【ひとり寿司】第24章

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第24章


トイレに行きたい。

手術台の上で何時間寝ていたのか知らないが、レックスは天井を見つめ、すっかり目が覚めていた。寝袋の中で寝そべっているビーナスの小さいいびきは、CPMマシーンが足を曲げ伸ばしするリズミカルな機械音と呼応しているようだ。

かわいそうなビーナス。あのネズミのことについて尋ねる余裕もなく(あの後、まだ見かけていない)、レックスのために全てを整えた後、疲れ果てて倒れ込んだ。今、彼女を起こすことはできない。

マシーンが足を曲げると、頭がかべにぶつかった。ベッドのバカ。斜めに寝ても、マシーンをつけて横になると短すぎることに、どうして気がつかなかったのだろう。スペースがないから、ベッドを壁から少し離すこともできない。ビーナスはベッドの足元に段ボール箱を引っ張ってきた。CPMマシーンが、レックスの足と一緒に滑り落ちないように、固定する必要があったのだ。足が真っ直ぐになるのを待って、電源を切った。

レックスは、アイスマシーンを抜いた——これも、ビーナスを疲れさせた理由の一つだった。レックスの小さい冷蔵庫は製氷機がついていないことが分かった後、ビーナスはスーパーまでアイスバッグを買いに行ったのだが、この氷は、レックスがバレーボールのために使っていた大きいクーラーの中でゆっくりと溶けた。ビーナスは、明日も氷を買いに行かなくてはならない。

レックスは、横に飛んでベッドから出なくてはならない——松葉杖につかまりながら飛ぶのは、大変なわざだ。延長コードでつまずきそうになった——家にあった延長コードは五○センチほど短すぎたので、ビーナスが(また)買ってきたのだった。

トイレは海の向こう側にあるように思えた。本当に、早く行かないとまずい。

狭いトイレまで、何かにぶつかりながら足を引きずり、トイレに座った。膝は鈍い痛みを感じているだけなので、よかった。ノボケイン(麻酔薬)はまだ切れていないようだ。

一日中ビーナスにきつく当たり、怒っていた。明日はもっといい子になろう。

最悪なことは終わったのだから。

**********


「ノボケインが切れてきたみたい」これは報復だろうか。昨日の鈍い痛みは、関節に千本の針が刺さっているような痛みに変わった。

ビーナスは、スターマガジンから目を上げた。「バイコディン(鎮痛薬)要る?」

また骨に刺さる痛み。「うん」

ビーナスはバッグの中を引っかき回して、レックスのためにもらってきた処方薬を探した。「バイコディン飲んだことある?」

「ない」

「便秘になるかもよ」

「それだけ? 構わないわ」

**********


「ビーナス、気持ち悪い」レックスはベッドの端まで体をひねり、床を見つめた。

「待って!」ビーナスは急いだ——いや、プラスチックの袋を持ち、段ボール箱の間を通ってレックスの方へ動いた。

「ごめん」レックスはベッドの側面をつかみ、部屋がグルグル回るのを止めようとした。

「はい、これ」ビーナスが袋を差し出して、レックスに持たせた。またやってきた吐き気の波に、ちょうど間に合った。

レックスは泣き出した。「すごく気持ち悪い」

「黙って、吐かないことに集中して」

「無理」

「どうしてよ?」ビーナスは、レックスが持っているプラスチックの袋にペーパータオルを押しつけた。

「だって、また吐く」

ビーナスの目が光ってパチパチ音を立てた。「また?」

レックスのすすり泣きは大きくなった。「ごめんね」

「泣かないで」

「だって、吐き気がすると泣きたくなるの」また涙がこぼれ出した。

ため息をつくようなビーナスの息が、レックスの髪と絡まった。「ほら、がんばって」アイスマシーンを抜き、CPMを切り、レックスのあばら骨の下に腕を差し出した。

横になっているより、体を起こした方が、ずっと気持ちが悪かった。胃が締めつけられている間、レックスはプラスチックの袋を顔の近くに持っていた。ビーナスに助けてもらって、段ボール箱の間を通ってトイレに行った。

起き上がることすらできない。胃の中で引いては流れ出す吐き気の波に対し、口を固く閉じてぐったりするうちに、熱い涙が頬をつたった。レックスを移動させながら、ビーナスは汗をかいて息を切らし、壁にもたれた。

ベッドに戻ったレックスは、ビーナスがアイスマシーンを取り付けている間、壁に顔をくっつけていた。「もう死にたい」

「私にここまでやらせて、死んだら承知しないからね」かみそりの歯のように鋭いビーナスの口調——映画「ブレイブハート」だったら、メル・ギブソンは死ななかっただろう。

「どうしてこんなに気持ち悪いの?」

「睡眠薬って飲んだことある? コデインとか?」

「ない」

「家族は?」

「ああ、お父さん。咳がひどかったとき、コデインが合わなくて、代わりに強めのシロップみたいなのを処方してもらったことがあるかも」

ビーナスは手でおでこを強くつかんだ。「冗談でしょ」

「何が?」

「バイコディンはコデインみたいなもんなの。お父さんが合わなかったんじゃ、あなたもお父さんと同じ反応を示す可能性が高いのよ」

レックスは目を閉じた。「えっ」もっと早くそれを知りたかった。「もう死なせて」

「外科医に電話するわ」

「今日は土曜日よ」

ビーナスは携帯をつかんだ。「ポケットベルを持ってるわ」

レックスは注意深く聞いていたのだが、ビーナスは話している間、礼儀正しさを保っていた。そして、携帯をパチっと閉じた。「具合が悪くならないようにできることは、他に何もないんだって」

「何も?」

「コデインじゃないのもあるけど、あなたみたいに過敏だと、多分、他の薬でもめまいがするらしいわ。タイレノール(市販の鎮痛剤)だったら大丈夫だそうよ」

「それだけ?」

「あなた、イブプロフェンはもう飲んでるから、それと一緒に飲めばいいわ。それだけで十分かもしれないって。それか、バイコディンを飲み続けてもいいのよ」

板ばさみか。最高。「吐くより、痛い方がいい」

ビーナスは肩をすくめた。「自分で決めて」

それから数時間、レックスが壁の時計を見つめている間、ビーナスはピープル・マガジンを隅から隅まで読んだ。しばらくして、レックスは燃えるように熱いピンが膝の表面に突き刺さっているような感じがするのに気づき始めた。

「ビーナス、なんか変」

「すごく痛いの?」

「ちょっと違う痛さなの。何て言うか……日焼けした足にジーンズをはくみたいな」

ビーナスもレックスも、顔をしかめた。

トイレに行こうとして起き上がった時にも、そう感じた。部屋はグルグル回らなくなったが、CPMマシーンを取り外すとすぐ、ヒアリがスネから上に這い上がってきて、大喜びで膝頭を噛んでいるような気がした。

「イタ、タ、タ!」レックスは厚い包帯の上を手で押さえた。

「バイコディン要る?」

「要らない」レックスは、燃えるような痛みが和らぐのを待った。「変だわ。ひどい日焼けみたいな感じがする」

「次の通院日は月曜だから、それまで頑張らないと」

**********


どうして月曜日はもっと早く来ないのだろう。

バイコディンが完全に切れてしまった後、骨にしみる痛みが戻ってきた。最悪の週末だった。

月曜日の朝、ビーナスの運転で医者に行った。レックスは待合室の椅子にゆっくり座った。

隣に座っていた女性は、レックスの顔を見てびっくりした様子だった。二日間シーツを噛み、CPMマシーンの動きとともにズキズキする膝を抱えながら、枕に汗を浸み込ませた後、レックスは電子レンジで温められた死神のように見えたのだろう。

「レックス・坂井さん。こちらへどうぞ」

診察室まで足を引きずった。もう一人の患者——三回目の膝の手術だと言っていた若い赤毛の女の子が過ぎていった。包帯も松葉杖もなく、足の装具だけで歩いていた。手術をした方の膝は少しピンク色に見えたが、いい方の足より少し腫れているだけで、小さく丸いバンドエイドを三つ、つけているだけだった。彼女はレックスに笑いかけ、手を振った。

レックスは、彼女に対してうなり声を出す以上の体力がなかった。

ビーナスに手伝ってもらって診察台に上がった。医者が入ってきて、二人と握手をした。「具合はいかがですか?」

「日焼けみたいに痛いので、CPMマシーンを使うのをやめました」

「それは良くないですね。膝が固まらないように、CPMマシーンは続けて使ってもらわないと。包帯をとって、どうなってるか見てみましょう」

外側のエースの包帯を取ると、アイスマシーンに取り付けられていた平らで水が入ったプラスチック性のパッドが見えた。(ああ、こんな風になってたのか)レックスはただひんやりするのを感じていただけだった。

それから、医師はその下のガーゼとパッドを取り除いた。

(わおっ、ひどい)膝頭全体が水膨れで覆われていた。あの赤毛の女の子の膝と違って、腫れは全くひいてなかった。

「体が分泌物をうまく排出してないみたいですね。皮下に水膨れができてます」

訳が分からない。

「分泌物を抜きますからね」

医師が急に巨大な針を何本も取り出してから、別の針に透明の液体を入れるまで、レックスは、何をされようとしているのかがよく分からなかった。「ちょっと麻酔を入れますね」膝の少し上にその液体を注射した。つねられた感じがしたが、痛みは和らぐように感じられなかった。

そして、医師は太い針をつかんだ。

突然、感じられるのは白熱した痛み、痛み、痛み……診察台をつかんだが、指は紙のカバーと滑らかなビニールの上をこすっているだけだった。(ああっ、助けて!)

医師は、別の水膨れに針先を動かした。レックスは歯ぎしりした。頭の中で罵声が燃え始めた。

悪いことばを、いっさい口から出してはいけません。

(もう、うるさい。神様、私を恨んでるんですね)

神様は返事をしなかった。慰めもひらめきもなかった。レックスは、完全に一人ぼっちだった。


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