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Showing posts from June, 2026

【ひとり寿司】第34章

→ 作品ページにもどる 第34章 「ヘーイ、レックス、友達の——」 「今はやめて、リッチ」レックスは、ドアを押えてくれているリチャードと、その痩せた男「友達」を過ぎ、足を踏み鳴らして祖母の部屋の前まで行った。 「おいおい」リチャードは、彼女が過ぎていく前に腕をさっとつかんだ。 「おばあちゃんに挨拶しなきゃ」 「ジェンのお母さんと話してる。待ってくれるよ。それで、紹介するよ——」 「こんにちは」レックスは手を出した。ミスター・スキニーは、ベタベタした手でその手を握った。 「レックスです。リチャードが何て言ったか知らないけど、私は興味ないから」キッチンへ向かった。 「レックス」ありがたいことにミスター・スキニーを居間において、リチャードが追いかけてきた。 「頼むよ、今日だけは俺に優しくしてくれ。男の子の日だから」 「違う、五月五日は『こどもの日』よ。男の子の日じゃない。つまり、あなたに親切にする必要はないって意味。一体何なのよ。あんな人たちがあんたの男友達なの?」 「誰のことだよ」リチャードは、突然、リノリウム(床の材料)に魅力を感じ出したようだ。 「まるで男性エスコートサービスね」 「ええっ?」彼の男らしさをついた一撃が、明らかに彼を突き刺したようだ。「違う。俺は社交的なんだ。お前もちょっと見習ったほうがいいぞ」 「そこらの落伍者を紹介しといて、私に説教しよう、っていうの? どんな人なのか、ほとんど知りもしないくせに」 「そんなこと、どうして分かるんだよ? 親友かもしれないだろ」 「あなたの友達はみんな見てきた。あなたみたいな人ばかりよ。居間でミスター・スキニーと一緒に死にたくないでしょ? 叔父さんのバースデー・パーティの食いしん坊もそう、それに——」 「お前の女らしい感性に訴える繊細な奴を探そうとしてるんだよ」リチャードは手を上げて、胸を押さえた。「お前のためと思ってやってるんだ」 レックスは、面と向かって兄をあざ笑った。その朝、エイデンとケンカになって以来初めての、悲しくない感情だった。「他には?」 リチャードは急いで考えようとしたが、金魚のように口を大きく開けただけだった。 「考えてる間に、おばあちゃんに挨拶してくるわ。縁を切られそうだから」 ジェニファーの両親の家の奥にあ...

居場所がないと感じるあなたへ

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私はハワイの生まれですが、「島国育ちの少女」のように感じたことはありませんでした。友達とは違うことが好きだったので、何か自分は溶け込めないところがあると感じていました。ロマンス小説が好きでしたが、友達の中で小説を読む人などほとんどいませんでした。アニメや漫画も好きでしたから、「おたく」のように見えたかもしれません。私はブロードウェイミュージカルの音楽が好き、でもほとんどのクラスメートはラジオで流れる音楽やハワイの音楽が好きでした。 家族は私のことを愛してくれましたが、心から理解してくれませんでした。人気があるテレビ番組も見ないし、世の中の出来事にもついていけませんでした。 どこにも居場所がないような気がしていました。 私が他の人と同じではなくても、イエス様は私を愛し、受け入れてくれる——だからクリスチャンになりました。私が人気者でなくても、友たちがたくさんいなくても、イエス様は気になさいません。 イエス様が癒されたらい病人は、社会的のけ者でした。不治の伝染病のため、人々は彼を避けました。仕事もできません。周りに他のらい病人がいなければ、友たちは一人もいなかったでしょう。家族ですら話しに行くことができませんでした。 しかしイエス様は、何年も親切な態度で人に触れられたことがなかったそのらい病人に触れ、彼を癒されました。 百人隊長はローマ人の中でとても尊敬されていましたが、ユダヤ人ではなかったので、ユダヤの人々は彼のことを「不潔」であると考えていました。ユダヤ人であるイエス様は、彼と交わるべきではなかったのです。 それでもイエス様は百人隊長の信仰を褒めました。ユダヤ人とは違い、その百人隊長はイエス様が神から送られたお方であることを認めたからです。 イエス様は、のけ者に触れ、友人になるべきではない人を褒めました。今でも私たちの一人一人に対し、イエス様はこのようなことをなさいます。私に癒しが必要なときには癒してくださり、私が恥ずかしいと思っていること全てを赦してくださいます。 居場所がないと感じることはありますか?イエス様はあなたを愛し、あなたを慰め、癒したいと願っておられます。

【ひとり寿司】第33章

→ 作品ページにもどる 第33章 スペンサーと一緒に前の列に座ると、牧師の説教の標的になるのではないかと思ったが、牧師はエイデンのことをチラリとも見なかった。 説教は、知性ではなく心に焦点を当てていた。二週間前に話した時、牧師はエイデンの質問に対し、論理で答えたのだが、あの時とは対照的だ。 「神様は私たちを解放してくださいます」メモを見て、水を一口飲んでから続けた。「ですが、これは誰にとっても同じではありません。身体的な監禁からの解放もあれば、精神的な監禁からの解放もあります。欠点からの解放や、隠れ続けることからの解放も」 これは自分に対するメッセージではないのかと、エイデンは思った。無表情の仮面の裏に隠れ、いつも穏やかで主導権をにぎっているように見える彼の性格について話したからだ。 講壇から、牧師は会衆に指を振った。「神様はあなたを解放したいと願っています。あなた方一人一人を愛しておられます」 エイデンにとって、それは信じ難いことだった。ギデオンが一頭分の羊の毛を打ち場に置いて神様を試したように、神様に証拠を求めてみてはどうかと牧師は言っていたのだが、エイデンはどうやってそうするのかが分からなかった。 牧師が言った一つのことが、まだ彼の心の中で響いていた。(エイデン、信仰に踏み出す前に、全ての答えを見つける必要はないんだよ) 今、彼の話を聞いていると、エイデンは、判断基準が十分ではないという事実と格闘していた。そして、それが信仰というものだった。 (分かった)深く座り直した。神様への道筋をどうやって開くのかは分からないが、神様は彼のことを聞いていると仮定した。(じゃあ、僕に証明してください。信じることは約束しません。だけど聞いています。変化を見せてください) それだ。 雷鳴が響き渡る啓示(神が真理を人間にあらわし示すこと)も、花火も、感情のほとばしりもない。 それで? 変わったことは何も感じない。どうすればいいのだろう? 牧師は突然、エイデンの方を見て、説教の途中で話すのをやめた。そして、また話し出した。 何か変だった。 隣のスペンサーは横を向き、じっと彼を見た。そして、元に戻った。 ふーむ。 そして、スペンサーが横に傾いてきた。「礼拝の後、釣りに行こうよ」 「オッケー」 *****...

【ひとり寿司】第32章

→ 作品ページにもどる 第32章 エイデンは深呼吸し、ドアをノックした。 「どうぞ」 中に入りながら、不法侵入者になった気がした。「先生、前にお会いしたことが——」 「覚えてるよ」牧師は手を振って、エイデンを招き入れた。 作り笑顔もなく、何かを売ろうとしているセールスマンに似たところは微塵もない。牧師は、デスクの前の椅子を身振りで示した。 「エイデンです」姓はない。「また壁の絵を見にきました」 「いくらでもどうぞ」 前の時と同じように、お腹を蹴られるようだった。本当の肉体的な痛み。ただの絵を見てこうなることは、予想もしていなかった。「誰が描いたんですか?」 「別の教会が画家を雇って礼拝堂に飾ろうとしたんだが、出来上がったものが……ちょっと衝撃的すぎた。それで、僕が買ったんだよ」 「それはどうして?」 「君なら分かるよ」牧師の率直な声は、中立的なままだった。「君は、もう一度見るために戻ってきたんだから」 エイデンはじっとしていられなかった。足を引きずった。「僕は……」 「言いたくなければ、何も言わなくていい。また見にきてもらっても、全然構わないし」 この人の目に見える誠実さ。エイデンは、突然、それがいかに自分と異なるものかに気づいた。彼は、いつも何か閉鎖されていて、制御されたものの中にいた。「先生はこれを見て、何を感じられますか? 見ていると、慣れるものですか?」 その絵を見る牧師の目は、悲しんでいるようだった。「慣れないね。一生慣れることがないよう祈るよ」 エイデンは何も言わなかった。手を伸ばして、キリストの体に突き刺さった釘をさわってみた。 「キリストの苦しみは、いつも私の苦しみ。これを忘れてはいけない。忘れたくない。苦しんでいる人には、手を差し伸べ続けたいと思う」ため息をついた。「いつもそんな風にできるとは限らない。うまくいくことより、失敗することの方が多いんだよ」 「どうしてそうしようと思うんですか?」 「しないでおく余裕がない。彼を見て」その絵に懇願するように、手を伸ばした。「このお方は諦めないから」 エイデンは頭を振った。「僕には訳が分かりません」 牧師は肩をすくめた。「信じるようになれば、分かるんだよ。僕が言えるのは、それだけだ」 「もっと分からなくなりました」...

【ひとり寿司】第31章

→ 作品ページにもどる 第31章 レックスは、請求書の海の中で溺れ死にそうだった。 正確には、医療費。医療休暇中、少しは給料をもらっていたが、MRIの請求額を見たら、泣きたくなった。あと一週間で仕事に復帰する——給料が出たら、多分払えるだろう。 携帯が鳴った。「ハロー?」 「チェスターだ」 「ああ、どうしたの?」 「お前、医療休暇中なんだろ。だから言っとこうと思って——今日SPZが給与カットを発表したんだ」 「ええっ?」 「レイオフ(一時的解雇)する代わりに、全員の給料を一〇パーセント減らして、四半期の業績不振を埋め合わせるらしい」 クビにならなかったのだから、喜ぶべきだろう。だけど、一〇パーセント? 「チェスター、手術の請求書があるんだけど」 「俺に文句を言うなよ。こっちだって家のローンがある」 レックスはため息をついた。「教えてくれて、ありがとね」 「もちろん」電話を切った。 すぐにまた電話が鳴った。「ハロー?」 「やあ、レックス。アイクだ。今晩、暇? アイスクリーム持ってくから一緒に食べない?」 (おおっ)積極的とはこういうことか。なれなれしく触わる性癖はさておき、チャーミングで、見栄えがし、会話も上手だ。「もちろんよ」道順を教えた。 アイクは、パイントサイズのベン&ジェリーズを四種類持って、やってきた。 「どんなのが好みか分からなかったから、色々持ってきたよ」 「嬉しいわ。私の兄と父だったら、私に聞かないで自分たちが好きなものを買ってくるから」彼を中に入れて、ドアを閉めた。 アイクは、簡易キッチンまで小股で歩いた。彼女の目の奥をじっと見た。「そうだよ、僕は君のお兄さんじゃないからね」 ダークブルーの目。いかつい顔。実物のマイケル・ヴァルタン。(嫌いなところは、見当たらない) 彼女はチャンキーモンキーをつかみ、彼はクッキードウを取った。残りは小さい冷凍庫に押し込んだ。 彼らはカウンターにもたれ、話しながら食べた。 アイクは、時々寄せ集めのバスケットボールゲームに出たり、友達とのフットボール、教会でのソフトボールなど、週末戦士的なスポーツが好きなようだった。ジムに行くことでシェイプアップしていると言う。「日曜日に何も話せなかった気がしたから、もっと君のことを知りた...

【ひとり寿司】第30章

→ 作品ページにもどる 第30章 エイデンは、ここまで退屈したことがない。聖書朗読は永遠に続いた。「詩篇」の章全体を読む必要があるのだろうか? ワーシップソングもそうだ。繰り返しが多く、テンポは遅い。 そこで、レックスを見た。その顔には、彼が見たことがないような静けさが見えた。平安と安心が。 不快なことに気づいた。彼が音楽を嘲笑っている一方、彼女はそれによって心の荷を降ろしているように見えたのだ。最後に彼が心の荷を降ろしたのはいつだっただろうか? いや、誰に対しても、荷を降ろしたことは一度もない。そのような解放や安堵のようなものを感じたことは、一度もなかった。 喉が渇いた。 エイデンは礼拝堂を出た——ほとんどの人は、彼が出たことに気づきもしない。冷水器は、男性用トイレの隣にあった。 一口飲んだ。そしてもう一度。中に戻るつもりはない。本当に。また飲んだ。胃が水の過剰摂取に抵抗したが、それでもまたすすった。 音楽が終わり、牧師が説教を始めた。礼拝堂に戻った。 つまらない、つまらない、つまらない。 礼拝が終わった時、間違えた。最初に出るべきだった。レックスと彼女の同伴者が通路を通って礼拝堂の後ろに歩いていくのを見て、椅子にしゃがみこんだ。少し待って立ち上がると、彼らはソーシャルホールの入り口で集まっているではないか——ロビーまで見通せる。教会からおどり出ようとすれば、レックスに見られてしまうだろう。 ためらった。出口は他にないだろうか? 突然、レックスが別の女の子とロビーに現れた。エイデンは靴ひもを直すふりをしてしゃがみ込んだ。靴ひもなどないのに。 「ハーイ、アイク——あっ!」色っぽい声が頭の上で聞こえた。「ごめんなさい。アイクだと思ったわ」 エイデンは背筋を正した。二一世紀のロリータが、気のあるそぶりをして金髪の頭を傾け、彼の個人空間に侵入してきた。レックスはいなくなっていた。「サロメです」 「エイデンです」 「お会いできて嬉しいわ」まつ毛をゆらゆらさせている。 「ああ……僕も」 「それで……お一人?」 「あの……ええ」何故、お腹を空かせた雌ライオンにつけ回されるガゼルになった気がするのだろう。 「そうなの? よかった、独身者グループを紹介するわ」 「だめだ! いや……結構です...

【ひとり寿司】第29章

→ 作品ページにもどる 第29章 それは、本当に良い考えだったのだろうか? 違う、どうしてだろう? しかし、もしかしたら何とかなるかもしれない。彼女は違った。聞いてみることに、何の害があるだろう? 彼女をデートに誘うつもりなら、急がなくては。残っているのはレッグプレスだけ。煮え切らない時間が長すぎた。マシーンに座っている彼女は、何を見るというわけでもなく、大きな窓から外を見ていた。チャンスは今だ。「それでレックス——」 「どんなところで女の子に会うの?」レックスは振り向いて、エイデンを見た。 彼は瞬きした。「えっ?」 「どういうところで可愛い女の子を引っかけるのか、っていう意味よ」 彼はポカンとした顔をした。 眉毛を上げて彼をチラッと見た。「探し回る? くまなく調べまくる? 何て言ったらいいのか分からないけど」 「笑ったらいいのか、ウエイトを増やしたらいいのか、決めかねるなあ」 「やめて、ウエイトは増やさないで。真面目に教えて欲しいの」 「何で?」 「だって……」彼の目を見るのをためらった。 エイデンは、彼女が何か嘘をつこうとしているのではないかと疑った。ウエイトのキーに手を伸ばした。 「やめて!」手を伸ばして彼を制した。「いい男性を見つけないといけないの」 「君のおばあさんが、何人も連れて来てるんじゃないの?」 「違う、いい人じゃないとダメなの。バークレーのチケットが欲しくない人」 「それだけ?」 「そして、クリスチャン」 いつものように穏やかで無表情の顔を保つのではなく、目をぐるっと回してしまった自分に驚いた。「また、それ?」 「大事なの。宗教の違いのために離婚する人が何人いるか知ってる?」 「知らない、君は?」 「知らないけど、たくさんいると思うわ」 エイデンは腕を組み、彼女を見下ろした。「運動が足りないようだ」ウエイトのピンをつかみ、一つ下に動かした。 「ヘーイ!」 「そんなバカな質問をするぐらいだったら、もっと汗をかいた方がいい」 「祖母のせいよ。素敵なクリスチャンのデート相手を見つけないと、私の中学生女子バレーボールチームにお金を出してくれない、って言うの。その上、結婚もしないといけないって」 「そんなバカな話は聞いたことないね」 ...

【ひとり寿司】第28章

→ 作品ページにもどる 第28章 「ねえビーナス、お願い」装具をもっとしっかり脚に巻きつけようともがきながら、レックスは肩で携帯を持とうとした。 「ごめん、すごく仕事が忙しいの。トリッシュに行ってもらうように電話したから」 「トリッシュ? いつから彼女が私のお気に入りになったの?」立ち上がり、段ボール箱の間を通って、トイレにたどり着いた。 「ジェン、今週末は出かけてるの——ほんと、都合がいいわよね。だから、トリッシュかマリコのどっちかなのよ」 (うわっ)「分かった。何時に来てくれるの?」 「あの子が家を出るときにつかまえたから、もうすぐ来るはずよ」背景でボソボソ言う声が聞こえ、ビーナスの注意がそれた。 「……違うわ、アクション・アイテムを書くの……だから違う——」レックス、行かなきゃ、じゃあね。(カチャッ) ドアベルが鳴った。 トリッシュは痩せたようだ。ぼんやりした目の下には黒いくまができ、口の周りには、苛立っているようにシワが寄っている。「行きましょ」 車に乗るとすぐ、トリッシュは沈黙を破った。「話したくないのよ、分かる? 私たちさ、叔父さんのバースデーパーティに着くまで一緒にいなきゃならないの。だから、今は考えないようにしましょ」 「いいわよ」レックスの歯はかたく食いしばっていたが、腕を組むのはやめた。 「それで……さあ……PTはうまく行ってる?」 (誘導尋問か)マッサージをしてもらっていること、恐怖を克服したこと、その後の勝ち誇ったような気持ちを……アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップの王者のように……数週間前にはトリッシュに話していたことだろう。「うまく行ってるわ」我慢しきれなくて、もう少し掘り下げた。「エイデンが私のセラピストだって知ってた?」 トリッシュの目は風船のように膨らんだ。「エイデンがあなたのPTなの? 彼、元気にしてる?」 「元気よ。バレーボール友達が、みんな、彼を勧めたもんだから」 トリッシュは鼻をすすった。「あなたがクリスチャンだってことで、噛みつかれてない?」 「あなたは噛みつかれたの?」 「ずっとそうだったわ。だから、とうとう言っちゃったの。クリスチャンじゃないからもう付き合えないって。くどくど言われたくなかったし」 くどくど言うのはエイ...

【ひとり寿司】第27章

→ 作品ページにもどる 第27章 「頑張って! もっと早く! ペースを落とさないで」レックスは、ブロッキングのドリルをしている女子中学生らに手を叩いた。 ヴィンスが用意してくれた椅子には座らず、立ち上がった。腰が痛くなるからだ。CPMマシーンのために、腰はさらにひどくなった。女の子達のダッシュ、ブロック、ダッシュ、ブロックを見ながら背中を丸めたが、凝った筋肉は、ねじれてもっと硬くなる気がした。 「いいわよ! 切り上げましょう!」 「もう?」アシスタントコーチが、ささやこうとして近くに傾いてきたので、一歩離れた。 「ちょっと痛すぎて……」レックスはそれを認めながら、彼の顔を見なかった。ざらざらしたプラスチックの椅子を指で突っついて、不満の波をしずめた。投げるもの、叩くもの、壊すものは何もなかった。手術がコーチングの能力に影響するとは、思ってもいなかった。 「レックス?」 「何?」二人の女の子——十三ヶ月違いの姉妹——の方を向いた。 「この夏、プレイオフに行けないんです」姉の方が鼻をすすった。「行きたかったんだけど」 「どうしたの? 何かあった?」 「祖父の具合が悪くて、母が行って欲しくないって」妹の方は唇を噛んだ。 (何てこと。この子たちの夏はどうなるのだろう) 「大丈夫よ。おじいさんと一緒にいてあげて。そうするのがいいと思うわ」 二人がギアを脱ぎに行った後、レックスはこの忌々しい椅子に沈み込んだ。プレイオフに行けない子がもっと出てきたら、チームが作れない。祖母に支援を頼む必要もなくなるということか。ボーイフレンドを見つける必要もない。それに、いいガールフレンドになれる気もしなかった。 背中を伸ばそうと身を乗り出した。彼女はボロボロだった。彼女のチームもボロボロだった。 (私はすでにチームを失望させてる) いや、そんな風に考えることはできない。この敗北主義的な態度を振り落とさなくては。予言を自己達成することになってしまう。 背中をさらに伸ばした。彼女だって、PTに行って膝を強くしようと頑張っている。女子チームをもっと強くすれば、抜けた選手はプレイオフに必要なくなるだろう。できるはずだ。 できるはずだ。 ああ、疲れた。またイブプロフェンを飲まなくては。 ********** ...