【ひとり寿司】第29章
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それは、本当に良い考えだったのだろうか?
違う、どうしてだろう?
しかし、もしかしたら何とかなるかもしれない。彼女は違った。聞いてみることに、何の害があるだろう?
彼女をデートに誘うつもりなら、急がなくては。残っているのはレッグプレスだけ。煮え切らない時間が長すぎた。マシーンに座っている彼女は、何を見るというわけでもなく、大きな窓から外を見ていた。チャンスは今だ。「それでレックス——」
「どんなところで女の子に会うの?」レックスは振り向いて、エイデンを見た。
彼は瞬きした。「えっ?」
「どういうところで可愛い女の子を引っかけるのか、っていう意味よ」
彼はポカンとした顔をした。
眉毛を上げて彼をチラッと見た。「探し回る? くまなく調べまくる? 何て言ったらいいのか分からないけど」
「笑ったらいいのか、ウエイトを増やしたらいいのか、決めかねるなあ」
「やめて、ウエイトは増やさないで。真面目に教えて欲しいの」
「何で?」
「だって……」彼の目を見るのをためらった。
エイデンは、彼女が何か嘘をつこうとしているのではないかと疑った。ウエイトのキーに手を伸ばした。
「やめて!」手を伸ばして彼を制した。「いい男性を見つけないといけないの」
「君のおばあさんが、何人も連れて来てるんじゃないの?」
「違う、いい人じゃないとダメなの。バークレーのチケットが欲しくない人」
「それだけ?」
「そして、クリスチャン」
いつものように穏やかで無表情の顔を保つのではなく、目をぐるっと回してしまった自分に驚いた。「また、それ?」
「大事なの。宗教の違いのために離婚する人が何人いるか知ってる?」
「知らない、君は?」
「知らないけど、たくさんいると思うわ」
エイデンは腕を組み、彼女を見下ろした。「運動が足りないようだ」ウエイトのピンをつかみ、一つ下に動かした。
「ヘーイ!」
「そんなバカな質問をするぐらいだったら、もっと汗をかいた方がいい」
「祖母のせいよ。素敵なクリスチャンのデート相手を見つけないと、私の中学生女子バレーボールチームにお金を出してくれない、って言うの。その上、結婚もしないといけないって」
「そんなバカな話は聞いたことないね」
「本当よ。祖母は変わり者なの。すでに山ほど孫も曽孫もいるのに。支配欲が強すぎるのよ」
「どっちもどっちだ」彼はつぶやいた。
「ええっ?」
「別に」
「あなたには分からない。絶望的なの。それに、その人は信頼できる人じゃなきゃいけない……分かるでしょ。この繊細な問題」頬が赤くなったが、運動したためではない。
ふと彼は、これが彼女にとっていかに難しいことなのかに気がついた。クリスチャンの男なら安全なのだろう——車の後部席でフレンチキスも、濃厚なペッティングもしないだろうから。
しかし、彼女をぐらつかせたいと思う部分もあった。彼女はすでに、彼に心地よさを感じていた。何故、つまらない偽善的なクリスチャンの男じゃないとダメなんだろうか?
「ハーイ、レックス、エイデン」メアリーが女性用ロッカールームに行こうとして、彼らの横を通り過ぎた。
びっくりするほど魅力的なレックスの笑顔。「こんにちは、メアリーさん。肩の調子はどうですか? 先週からよくなりました?」
「そうね、今週末はよく冷やしたのよ。ハンサムな理学療法士さんに言われた通りにね」メアリーはウインクして、エイデンをつついた。そして、ロッカールームに消えていった。
レックスはセットを終わり、息を切らして座っていた。「チャーチ・ホッピングでもしてみようかな。それか、クリスチャン限定で、ノンアルコールのバーってあるかしら?」
エイデンは鼻先で笑った。「神学校の外で野宿でもしたら? 『デートしてくれたら、あなたのために働きます』ってサインを出すんだよ。それか、もっといいのは、『まだ救われていません。デートしてください』だね」
彼女ににらまれて、体毛が燃えるかと思った。「は、は」
最後のセットが終わり、アイスと電気刺激のために、二人は患者エリアへ戻った。「あなた、ラッキーね。ドクターが明日から運転してもいいって」
「明日?」彼女が先にスロープを降りて歩いた。
「三週間って言われてたけど、明日がその三週間後なの」
「怖いな。なるべく道に出ないようにしよう」
「あなたって、ほんと賢いわね。今日、送ってくれる時、車に何か汚いもの、くっつけるわよ——」レックスは急に立ち止まった。エイデンが後ろから彼女にぶつかった。彼女が前に傾いたので、彼は、彼女が倒れないようにウエストをつかんだ。
レックスは気づきもしなかった。ジムでよく見るアイクが、彼女の注意をひいた。突き刺されて血だらけの手の上に「正式な招待状」と殴り書きされた、クリスチャンTシャツを着ていた。
どちらかと言えば、レックスは内気ではなかった。「ハーイ、アイク。いいシャツね」
「サンキュー」アイクは女の子を惹きつける満面の笑顔を見せた。まだレックスのウエストに置かれたエイデンの手は、固くなった。
彼女はエイデンから離れた。「じゃあ……あなたってクリスチャン?」
(マジかよ)エイデンは腕を組んだ。
「そうだよ。サニーベールのバレーバイブル教会に行ってる」アイクは一歩前に出て、その魅力を見せつけた。
「それはパーフェクトだわ」
「は?」
「いえ、素敵だわ。私は、キャンベルのサンタクララ・アジア教会に行ってるの」
「知らなかった、君がクリスチャンだって」アイクは「ちょっと気がある」から「かなり興味をそそられる」にギアチェンジした。
「実は、ずっとバレーバイブル教会へ行ってみたかったのよね」まさか、アイクにまつ毛をパタパタ揺らしてる? (冗談だろ)
アイクは、そのパタパタ動くまつ毛を肯定的に受け取った。「今週末に来てみれば? 僕や独身者グループの子たちと座ればいいよ」
「そうできれば嬉しいわ」レックスは、ビーチバレーより楽しそうにしている。
彼らが時間と道順のことを話し合っている間、エイデンはあごを堅く引き締めた。レックスは男というものを知ってる。本当に、彼の行為に騙されるのだろか? エイデンは、アイクとその友人たちが、運動した後ジムのロッカールームで話しているのを聞いたことがある。あいつらがどんな奴らなのか、女性のことをどのように考えているのかを知っていた。
(彼女は大人の女性だ。自分の面倒は自分で見れる)
しかし、レックスはやけくそになっていた。何かを達成するためだったら、何をするのもいとわないのではないだろうか。
「ありがとう」レックスは、彼にまぶしい笑顔を見せた。
「じゃあ日曜日に」アイクは、ウエイトマシーンのエリアへ行ってしまった。
「バレーバイブル教会?」どうしても皮肉っぽい口調になってしまった。
「やるしかないわ」レックスは、可愛い表情から冷たい表情に変わった。そして、スロープを降りていった。
エイデンの友達のスペンサーは、バレーバイブル教会へ行っていた。彼に頼んで、今週末、レックスを見張ってもらおう。
**********
「何でだよ?」エイデンは、力んで二頭筋カールをもう一セット繰り返した。
「俺はお前の召使いじゃないぞ。自分で教会に来い」スペンサーは、バーベル三頭筋プレスのエクササイズのためベンチに乗った。
「だけど、君はどうせ行くんだろ。ちょっと見ててくれ、って頼んでるだけで、ボディーガードになれとは頼んでない」エイデンはフリーウエイトをおいた。
「じゃあ何で、自分で来ないんだ?」
「彼女に見られたら、どうなるんだよ」
「メガチャーチ(大規模のプロテスタント教会)だぞ、その心配はない」
「僕の運の強さからいって、彼女が入って来るなり僕を見つける。教会っていう問題のことで、僕がどう思ってるのか、彼女は知ってるんだ。僕を見つけたら、ストーカーだと思われるよ」
「実際そうだろ」
「違う、お前にストーカーになってくれって頼んでるんだ。大きな違いだ」歯を見せて、ニヤッと笑った。
スペンサーがにらんだ。「お前のためでも、ストーカーはしない」
「どうせ教会へ行くんだろ」
「偶然だってふりをすればいいじゃないか」スペンサーはバーベルを下ろし、エイデンの方を向いた。
「信じてくれないよ」
「僕のことは信じるだろうね」スペーサーの声は、何かいつもと違う調子の声だった。
「どういう意味だよ」エイデンが聞きたくないことを言うに違いない。
「彼女のところへ行って、お前が何を頼んだかを言うんだよ」
血まなこの腹わたが目の前をチラついた。レックスの場合、それどころでは済まないかもしれない。「言うなよ」
「言うさ。真実を」
エイデンは、その独善的な笑顔を引っ叩きたかった。「忘れてくれ」
「いやだね。もう聞いたから」
「どうでもいいじゃないか。くだらない。行かないからな」
「一回だけでも、来てみろよ」
「彼女は大人だ。僕が守る必要はない。それに、アイクは何もしないよ。自分がいかに道徳的に正しい人間かってことについて、ちょっと彼女を騙すぐらいだ」
「それに、女は嘘をつかれるのが好きなんだ。お前が僕に頼んだっていう真実を聞かされたら、彼女もきっと大喜びだ」
「分かった、分かった。行けばいいんだろう」
**********
予定通り、アイクは教会の前で彼女と待ち合わせをした。「エペソ」のリストに加えることがもう一つ:(約束の時間に遅れないこと)
「ヘーイ、レックス」アイクはニコニコ笑っている。
レックスは弱々しい微笑みを返した。「ハーイ」彼女はその不機嫌な気分を、おでこの辺りでブンブン言っている頭痛のせいにした。
「入ろうか」
大きい教会なので少し圧倒されたが、自分は群衆の中の一つの顔に過ぎないことに、すぐ気づいた。アイクは、すでにヤングアダルトで半分埋まっている、中央の区画に彼女を連れていき、二人は腰かけた。
「礼拝の後、みんなでランチに出かける時に紹介するよ」
レックスは周りの男性をチラッと見た。見かけはまあまあの人が多かったが、中には少し変わっている人もいた——あっちにいる赤毛で色白の子や、目の下にくまができた金魚みたいなの。
そして、敵意を持った女性の目に気がついた。だって、このとても可愛い独身男性の隣に座っているのだ。だが、アイクが彼女の席の後ろに手を回しているのがいやだった。さわってはいないのだが——椅子の端に手を伸ばしてブラブラさせている。
礼拝は、聖書の朗読から始まった。その時点で、レックスは自分たちがスピーカーの真下に座っていることに気がつき、そこから聞こえる騒音と振動のために、頭痛がさらにひどくなった。頭の上で響く言葉を聞いていると、しばらく聖書を読んでいなかったことにも気がついた。目の後ろで波打つ痛みがなくなったら、また読み始めよう。バッグの中を探した。イブプロフェンはない。
ワーシップソングの音量は大きいが、引き込まれていった。コンテンポラリーな音楽はだいたい知っていた。この数分間、彼女は重荷を降ろし、ただ主と共にいられる喜びを再発見した。神様は彼女に話しかけなかったが、神様に歌を捧げる喜びを感じていた。頭痛はほとんど感じなくなった。
説教は、彼女の生気のない祈りの生活のことについて語っていた。そうだ、彼女はもっと祈る必要があった。もっと神様の声に耳を傾けるのだ。
アナウスメントを聞いている間、こめかみをさわっていると、注意が散漫になった。この教会にいるのは、ほとんど白人だった。いや——アジア系のカップルが一組、前の方に座っていた。
黄色人種に囲まれていないと落ち着かないとは、彼女はいつからそんなに自民族中心主義になってしまったのか? あの襲撃後からなのだろうか?
(彼は、アジア系の男友達やいとこ達よりずっと大きかった。カーペットの上で固く握った彼女の拳を押さえる青白い手首は、顔から数センチ離れたところにあった。彼がベルトを手探りする間、その手首が、いやでも彼女の目に入った……)
肩に何かが触れた。
「ああっ!」レックスは椅子の中で飛び上がった。
アイクはサッと離れ、腕を引っ込めた。来週のチャーチ・ピクニックのことを話していたワーシップリーダーは、一瞬、沈黙した。
みんなが彼女を見ていた。
(ああ神様、地面を大きく開けて、私を呑み込んでください)
ワーシップリーダーは優しく彼女に笑いかけた。レックスは弱々しい微笑みを返した。そして彼は、残りのアナウンスメントを読んだ。
スピーカーの音は爆発音のように大きく、レックスのジューッという頭痛もこの音に合わせて爆発した。早く話し終わってくれたらいいのに。
「今日の礼拝に来てくれてありがとう。神様の恵みがありますように」
(やっとだ)
アイクは、礼拝堂の後ろにあるソーシャルホールにレックスをエスコートした。そこには、明らかに独身者グループが集まっていた。若者たちは空いている小さいスペースに入っていった。そのうちの数人は確かに若かった。この子たちは何歳ぐらいなんだろう? レックスは突然、自分がかなり年上であるような気がした。
アイクは彼女を紹介してまわった。誰も彼女の仕事のことを知らないのは、いいことだ。
「こちらがロバート」
退屈そうにしているヤッピーは、弱々しく手を差し出した。小指にはめた巨大なゴールドの指輪がレックスの指に食い込んだ。「ファイナンスの仕事をしてる。君は?」
「ウェブサイトの会社で働いてるわ」
ロバートは、デザイナーブランドのメガネの奥で目をぐるっと回した。「ドットコム企業はブームだからね」
「仕事は好きよ」
「それはいい、来年はもうないかもしれないからね」
リストに加えること:(初対面の時に、嫌味や意地悪なこと、キザなことを言わない人)彼の不機嫌な態度のために、また頭がズキズキした。
クラークは金魚みたいに見えた——目にくまができていて、薄い黄色のシャツが丸いお腹の上でボタンを引っ張っている。そして、記憶は五秒しか持たない。
「クラーク、あなたは?」
「訪問販売。気に入ってるよ」
「何を売ってるの?」
「訪問販売。気に入ってるよ」
「どんな製品?」
「訪問販売。気に入ってるよ」
リストに加えること:「まともな会話ができること」
「やあ、僕はジャスパー」この長身で痩せた男子の赤毛は、天井に向かって生えていて、肌は青白く、ほとんど透明だ。彼女と目を合わせようとせず、ずっと床を見つめていた。
「ジャスパー、あなたは何してるの?」
「訪問販売」彼女の靴を見ながらボソボソ言っている。
リストに加えること:(訪問販売のセールスマンじゃないこと)
「面白そうね」
ジャスパーは、魂が絶望に陥るかのようなため息をついた。「まあね」彼女のサンダルに向かって素敵な会話を続けた。
リストに加えること:(私の靴ではなく、私の顔を見て話す人)
「趣味はある?」
「あるよ」目が彼女の肩まで上がった。「映画を見るのが好きなんだ」
「どんな映画?」
明るく緑色の目が飛び出て、彼女の目と合った。一瞬、その悲しそうな態度は魅力的な態度に変わった。「スターウォーズを見て、世界が変わったんだ」
「あの……映画が?」
「昔はもっとスターウォーズに夢中だったんだ。ライトセーバーは、ほんとにかっこいいよね」そして、ちょっとワイルドな動きをして、架空の刀——いや、ライトセーバーを振り回した。そして唐突に、空気が抜けたように元の、靴に話しかける人に戻ってしまった。「今はイエス様に夢中」絶望的なため息とともに、話を終えた。
(心底イエス様に狂ってるのね)頭痛はガンガン頭に響く。何かに復讐されているのか。
レックスが会った女の子達は、みんな歯を見せて笑った。レックスは、骨——多分、アイク?——を守ろうと毛を逆立てる犬のような印象を持った。このグループの中に、まともな人はいるのだろうか?
レックスが近づくと、リンジーはアイクの腕に、ブレスレットをつけた自分の手首を絡ませた。(それはさりげないわね)「ランチどうする?」
「ちょっと聞いてみるよ」アイクはリンジーのなすがままに、レックスから離れた。この綺麗な女の子は、スチレット・ヒールについたガムのようにレックスをにらんでいた。
ついでに誤解を解いておこう。「アイクと付き合ってるのはあなた? それとも別の女の子?」
リンジーの目を見て、テレビで見たコブラを思い出した。
「彼、女の子と別れたばかりなの。まだ立ち直ってないのよ。彼と私はいい友達」
つまり、(その汚れた手で彼にさわらないで。私が先に唾をつけたのよ)
最悪の日曜礼拝だった。
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第29章
それは、本当に良い考えだったのだろうか?
違う、どうしてだろう?
しかし、もしかしたら何とかなるかもしれない。彼女は違った。聞いてみることに、何の害があるだろう?
彼女をデートに誘うつもりなら、急がなくては。残っているのはレッグプレスだけ。煮え切らない時間が長すぎた。マシーンに座っている彼女は、何を見るというわけでもなく、大きな窓から外を見ていた。チャンスは今だ。「それでレックス——」
「どんなところで女の子に会うの?」レックスは振り向いて、エイデンを見た。
彼は瞬きした。「えっ?」
「どういうところで可愛い女の子を引っかけるのか、っていう意味よ」
彼はポカンとした顔をした。
眉毛を上げて彼をチラッと見た。「探し回る? くまなく調べまくる? 何て言ったらいいのか分からないけど」
「笑ったらいいのか、ウエイトを増やしたらいいのか、決めかねるなあ」
「やめて、ウエイトは増やさないで。真面目に教えて欲しいの」
「何で?」
「だって……」彼の目を見るのをためらった。
エイデンは、彼女が何か嘘をつこうとしているのではないかと疑った。ウエイトのキーに手を伸ばした。
「やめて!」手を伸ばして彼を制した。「いい男性を見つけないといけないの」
「君のおばあさんが、何人も連れて来てるんじゃないの?」
「違う、いい人じゃないとダメなの。バークレーのチケットが欲しくない人」
「それだけ?」
「そして、クリスチャン」
いつものように穏やかで無表情の顔を保つのではなく、目をぐるっと回してしまった自分に驚いた。「また、それ?」
「大事なの。宗教の違いのために離婚する人が何人いるか知ってる?」
「知らない、君は?」
「知らないけど、たくさんいると思うわ」
エイデンは腕を組み、彼女を見下ろした。「運動が足りないようだ」ウエイトのピンをつかみ、一つ下に動かした。
「ヘーイ!」
「そんなバカな質問をするぐらいだったら、もっと汗をかいた方がいい」
「祖母のせいよ。素敵なクリスチャンのデート相手を見つけないと、私の中学生女子バレーボールチームにお金を出してくれない、って言うの。その上、結婚もしないといけないって」
「そんなバカな話は聞いたことないね」
「本当よ。祖母は変わり者なの。すでに山ほど孫も曽孫もいるのに。支配欲が強すぎるのよ」
「どっちもどっちだ」彼はつぶやいた。
「ええっ?」
「別に」
「あなたには分からない。絶望的なの。それに、その人は信頼できる人じゃなきゃいけない……分かるでしょ。この繊細な問題」頬が赤くなったが、運動したためではない。
ふと彼は、これが彼女にとっていかに難しいことなのかに気がついた。クリスチャンの男なら安全なのだろう——車の後部席でフレンチキスも、濃厚なペッティングもしないだろうから。
しかし、彼女をぐらつかせたいと思う部分もあった。彼女はすでに、彼に心地よさを感じていた。何故、つまらない偽善的なクリスチャンの男じゃないとダメなんだろうか?
「ハーイ、レックス、エイデン」メアリーが女性用ロッカールームに行こうとして、彼らの横を通り過ぎた。
びっくりするほど魅力的なレックスの笑顔。「こんにちは、メアリーさん。肩の調子はどうですか? 先週からよくなりました?」
「そうね、今週末はよく冷やしたのよ。ハンサムな理学療法士さんに言われた通りにね」メアリーはウインクして、エイデンをつついた。そして、ロッカールームに消えていった。
レックスはセットを終わり、息を切らして座っていた。「チャーチ・ホッピングでもしてみようかな。それか、クリスチャン限定で、ノンアルコールのバーってあるかしら?」
エイデンは鼻先で笑った。「神学校の外で野宿でもしたら? 『デートしてくれたら、あなたのために働きます』ってサインを出すんだよ。それか、もっといいのは、『まだ救われていません。デートしてください』だね」
彼女ににらまれて、体毛が燃えるかと思った。「は、は」
最後のセットが終わり、アイスと電気刺激のために、二人は患者エリアへ戻った。「あなた、ラッキーね。ドクターが明日から運転してもいいって」
「明日?」彼女が先にスロープを降りて歩いた。
「三週間って言われてたけど、明日がその三週間後なの」
「怖いな。なるべく道に出ないようにしよう」
「あなたって、ほんと賢いわね。今日、送ってくれる時、車に何か汚いもの、くっつけるわよ——」レックスは急に立ち止まった。エイデンが後ろから彼女にぶつかった。彼女が前に傾いたので、彼は、彼女が倒れないようにウエストをつかんだ。
レックスは気づきもしなかった。ジムでよく見るアイクが、彼女の注意をひいた。突き刺されて血だらけの手の上に「正式な招待状」と殴り書きされた、クリスチャンTシャツを着ていた。
どちらかと言えば、レックスは内気ではなかった。「ハーイ、アイク。いいシャツね」
「サンキュー」アイクは女の子を惹きつける満面の笑顔を見せた。まだレックスのウエストに置かれたエイデンの手は、固くなった。
彼女はエイデンから離れた。「じゃあ……あなたってクリスチャン?」
(マジかよ)エイデンは腕を組んだ。
「そうだよ。サニーベールのバレーバイブル教会に行ってる」アイクは一歩前に出て、その魅力を見せつけた。
「それはパーフェクトだわ」
「は?」
「いえ、素敵だわ。私は、キャンベルのサンタクララ・アジア教会に行ってるの」
「知らなかった、君がクリスチャンだって」アイクは「ちょっと気がある」から「かなり興味をそそられる」にギアチェンジした。
「実は、ずっとバレーバイブル教会へ行ってみたかったのよね」まさか、アイクにまつ毛をパタパタ揺らしてる? (冗談だろ)
アイクは、そのパタパタ動くまつ毛を肯定的に受け取った。「今週末に来てみれば? 僕や独身者グループの子たちと座ればいいよ」
「そうできれば嬉しいわ」レックスは、ビーチバレーより楽しそうにしている。
彼らが時間と道順のことを話し合っている間、エイデンはあごを堅く引き締めた。レックスは男というものを知ってる。本当に、彼の行為に騙されるのだろか? エイデンは、アイクとその友人たちが、運動した後ジムのロッカールームで話しているのを聞いたことがある。あいつらがどんな奴らなのか、女性のことをどのように考えているのかを知っていた。
(彼女は大人の女性だ。自分の面倒は自分で見れる)
しかし、レックスはやけくそになっていた。何かを達成するためだったら、何をするのもいとわないのではないだろうか。
「ありがとう」レックスは、彼にまぶしい笑顔を見せた。
「じゃあ日曜日に」アイクは、ウエイトマシーンのエリアへ行ってしまった。
「バレーバイブル教会?」どうしても皮肉っぽい口調になってしまった。
「やるしかないわ」レックスは、可愛い表情から冷たい表情に変わった。そして、スロープを降りていった。
エイデンの友達のスペンサーは、バレーバイブル教会へ行っていた。彼に頼んで、今週末、レックスを見張ってもらおう。
「何でだよ?」エイデンは、力んで二頭筋カールをもう一セット繰り返した。
「俺はお前の召使いじゃないぞ。自分で教会に来い」スペンサーは、バーベル三頭筋プレスのエクササイズのためベンチに乗った。
「だけど、君はどうせ行くんだろ。ちょっと見ててくれ、って頼んでるだけで、ボディーガードになれとは頼んでない」エイデンはフリーウエイトをおいた。
「じゃあ何で、自分で来ないんだ?」
「彼女に見られたら、どうなるんだよ」
「メガチャーチ(大規模のプロテスタント教会)だぞ、その心配はない」
「僕の運の強さからいって、彼女が入って来るなり僕を見つける。教会っていう問題のことで、僕がどう思ってるのか、彼女は知ってるんだ。僕を見つけたら、ストーカーだと思われるよ」
「実際そうだろ」
「違う、お前にストーカーになってくれって頼んでるんだ。大きな違いだ」歯を見せて、ニヤッと笑った。
スペンサーがにらんだ。「お前のためでも、ストーカーはしない」
「どうせ教会へ行くんだろ」
「偶然だってふりをすればいいじゃないか」スペンサーはバーベルを下ろし、エイデンの方を向いた。
「信じてくれないよ」
「僕のことは信じるだろうね」スペーサーの声は、何かいつもと違う調子の声だった。
「どういう意味だよ」エイデンが聞きたくないことを言うに違いない。
「彼女のところへ行って、お前が何を頼んだかを言うんだよ」
血まなこの腹わたが目の前をチラついた。レックスの場合、それどころでは済まないかもしれない。「言うなよ」
「言うさ。真実を」
エイデンは、その独善的な笑顔を引っ叩きたかった。「忘れてくれ」
「いやだね。もう聞いたから」
「どうでもいいじゃないか。くだらない。行かないからな」
「一回だけでも、来てみろよ」
「彼女は大人だ。僕が守る必要はない。それに、アイクは何もしないよ。自分がいかに道徳的に正しい人間かってことについて、ちょっと彼女を騙すぐらいだ」
「それに、女は嘘をつかれるのが好きなんだ。お前が僕に頼んだっていう真実を聞かされたら、彼女もきっと大喜びだ」
「分かった、分かった。行けばいいんだろう」
予定通り、アイクは教会の前で彼女と待ち合わせをした。「エペソ」のリストに加えることがもう一つ:(約束の時間に遅れないこと)
「ヘーイ、レックス」アイクはニコニコ笑っている。
レックスは弱々しい微笑みを返した。「ハーイ」彼女はその不機嫌な気分を、おでこの辺りでブンブン言っている頭痛のせいにした。
「入ろうか」
大きい教会なので少し圧倒されたが、自分は群衆の中の一つの顔に過ぎないことに、すぐ気づいた。アイクは、すでにヤングアダルトで半分埋まっている、中央の区画に彼女を連れていき、二人は腰かけた。
「礼拝の後、みんなでランチに出かける時に紹介するよ」
レックスは周りの男性をチラッと見た。見かけはまあまあの人が多かったが、中には少し変わっている人もいた——あっちにいる赤毛で色白の子や、目の下にくまができた金魚みたいなの。
そして、敵意を持った女性の目に気がついた。だって、このとても可愛い独身男性の隣に座っているのだ。だが、アイクが彼女の席の後ろに手を回しているのがいやだった。さわってはいないのだが——椅子の端に手を伸ばしてブラブラさせている。
礼拝は、聖書の朗読から始まった。その時点で、レックスは自分たちがスピーカーの真下に座っていることに気がつき、そこから聞こえる騒音と振動のために、頭痛がさらにひどくなった。頭の上で響く言葉を聞いていると、しばらく聖書を読んでいなかったことにも気がついた。目の後ろで波打つ痛みがなくなったら、また読み始めよう。バッグの中を探した。イブプロフェンはない。
ワーシップソングの音量は大きいが、引き込まれていった。コンテンポラリーな音楽はだいたい知っていた。この数分間、彼女は重荷を降ろし、ただ主と共にいられる喜びを再発見した。神様は彼女に話しかけなかったが、神様に歌を捧げる喜びを感じていた。頭痛はほとんど感じなくなった。
説教は、彼女の生気のない祈りの生活のことについて語っていた。そうだ、彼女はもっと祈る必要があった。もっと神様の声に耳を傾けるのだ。
アナウスメントを聞いている間、こめかみをさわっていると、注意が散漫になった。この教会にいるのは、ほとんど白人だった。いや——アジア系のカップルが一組、前の方に座っていた。
黄色人種に囲まれていないと落ち着かないとは、彼女はいつからそんなに自民族中心主義になってしまったのか? あの襲撃後からなのだろうか?
(彼は、アジア系の男友達やいとこ達よりずっと大きかった。カーペットの上で固く握った彼女の拳を押さえる青白い手首は、顔から数センチ離れたところにあった。彼がベルトを手探りする間、その手首が、いやでも彼女の目に入った……)
肩に何かが触れた。
「ああっ!」レックスは椅子の中で飛び上がった。
アイクはサッと離れ、腕を引っ込めた。来週のチャーチ・ピクニックのことを話していたワーシップリーダーは、一瞬、沈黙した。
みんなが彼女を見ていた。
(ああ神様、地面を大きく開けて、私を呑み込んでください)
ワーシップリーダーは優しく彼女に笑いかけた。レックスは弱々しい微笑みを返した。そして彼は、残りのアナウンスメントを読んだ。
スピーカーの音は爆発音のように大きく、レックスのジューッという頭痛もこの音に合わせて爆発した。早く話し終わってくれたらいいのに。
「今日の礼拝に来てくれてありがとう。神様の恵みがありますように」
(やっとだ)
アイクは、礼拝堂の後ろにあるソーシャルホールにレックスをエスコートした。そこには、明らかに独身者グループが集まっていた。若者たちは空いている小さいスペースに入っていった。そのうちの数人は確かに若かった。この子たちは何歳ぐらいなんだろう? レックスは突然、自分がかなり年上であるような気がした。
アイクは彼女を紹介してまわった。誰も彼女の仕事のことを知らないのは、いいことだ。
「こちらがロバート」
退屈そうにしているヤッピーは、弱々しく手を差し出した。小指にはめた巨大なゴールドの指輪がレックスの指に食い込んだ。「ファイナンスの仕事をしてる。君は?」
「ウェブサイトの会社で働いてるわ」
ロバートは、デザイナーブランドのメガネの奥で目をぐるっと回した。「ドットコム企業はブームだからね」
「仕事は好きよ」
「それはいい、来年はもうないかもしれないからね」
リストに加えること:(初対面の時に、嫌味や意地悪なこと、キザなことを言わない人)彼の不機嫌な態度のために、また頭がズキズキした。
クラークは金魚みたいに見えた——目にくまができていて、薄い黄色のシャツが丸いお腹の上でボタンを引っ張っている。そして、記憶は五秒しか持たない。
「クラーク、あなたは?」
「訪問販売。気に入ってるよ」
「何を売ってるの?」
「訪問販売。気に入ってるよ」
「どんな製品?」
「訪問販売。気に入ってるよ」
リストに加えること:「まともな会話ができること」
「やあ、僕はジャスパー」この長身で痩せた男子の赤毛は、天井に向かって生えていて、肌は青白く、ほとんど透明だ。彼女と目を合わせようとせず、ずっと床を見つめていた。
「ジャスパー、あなたは何してるの?」
「訪問販売」彼女の靴を見ながらボソボソ言っている。
リストに加えること:(訪問販売のセールスマンじゃないこと)
「面白そうね」
ジャスパーは、魂が絶望に陥るかのようなため息をついた。「まあね」彼女のサンダルに向かって素敵な会話を続けた。
リストに加えること:(私の靴ではなく、私の顔を見て話す人)
「趣味はある?」
「あるよ」目が彼女の肩まで上がった。「映画を見るのが好きなんだ」
「どんな映画?」
明るく緑色の目が飛び出て、彼女の目と合った。一瞬、その悲しそうな態度は魅力的な態度に変わった。「スターウォーズを見て、世界が変わったんだ」
「あの……映画が?」
「昔はもっとスターウォーズに夢中だったんだ。ライトセーバーは、ほんとにかっこいいよね」そして、ちょっとワイルドな動きをして、架空の刀——いや、ライトセーバーを振り回した。そして唐突に、空気が抜けたように元の、靴に話しかける人に戻ってしまった。「今はイエス様に夢中」絶望的なため息とともに、話を終えた。
(心底イエス様に狂ってるのね)頭痛はガンガン頭に響く。何かに復讐されているのか。
レックスが会った女の子達は、みんな歯を見せて笑った。レックスは、骨——多分、アイク?——を守ろうと毛を逆立てる犬のような印象を持った。このグループの中に、まともな人はいるのだろうか?
レックスが近づくと、リンジーはアイクの腕に、ブレスレットをつけた自分の手首を絡ませた。(それはさりげないわね)「ランチどうする?」
「ちょっと聞いてみるよ」アイクはリンジーのなすがままに、レックスから離れた。この綺麗な女の子は、スチレット・ヒールについたガムのようにレックスをにらんでいた。
ついでに誤解を解いておこう。「アイクと付き合ってるのはあなた? それとも別の女の子?」
リンジーの目を見て、テレビで見たコブラを思い出した。
「彼、女の子と別れたばかりなの。まだ立ち直ってないのよ。彼と私はいい友達」
つまり、(その汚れた手で彼にさわらないで。私が先に唾をつけたのよ)
最悪の日曜礼拝だった。
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