヴィンスが用意してくれた椅子には座らず、立ち上がった。腰が痛くなるからだ。CPMマシーンのために、腰はさらにひどくなった。女の子達のダッシュ、ブロック、ダッシュ、ブロックを見ながら背中を丸めたが、凝った筋肉は、ねじれてもっと硬くなる気がした。 「いいわよ! 切り上げましょう!」 「もう?」アシスタントコーチが、ささやこうとして近くに傾いてきたので、一歩離れた。 「ちょっと痛すぎて……」レックスはそれを認めながら、彼の顔を見なかった。ざらざらしたプラスチックの椅子を指で突っついて、不満の波をしずめた。投げるもの、叩くもの、壊すものは何もなかった。手術がコーチングの能力に影響するとは、思ってもいなかった。 「レックス?」 「何?」二人の女の子——十三ヶ月違いの姉妹——の方を向いた。 「この夏、プレイオフに行けないんです」姉の方が鼻をすすった。「行きたかったんだけど」 「どうしたの? 何かあった?」 「祖父の具合が悪くて、母が行って欲しくないって」妹の方は唇を噛んだ。 (何てこと。この子たちの夏はどうなるのだろう) 「大丈夫よ。おじいさんと一緒にいてあげて。そうするのがいいと思うわ」 二人がギアを脱ぎに行った後、レックスはこの忌々しい椅子に沈み込んだ。プレイオフに行けない子がもっと出てきたら、チームが作れない。祖母に支援を頼む必要もなくなるということか。ボーイフレンドを見つける必要もない。それに、いいガールフレンドになれる気もしなかった。 背中を伸ばそうと身を乗り出した。彼女はボロボロだった。彼女のチームもボロボロだった。 (私はすでにチームを失望させてる) いや、そんな風に考えることはできない。この敗北主義的な態度を振り落とさなくては。予言を自己達成することになってしまう。 背中をさらに伸ばした。彼女だって、PTに行って膝を強くしようと頑張っている。女子チームをもっと強くすれば、抜けた選手はプレイオフに必要なくなるだろう。できるはずだ。 できるはずだ。 ああ、疲れた。またイブプロフェンを飲まなくては。 ********** ...

【ひとり寿司】第26章

→ 作品ページにもどる 第26章 いや、彼のことは、少しも怖いと思わなかった。だって、あと数分後に、彼女は彼を殺すつもりだから。 「エイデン! 今の、本当に痛い!」レックスは、上半身を起こしてPT治療台を押し、エイデンの指によるマッサージ——いや、太腿の外側の拷問から逃げようとした。 エイデンの穏やかな声は、レックスを叫びたい気持ちにさせた。「腸脛靱帯はヒップから太腿、そして膝関節まで走ってる。これが硬くなると、怪我が起こるんだ」彼はもみ続けたが、戦闘靴で足をゆっくりと蹴られているように感じる。 レックスは治療台の端をつかんだ。「痛いのはもう十分じゃない? 手術して、水膨れもできた。鎮痛剤も使えなかった。覚えてる? ねえ!」 隣の治療台で別の患者を診ているもう一人のセラピストは、同情しながらも面白そうに見ていた。そっちの患者は、レックスの叫び声に反応して、青くなっていた。 レックスは気にしなかった。(罵声を浴びせてやろうか) やっとエイデンは手を止めた。「今日はこれぐらいでいいと思う」 「思う?」 「家でもやってみて。楽になってくるから」 「信じられないわ」患部をさすると、熱く敏感になっている気がした。それに、エイデンにさわられるのに慣れることが、理学療法の最も難しい部分だろうと思っていた。 「じゃあ、ジムでちょっとエクササイズしようか」 レックスは治療台から降りた。「エクササイズだったら、できるわ」 エイデンは患者エリアから公共のジムエリアに案内してくれた。「ちょっと筋萎縮があると思ってて」 「切ってから四週間なのに? 冗談じゃないわ。最高の体調だったのよ」 五分後、マラソンを走ったように息切れした。足は鉛のように重い。 「頑張れ」エイデンはレックスの前に立った。「足をもっと高く上げて」助手に頼む代わりに、彼は自分で彼女のエクササイズを指導することに決めた。レックスは、助手の方がよかったなと思った。そっちの方が親切そうに見えたから。 一方を足首に取り付け、他方に滑車がついたコードを引っ張ると、真っ直ぐ伸ばした足への抵抗が上がる。大腿四頭筋が燃えている。お尻の外側も。いい方の足も燃えている。 「もう一回」エイデンはレックスを見ていた。「もっと高く。いいよ」 足を下ろすのが少し早す...

神様はコピー機を直してくださるの?

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仕事でコピー機が壊れた時、神様は直してくださるのでしょうか? 詩篇には、ダビデが神様の力によって敵を打ち破ったり、城壁を越えたりした話がたくさん出てきます。 ……さすがにドラゴン退治まではありませんけど。 「神様には何でもできる」と頭では分かっています。 けれど正直に言うと、私は「山を動かせるほどの信仰」を持っているとは、とても思えません。 だから私は、イエス様にこう願った人の言葉に、すごく共感します。 「信じます。不信仰な私をお助けください。」 疑いたくないのに、どうしても「自分の目に見えるもの」や「自分の力」だけを頼りにしてしまうことがあります。 イエス様は「神には不可能なことはない」と言われました。 でも実際の毎日の中では、どうしたらいいのでしょう。 コピー機が壊れて、10分後の会議までに500枚印刷しなければいけない時。 締切一時間前なのにレポートが終わらない時。 六時間かけた実験を、一瞬で台無しにしてしまった時。 そんな時、私の頭の中を占める言葉は決まっています。 「私が」 「私の仕事が」 「私の努力が」 気づけば、自分のことばかり考えてしまっています。 もちろん、神様が突然白い服で現れて、「はい終了!」と魔法みたいに全部解決してくださるわけではありません。 コピー機が急に直るわけでも、締切が延期されるわけでも、落とした実験プレートが元に戻るわけでもない。 ……まあ、研究室で奇跡を祈ったことはありますけど。 でも、神様に心を向けて祈る時、不思議と気持ちが変わることがあります。 「全部自分で何とかしなきゃ」と握りしめていた力が、少しゆるむのです。 すると、落ち着いて別の方法を考えられるようになります。 二階のコピー機を使えばいいかもしれない。 集中すれば、レポートは間に合うかもしれない。 やり直しになっても、以前より早くできるかもしれない。 状況そのものは変わらなくても、心の中に少し余裕が生まれる。 私は、それも神様の助けなのではないかと思うのです。 スーパーヒーローみたいな力を感じるわけではありません。 でも、自分の不安ばかり見つめるのではなく、神様の愛に目を向ける時、苦しい状況の中でも前を向きやすくなる。 ……とはいえ。 いつか本当に、神様...

【ひとり寿司】第25章

→ 作品ページにもどる 第25章 「ミミに聞いてみよう」 「ええっ?」ベッドに横になりながら、レックスは痛む背中の後ろに置いてある枕を動かす手を止めた。「冗談だよね?」 ビーナスは携帯を出した。「あの子、何年か前に車の事故に遭った時の傷痕、全然ないよね。火傷がひどかったじゃない、あの時。あなたの水膨れをどうしたらいいか、聞いてみよう」 あのいとことは、クラスタシアン・レストランでゲス野郎のジョージを盗まれて以来、会ってなかった。 「だけど、ミミよ。あなたも好きじゃないと思ったけど」 「他にいい考え、ある?」 レックスはまたCPMマシーンを始動させ、徐々にひいてきた水膨れから波のように打ち寄せる痛みのために、顔をしかめた。「ないかもね」 ビーナスは電話をかけた。初めは少しとげとげしい話し方だったが、うまくいった。「ミミ、これから来るって」 「どうせ、私がひどい状態なのを見て、ほくそ笑むために来るんでしょ。期待しないことにする」 「スープを温めるわ。あなた、三日も食べてないでしょ」 レックスは枕にもたれた。CPMマシーンは左足ではなく、右足だけを動かしている——だから、仕事のために悪くなった脊椎の下の方がさらにひどくなった。 携帯が鳴った。「リチャード、何の用?」 「お気に入りのお兄さんに向かって、その言い方はないだろ」 「切るから——」 「待った、待った。行ってもいいか?」 警笛が鳴った。「何で? 病人のうちなんて来たことないでしょ」 「実は、友達と——」 「友達って? リチャード、私ね、手術したのよ」体を伸ばして、背中の痛みを和らげようとした。 「大丈夫か? 出血は?」 「三日間ゲロってる」 「ああ」間が空いた。「だけど、やっぱり連れていってもいいか?」 レックスは電話をパチっと閉じた。 ビーナスは、電子レンジのタッチパッドを押した。「最近、よく男を紹介してくるわね」 「そうなの。訳が分からない。多分おばあちゃんの差し金かも」 「だけど、おばあちゃんは彼の弱みを握ってないでしょ。どうしておばあちゃんの言うことを聞くのかなあ?」 「確かに」 生ぬるいチキンヌードルスープを半分食べ終わった頃に、ドアベルが鳴った。「ミミ、もう来たのかしら」もう一口、すすっ...

【ひとり寿司】第24章

→ 作品ページにもどる 第24章 トイレに行きたい。 手術台の上で何時間寝ていたのか知らないが、レックスは天井を見つめ、すっかり目が覚めていた。寝袋の中で寝そべっているビーナスの小さいいびきは、CPMマシーンが足を曲げ伸ばしするリズミカルな機械音と呼応しているようだ。 かわいそうなビーナス。あのネズミのことについて尋ねる余裕もなく(あの後、まだ見かけていない)、レックスのために全てを整えた後、疲れ果てて倒れ込んだ。今、彼女を起こすことはできない。 マシーンが足を曲げると、頭がかべにぶつかった。ベッドのバカ。斜めに寝ても、マシーンをつけて横になると短すぎることに、どうして気がつかなかったのだろう。スペースがないから、ベッドを壁から少し離すこともできない。ビーナスはベッドの足元に段ボール箱を引っ張ってきた。CPMマシーンが、レックスの足と一緒に滑り落ちないように、固定する必要があったのだ。足が真っ直ぐになるのを待って、電源を切った。 レックスは、アイスマシーンを抜いた——これも、ビーナスを疲れさせた理由の一つだった。レックスの小さい冷蔵庫は製氷機がついていないことが分かった後、ビーナスはスーパーまでアイスバッグを買いに行ったのだが、この氷は、レックスがバレーボールのために使っていた大きいクーラーの中でゆっくりと溶けた。ビーナスは、明日も氷を買いに行かなくてはならない。 レックスは、横に飛んでベッドから出なくてはならない——松葉杖につかまりながら飛ぶのは、大変なわざだ。延長コードでつまずきそうになった——家にあった延長コードは五○センチほど短すぎたので、ビーナスが(また)買ってきたのだった。 トイレは海の向こう側にあるように思えた。本当に、早く行かないとまずい。 狭いトイレまで、何かにぶつかりながら足を引きずり、トイレに座った。膝は鈍い痛みを感じているだけなので、よかった。ノボケイン(麻酔薬)はまだ切れていないようだ。 一日中ビーナスにきつく当たり、怒っていた。明日はもっといい子になろう。 最悪なことは終わったのだから。 ********** 「ノボケインが切れてきたみたい」これは報復だろうか。昨日の鈍い痛みは、関節に千本の針が刺さっているような痛みに変わった。 ビーナスは、スターマガジンから目を上げた。「バイコディ...