【ひとり寿司】第27章

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第27章


「頑張って! もっと早く! ペースを落とさないで」レックスは、ブロッキングのドリルをしている女子中学生らに手を叩いた。

ヴィンスが用意してくれた椅子には座らず、立ち上がった。腰が痛くなるからだ。CPMマシーンのために、腰はさらにひどくなった。女の子達のダッシュ、ブロック、ダッシュ、ブロックを見ながら背中を丸めたが、凝った筋肉は、ねじれてもっと硬くなる気がした。

「いいわよ! 切り上げましょう!」

「もう?」アシスタントコーチが、ささやこうとして近くに傾いてきたので、一歩離れた。

「ちょっと痛すぎて……」レックスはそれを認めながら、彼の顔を見なかった。ざらざらしたプラスチックの椅子を指で突っついて、不満の波をしずめた。投げるもの、叩くもの、壊すものは何もなかった。手術がコーチングの能力に影響するとは、思ってもいなかった。

「レックス?」

「何?」二人の女の子——十三ヶ月違いの姉妹——の方を向いた。

「この夏、プレイオフに行けないんです」姉の方が鼻をすすった。「行きたかったんだけど」

「どうしたの? 何かあった?」

「祖父の具合が悪くて、母が行って欲しくないって」妹の方は唇を噛んだ。

(何てこと。この子たちの夏はどうなるのだろう)

「大丈夫よ。おじいさんと一緒にいてあげて。そうするのがいいと思うわ」

二人がギアを脱ぎに行った後、レックスはこの忌々しい椅子に沈み込んだ。プレイオフに行けない子がもっと出てきたら、チームが作れない。祖母に支援を頼む必要もなくなるということか。ボーイフレンドを見つける必要もない。それに、いいガールフレンドになれる気もしなかった。

背中を伸ばそうと身を乗り出した。彼女はボロボロだった。彼女のチームもボロボロだった。

(私はすでにチームを失望させてる)

いや、そんな風に考えることはできない。この敗北主義的な態度を振り落とさなくては。予言を自己達成することになってしまう。

背中をさらに伸ばした。彼女だって、PTに行って膝を強くしようと頑張っている。女子チームをもっと強くすれば、抜けた選手はプレイオフに必要なくなるだろう。できるはずだ。

できるはずだ。

ああ、疲れた。またイブプロフェンを飲まなくては。

**********


アパートの縁石の前でエイデンを待ちながら、レックスの胃はかき乱された。胃が空っぽなのにイブプロフェンを飲んだからだ。究極の愚行だった。食べ物のことを考えるだけでも痛い。さらにひどいのは、背中の痛みが少しもよくならないことだった。

エイデンの車が入ってきたので、それに乗り込んだ。車を発進させた彼は、顔をしかめた。「どうしたの? どこが痛い?」

何で分かったのか? 「背中よ」

「ちょっと具合が悪そうにも見える」

「空っぽの胃にイブプロフェンを飲んだの」

「なるほど、ベッドの中に頭を置いてきたんだね」

「もう、うるさい」

「はい、パンでも食べて」後ろの席に手を伸ばし、彼女の膝に新しいローフ・パンをおいた。「今朝、買ってきたんだ」

二切れ飲み込むと、窓から頭を出したいという欲求はおさまってきた。

「それから、背中って……」エイデンは、クリニックの駐車場に入った。「新しい怪我?」

「古い怪我。腰が痛いの」レックスはぎこちなく車から出た。装具をつけているのと、背中の痛みが組み合わさって、アヒルのように優雅な動きだ。

「どこでそうなったの?」

「昔の職場の椅子が悪くて」

エレベータのボタンを押しながら、エイデンは顔をしかめた。「イブプロフェンでよくならない?」

レックスはエレベータに入り、ハンドレールにもたれた。「あまり」

エイデンはとても静かになった。彼女のことを観察し、目は探している……何を? やっと結論に達したようだ。

「君がよければ、助けになるよ」

「どうやって? 点滴に鎮痛薬でも入れるの?」

エレベータのドアが開いた。「マッサージできるよ」

踏み出した足が途中で止まった。筋肉が締めつけられ、腰がズキズキした。レックスは、エレベータから出るのを待ってくれているエイデンをじっと見た。エレベータのドアが閉まり始めたので、開けておくために彼は手を突き出した。

エレベータの外に出た。「分からないわ、エイデン」

「あのさ、何で男に触られたくないのか言う必要はないけど、僕が脚をさわるのには慣れただろ」

二人はジムのドアを通り、レックスは受付のカウンターでチェックインした。クレジットカードの伝票にサインをしながら、背中の筋肉をリラックスさせようとした。皮膚は過敏になり、Tシャツが擦れるのを感じた。

「そうだエイデン、お友達のスペンサーから電話があったわ」受付嬢はメッセージを書いたメモを渡した。「一時間後に来るそうよ」

「ありがとう」メモを手に取って、顔をしかめた。

レックスは、チラッと見ようとした。「何かトラブル?」

エイデンはメモをくしゃっ、とした。「いいや、それで、どうする?」

彼の目の中を見ると、そこにある穏やかさのために、胸の中にある震えがおさまっていった。彼はエイデン。彼女のセラピストだ。この恐怖症を何とかしなくては。

「分かったわ」

レックスは何かが爆発するか、ハレルヤコーラスみたいなものが起こると予想していた。しかし、そのいずれも起こらなかった。ただエイデンのゆっくりとした、心強く優しい微笑みだけだった。

別のセラピストが、肩の手術を受けた患者を担当している場所から少し離れたところに、治療台をセットした。そこに、彼女をうつ伏せに寝かせた。

そっと横になると、肩が痛み出した。すると、囲炉裏の火が腰の上でパチパチ音を立てた。それはだんだん弱くなったが、筋肉の緊張は、緩めることができないように思えた。

「Tシャツの上からマッサージするからね」エイデンの声がレックスの上で浮いている。脚を伸ばしているのに、彼はこれまで以上に近くにいるようだ。だから、微かな石けん、モミ、ジャコウのにおいがするのかもしれない。そのために、落ち着くことができた。肩甲骨は少しリラックスした。

これはエイデンだ。レックスは、彼を信頼した。

腕のマッサージに入った——安全な場所だ。びくっとするのを止めることはできなかった。彼は、優しくもむ動作を肩まで続けた。

一瞬、記憶が戻った。デート相手の息を、首に感じる。逃げ出そうとするうちに、肘と手がアパートのカーペットの上で熱くなった。彼の手は彼女の腕を押さえ、顔がカーペットに押しつけられている。こぼれたワイン、カビ、鼻を突く食用油のにおいを吸い込んだ。

ガタガタ震え出した。「やめようか?」

「だ、大丈夫」これと戦わなくては。

エイデンは続けた。「長く、深く呼吸して」

レックスはそれに従った。モミと、一筋のジャコウ。この匂いで肺を一杯にし、きれいにされていくのを想像した。

ゆっくりと、もんでいる彼の手に集中した。彼の忍耐にはびっくりした。彼女はいつも猛烈なスピードで動いていたというのに。

彼が腕のマッサージを終えた頃、その両手が彼女の肩をさわっていたのにビクッとしなかったこと、それが気にならなかったこと、それが怖くなかったことに気がついた。彼は、彼女の首に丸を描くようにさすった。とても気持ちがいい。頭蓋底の緊張は消えてなくなっていた。目の後ろの痛みは、和らいで初めて痛かったことに気がついた。背中には触ってもいないのに、背骨の付け根にあったコリコリは、少し小さくなった。

彼は指で圧迫し、丸を描き、押した。問題の場所に降りてきたのもほとんど気がつかなかった。背中のねじれは緩み、熱は冷めた。モミのように冷たく、一筋のジャコウのようにリラックスしている。

「はい、終わったよ」

痛みは完全にはなくなっていなかった——少し敏感な部分を感じる——しかし、何週間かぶりに、もっと滑らかに動くことができた。背骨は、骨と骨が擦れる老朽化した塊のようには感じなかった。

体を起こした。「ありがとう、エイデン」この言葉には、無限の意味が込められていた。

一瞬、彼の目が彼女の目と合い、レックスは分かった。言わなくても、彼には全て聞こえていたことを。プレードウ(工作粘土)のように一緒に丸められ——身体的感覚にも似た——引き伸ばされているような不思議な感覚だった。瞬きをしたら、その感覚は消えてしまった。

しかも、レックスはプレードウが大嫌いだった。

治療台から降り始めた。

「何やってるの?」

「どういう意味?」

「まだ終わってないよ。気分が良くなっただろうから、次はエクササイズだ」

**********


理不尽なのは分かっていたが、エイデンは鬼軍曹のように、レックスを急がせてジムでのエクササイズをさせた。スペンサーが来るまでに終えなくては。

時計をチラッと見た。三○分。もう少し彼女を急がせたら、冷やして電気刺激まで終わり、スペンサーが来るまでにあと数分。いつものように遅れて来てくれたら、ありがたい。

彼女をスペンサーに会わせることはできない。彼女は、自分のものだ。

そこだ、理不尽なのは。

彼女にマッサージをすることについては、何か煮え切らないものがあった。何十回もマッサージをして、その手順自体が気まずくなることはないのだが、彼女の場合は違うかもしれないと思っていた。彼は、キングコングより強く、アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(総合格闘技)の王者より勝ち誇った気持ちになるだろうと思っていた——彼女が彼に対する恐怖を克服すれば。

社交的なスペンサーとは違い、エイデンはカジュアルに人に触れるタイプではなかったが、彼女がマシーンに座るとき、その首筋を見て、そのピンとはった皮膚をなでたい気持ちになった。気分を和らげ、励まし……所有するために。

特定の患者と親しくなったことは一度もない——いつも仕事として距離を置いてきた。しかし、レックスがACLを切ってしまう前から、彼女と一緒にいるのが好きだった。どうしてだか分からないが、いつも、彼女が最悪の状態にいる時に立ち会ってしまう。彼の制御された秩序ある世界に、彼女は竜巻のような混沌を引き起こした。

「あと五回ね」

あと一回という時に、彼は鋭い声で駆り立てたが、彼女は笑った。愚痴をこぼしながら、その口調は半ば彼をからかっているように聞こえ、その目はいたずらっぽく光っている。彼が駆り立ててくれることに感謝していた。口にはしなかったが、回復とリハビリに集中する彼女の強い決意を彼は理解していた。今、マシーンの上でこのセットを終わらせようと懸命に努力する姿からも、それは明らかだった。

この関係は、一体何だろう? エイデンは自然にトリッシュに惹かれたが、彼女に誘惑されたことは一度もなく、彼女の口説きを拒否したことを後悔していない。レックスとトリッシュは、似ているところが多くありすぎた——顔、家族、宗教。特に宗教については、トリッシュがそれを持ち出すたびに、彼は後ずさりした。彼女の行動が、彼女が従っていると主張するモラルと矛盾していたからだ。

レックスはレッグプレスに移り、始める前に動きが止まった。「私たちが初めて会ったときのこと、覚えてる?」

「あの——」違う、コーヒーショップでは、彼女は彼を見ていない。「——グラスバレーのトーナメント?」

「そうそう、教会のことを聞いてたでしょ。あれって、どういう意味だったの?」

避けたいと思っている話題を持ち出すなんて、彼女は彼の心が読めるのだろうか? 「ちょっと興味があっただけ」

彼女はセットをこなしながら、低くうなった。「最近、ちょっと考えてるの」

「怪我しないようにね」

彼女は彼をにらんだが、その無表情な顔を楽しんでいるようだった。そして気分が変わり、その目が流れてきた。「トリッシュが……あなたに近づいたんだよね」

彼は平静を保っていたが、トリッシュの名前を聞いて、わき起こる緊張が皮膚の上で波打つのを感じた。「誰に聞いたの?」

「リチャード」

「へえ、じゃあ次のセットね」マシーンを軽く叩いた。早くこれを終わらせよう。

あと十五回繰り返しながら、彼女は汗をかき、食いしばった。終わると、ウエイトがカチッと鳴った。「トリッシュと私ってね、大学生の時にクリスチャンになったんだ」

聞きたくない。「ほんと?」

「だけどここ数年、あの子……ちょっと乱れちゃって。毎週、教会に来なくなっちゃった。今の彼ができてからは、全然来てないの」

それは、自分とどんな関係があるのだろう? 「それで?」

「クリスチャンじゃない男性とデートすることについて、トリッシュが何か言った後だったんだよね……あなたが教会のことを聞いてきた時の言い方が……」レックスはため息をついた。

「最後のセットだよ」エイデンは、マシーンの足元にもたれた。

レックスは全力でセットをこなし、終わったときは激しく呼吸していた。

「冷やして電気刺激ね」 エイデンは患者エリアへ向かった。レックスはその後ろをついていく。彼女の注意をそらすことができるかも——

「あなたはクリスチャンじゃないの?」

彼は唇を固く閉じた。レックスの方を向いていないので、その顔が見えない。「違うよ」

彼女は返事をしなかった。しかし彼は、この話題がまだ終わっていないと理解した。彼女は彼について患者エリアに入り、治療台の上にのった。彼は膝の周りに電極をつけ始めた。

レックスは、彼の目を見たいのに目を合わせることができないかのように、彼の顔を見たり、目を離したりした。「それって……トリッシュが……何で……」

エイデンはため息をついた。「そんなにこの話がしたいの?」

「知りたいだけよ」

「何でだよ?」

「分からない」

彼女の率直さには、いつも驚かされた。彼は頭をかいた。「トリッシュのこともあるけど、ずっと昔に付き合った女の子がクリスチャンだ、って言ってたんだ。君は、クリスチャンがみんなそうじゃないって言うだろうけど——」彼は、口をはさもうとした彼女を制止した。「——偽善的なクリスチャンをたくさん見てきたんだよ」

しかしその時、友達のスペンサーの顔が目の前でチラついた。スペンサーは宗教のことをうるさく言ったり、詰問したり、口論するようなことは、決してしない。エイデンは、彼のことを少しチャラチャラしていると思っていたが、友達としていつもそこにいてくれるのが、スペンサーだった。

粘着パッドを彼女の膝にはり終えた。

「私も……?」

その時、彼女は彼を見ていた。彼女については、そんなことを考えたことがなかった。「いいや、心から愛情深いクリスチャンがいるのは知ってる。だけど、心から愛情深い無神論者も山ほど知っている」

レックスはうなずいて、下を向いたが、何も言わなかった。

急がなくては。エイデンはアイスバッグを彼女の膝に巻いて、電気刺激を始めた。

そのまま出ていってもよかったのだが、彼女をそこに残したままにしたくなかった。「あのさ、僕は、クリスチャンと議論したり、クリスチャンの偽善を暴きたがってる奴らとは違う。だけど、僕が何を信じて、何を信じないかについて君や誰かに聞かれたら、嘘はつかないよ」

彼女はひどく動揺しているようには見えなかった——もっと身構えるかと思ったのに。いったい彼は、彼女からどんな反応を期待していたのだろう? 冷笑? 彼女がそんな風に反応するはずがないことは分かっていたはずだ。

それどころか、彼女は肩をすくめた。「それがあなたなんだから、いいのよ」

彼女の失望が見て取れた時、何故か、かみそりの刃で切られたように傷ついた。

彼は時計を見た。冷やし終わり、時間はあと三分残っている。

「あっちで待ってるわ」レックスは待合室に向かった。

エイデンが片付けていると、受付嬢が患者エリアに入ってきたので、彼女の方を向いた。「スペンサーがきたら、すぐに帰って来るって——」

「ヘーイ」待合室から、聞き慣れた、嬉しそうな声が流れてきた。

(ヤバイ)

「僕、スペンサー」

「こんにちは。あなたって、いつもこんなに人なつこかった?」

レックスの少し辛らつな返事を聞いて、角を曲がろうとしたエイデンは立ち止まった。スペンサーはレックスの隣でうろうろし、レックスは受付のカウンターに何気なくもたれていた。

「スペンサー、こちらは僕の患者のレックス」

「どうも」両手を出すスペンサーの握手は悪名高い。レックスの肩がピンと硬くなり、笑顔が固まったことには、気づいていないようだ。彼女は手を引っ込めた。

エイデンは、ある思いに駆られた。ただ確かめてみたかっただけなのかもしれない……何を? 深く考えていなかった。後ろからレックスに近づき、スペンサーが見ていないことを確認して、彼女の背中を軽くさわってみた。

彼女は反応しなかった。

胸の中に何かが芽生えた。フリースローがネットにシュッと入ったような気分になった。

スペンサーがチャーミングに微笑んだ。「エイデンにきつくされてない? 僕が説教しとこうか?」

レックスは半分閉じた目で、冷静な表情を向けた。「十分きつくされてるわ」

「君みたいなかわいい子にきつくするなんて、どう言うことだ? ハーシーズが倒産するぞ」

彼女は笑い出した。「そうよ、そんなことしないでね」

スペンサーが、その温かい本物の笑顔で楽々とやってのけたことを、エイデンは認めざるを得なかった。しかし、これ以上、彼女がスペンサーの人を惹きつける魅力を味わうのを許すわけにはいかない。ましてや彼がシングル(最近ガールフレンドと別れたばかりだ)で、しかもクリスチャンだということを知られてはならない。今のエイデンにとって、スペンサーは、エデンの園にいる蛇のようだった。

ピーナッツバターとジェリーのサンドイッチのように、レックスにくっついていたかったが、エイデンは彼女から離れた。患者とセラピストとしての距離を置くことによって、スペンサーの目をくらますことができるだろう。「悪い、スペンサー、レックスを家に送らないといけないんだ。十五分で戻るから」ドアに向かった。

装具をつけているために、まだ足を引きずっているレックスが追いつけるように、彼は外で待っていた。「彼、トリッシュの製薬会社で働いてるの」

エイデンは横目でレックスを見た。「そうなの?」

「話したことはなかったんだけど、あなたが彼とランチをしに行った時、私はトリッシュと食べに行ってたのよ」

やっと思い出した。「あいつ、親友なんだ」

「あなたたちって、油と酢みたいね」

「どっちが油で、どっちが酢?」

彼女はクスクス笑った。クスクス笑うなんて、彼は滅多に見たことがなかった。「もちろん酢はあなた」

「じゃあ、スペンサーが油?」

「うん、彼にはぴったりだわ」

「どういう意味?」

「誤解しないでね。いい人だと思うけど、調子がいいところがある。兄のリチャードみたいに」

エイデンは、驚きを隠したと思ったのだが、エレベータを待ちながら、彼女はふくれっ面をした。「何かおかしい?」

肩をすくめた。「大体さ、女性はあいつのことを『チャーミング』とか『スイート』とか『キュート』っていう言葉で表現するけどね」

レックスはバカ笑いした。「やめてよ。私、ああいう男の子たちと育ったの。いとこの男の子たちの中では、リチャードが最悪ね」エレベータに入った。「笑顔がかわいい男の子っていうだけよ。女の子がうちに帰った後でどんなことを考えるのか、ずーっと聞かされてきたの」

彼女の表情豊かな顔が、彼に微笑んでいる。スペンサーに対して見せた、少しひねくれた仮面とは、何と対照的なのだろう。彼女がエイデンを見る目は、あいつらを見る目と違っていた。

もしかしたら、彼女は違うのかもしれない。


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