【オンリー・ウニ】第5章
『オンリー・ウニ』 寿司シリーズの第二作 著者:キャミー・タング 日本語訳:西島美幸 → 作品ページにもどる 第5章 生物学者の仕事は決して終わらない。 普段の週日か休日かにお構いなく、がん細胞は急激に増殖する。新年だというのに、トリッシュは病院を出てからほんの数時間後、バレー製薬の細胞培養室でダメージコントールをしていた。 正月の週末中に二台のインキュベータが動かなくなってしまわなければ、それほど悪くなかったのかもしれない。 その結果、トリッシュがやっていた研究のうち三つがダメになり、まだ生きている細胞を救出するために、一日中仕事をする羽目になった。上司のダイアナは、自分の上司が待っていた研究結果がバイオハザード用のゴミ箱に行く結果になってしまったので、機嫌が悪かった。トリッシュは、ストレスの上に緊急事態が積み重なり、睡眠不足がそれに追い討ちをかけた。 しかし、ジェニファーが作るダークチョコレート・トリュフで解決できないものは、何もない。 やっと仕事が終わり、家でリラックスしながら、トリッシュは居間のソファに深くすわり、チョコレートがついた指をなめ、閉じられた聖書を置いた膝を見つめた。先延ばしにしていたのであるが、行動に移すことができないでいた。緊張のために、手、足、みぞおちのあたりが震えた。あるいは眠れない夜と忙しい一日のために、エネルギーを費やしすぎたのかもしれない。 カウンターの上に置いてある金魚鉢の中でのんきに過ごす金魚を見つめた。何匹目のゴンゾウだろうか――トリッシュは、自分の金魚を全て、お気に入りのマペット(セサミストリートに出る操り人形)の名前で呼んでいた。 アパートの外で、マウンテンビューからサニーベール方向へ進む電車の音が聞こえた。何時だろう? ルームメイトのマーニーはもうすぐ帰ってくるだろうか? 会社へ行く前に着替えようと少しの間うちに戻ったとき、マーニーはもういなかった。パロアルトまでの通勤時間は短いから、立ち寄れてよかった――。 夕食はどうしよう。疲れ過ぎて料理はできない。外食にしようか――キャストロ通りにはいいレストランがたくさんある――だけど、一人で食べたくない。それに、マーニーがうちにいたとしても、彼女を誘うのはいやだ――マーニーと仲良くなろうとするのは...