【オンリー・ウニ】第21章

『オンリー・ウニ』

寿司シリーズの第二作
著者:キャミー・タング
日本語訳:西島美幸
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第21章

「お母さん、どうしてここに? モルガン・ヒルから運転してきたの?」(どうして来ないといけない? 娘の愚かな行動と悪運が重なった究極の例を目撃するため?)

「お父さんが盆踊りの企画会議でサンノゼまで運転してくれたのよ」

 なるほど、あのゲス野郎が運転席に座っていたのか。「そんなに動いて大丈夫なの?……だってまだ」トリッシュは母の反応を待った。母が「心臓発作」という言葉を使わなかったので、トリッシュもそうした。「もちろんあなたの新しい家を見たいからよ。昨日まで何も言わないんだから」その口調から、不満は全く感じられなかった。

 トリッシュの小柄な母は、壊れそうな建物を観察した。嫌悪感で口にシワがより、震える手を上げて髪を直した――パーマをかけたベリーショート、地毛にしては明るすぎるマホガニー色に染めているが、具合が悪かったため白髪になった根元が見えていた。「ほんとにこの住所で合ってる?」その声は絶望を帯びていた。

「そうよ、お母さん」トリッシュはとどめを刺した。なぜ母がここに現れないといけないのか? トリッシュはいとことチョイ夫人を前にして、既にひどく間抜けになった気がしていた。こんなバカな娘を育てたのかと呆れた顔をする母を前にしたくはなかった。

 トリッシュが物件を見ずに決めたことがバレたら、死ぬまで針のむしろに座らされることになるだろう。

 しかし、母はそのようなことを何も言わなかった。「中を見た方がいいんじゃない?」明るすぎる笑顔を見せたが、トリッシュが予想していた以上に母は無口だったので、安堵のために気を失うかと思った。「そうね、そうする」

 用心深い母を、申し訳なさそうにしているチョイ夫人に紹介した後、トリッシュは鍵を持って玄関まで進み、きしむ網戸を開けた。差し錠を外そうと手探りした。ビーナスがクンクン嗅いだ。「なんか、変なにおいしない?」

 トリッシュは立ち止まった。ひさしのカビ、割れた踏み石のコケ、前庭の雑草からは枯れ草のようなにおいがした。「しない」うめくような声をあげて、ドアを乱暴に開けた。

 吹きつけるにおいに襲われた。母は二、三歩下がり、トリッシュは息が詰まって戸口で動けなくなった。

 腐敗臭だった。

 トリッシュは仕事柄気づいたのだが、だからと言ってそれに耐えられるわけではない。横を向いて身をかがめ、外壁の底からのぞき見している雑草をじっとにらんだ。ランチに食べたものを吐いてしまうだろうか? ドアに一番近いところにいたビーナスは、一メートルほど下がり、青白い顔で目を閉じた。ジェニファー、レックス、母、チョイ夫人はすでに歩道の近くまで戻っていた。

 数分後、においが少しおさまってきたので、かろうじて中をチラッと見た。戸口から流れ入る光が長い廊下を照らしていた。左側には、少しいい感じのアーチのついた廊下が居間につながっていて、カーペットにはいろいろな黒いシミがついていた。

 廊下から台所へ少しずつ進んでいくと、蛇口の上の窓はカーテンで薄暗い。それを揺すって開けたら砂ぼこりがたち込めた。日光は汚れたガラス窓を通ってフィルターがかかったように、色あせたアボカドグリーンとバーントオレンジ色の模様がついた壁を照らしていた。さらに、嘔吐物のような黄色いカーテンを日光が照らしていた。

 犯人を見つけた。腐敗臭を放っていたのは、カウンターに置いてある食べかけのハンバーガーだった――多分ジョージのものだろう。虫が紙皿の上を走り、ハエがブンブン音を立てている。「うえっ、気持ち悪―い!」ビーナスが台所で悲鳴を上げて、廊下を走って戻ってきた。その叫び声を聞いて用心した残りのいとこたちは中に入らなかったが、チョイ夫人は不安そうに中をのぞいた。

 臆病者。トリッシュはジェニファーに声をかけた。「あなたのカバンに入ってる余分のビニール袋、ちょうだい。ペーパータオルも」窓の方へ歩き、ガラスドアを大きく開けた。なんとか網戸を外してハエをあおぎ、家のにおいを外に出そうとした。

 ジェニファーは特大サイズのトートバッグの中を手で探り、できるだけ台所に近づかなくていいように腕を伸ばしてビニール袋とタオルをトリッシュに渡した。

 トリッシュは紙皿と虫をバッグに入れた。「どいて!」女性陣は散り散りになった。廊下を通り抜けてドアの外に出た。

 父が入り口に立っていた。顔がこわばっている。「何だ? そのにおいは」

 任務の遂行に集中しているトリッシュは、ぎこちなさを感じる余裕がなかった。「古いハンバーガーよ、どいてくれる、お父さん」

「僕がやるよ」ビニール袋に手を伸ばした。

「えっ、ダメ。気持ち悪いわよ、お父さん」トリッシュは驚いたが、それは違う。父はいつも、裏庭で死んでいるリスや鳥、前庭では犬の糞の処理をしていた。彼女が十二才の時、道路でひき殺されたフクロネズミだって。

 父との関係が恐ろしく普通ではないはずの時に、彼がここまで普通に振る舞うのを見るのは、何か変だった。

 ゴミの袋をトリッシュの手から取り上げ、ドライブウェイの脇に置いてある古いゴミ箱に向かった。「シンクの下に漂白剤があるかもしれないよ」ゴミの袋を投げた。

 トリッシュは一瞬そこに立ち、父を見た。そして向きを変えて家に向かった。

 やっぱりあった。台所のシンクの下に、硬くなったスポンジと一緒にほこりだらけのクロロックスの容器が。流れる水は最初茶色だったが、透明になってきた。スポンジを濡らした。

 カウンターの上には、ほこりっぽいベージュ色のタイルが並んでいて、タイルとタイルの間のグラウト(目地補修)材がなくなっているところは黒くて荒い割れ目になっていた。漂白剤をそそぎ、スポンジでこすった。

 その頃までに、母は意を決して台所に入り、油で汚れたキャビネットを見て顔をしかめた。レックスはチラッと目を上げた。「うっ」

 トリッシュが母の目線を追って天井を見ると、丸みを帯びた油汚れの斑点が染みついていた。おそるおそる頭上を見ると、台所の電気が点滅したので、みんなの目がくらんだ。

「お母さーん!」

「電気がつくか試したくて」

「ああ、つくはずですよ」チョイ夫人の口の周りが笑顔で揺れた。「二日前にミズーリへ出発するまで、ジョージはここに住んでたから」

「そうなんですか?」トリッシュはスポンジをシンクに投げた。

 その瞬間、冷蔵庫が喘息患者の咳払いのような激しい音を出し、それからブーンと音を立て始めた。トリッシュが警告を発する前に、レックスはドアを開けた。

 幸いにも、中に生き物はいなかった。ソーダの缶が二本とホステス(1) のフルーツパイ――(ジョージはフルーツパイを冷蔵庫に入れるの?)――しかし、ドアの端を密封するゴムがレックスの目に留まった。「これは何?」

 二人は、時間が経って割れ目ができたゴムの折り目に厚く塗られたネバネバした茶色い物質をじっと見た。独特のにおいがトリッシュの鼻をくすぐった。「ピーナッツバターね」ドアをバタンと閉めた。

 トリッシュは急いで台所から逃げたが、カーペットが盛り上がっている廊下に置かれたランプにつまずいた。壁にぶつかり、壁から離れた手はベタベタしていた。カーペットをにらんだ。「最悪、ゆるんでたわ」

 ビーナスが下をにらんだ。「は?」かがんでよく見た。「下は床ばりのようね」

 トリッシュは気にしなかった。寝室のドアをゆっくり開ける前に、ドアの前でためらった。

 どうやらジョージはここでキャンプをはっていたようだ、まさしく。ノースフェイス製のテントがきれいそうな毛足の長いじゅうたんの真ん中にすわっていたが、他の家具はなかった。ほこりっぽく、たるんだ木の梁から垂れ下がった針金のハンガーが、スライド式のクローゼットのドアから見えていた。

 かろうじて居住可能な部屋を見て勇気が出たのか、トリッシュはバスルームのドアを押して開けた――ドアは十センチほど開いたと思ったら、ドン、という音とともにトイレにぶつかって止まった。「マジ?」なんとか中に入ったが、シャワーに入らないとバスルームのドアが閉められなかった。

 古いシンクはトイレの真横にあり、小さいミラーは狭い棚を誇示しているようだ。カウンタースペースなどあったものではない。錆びているが少しはきれいな薬品戸棚を開けようとミラーをぐいっと引っ張ったが、棚が一つ足りない。

 リノリウムを調べようと目を落とした――隅の方が古くて茶色くなり、丸まっていた。しかし、何か小さく白いものが、ドアとシャワーの隅にあった。トリッシュはじっと見つめ、リノリウムが壁からはがれたところにキノコが生育しているのに気づいた。

 冷や汗が耳をつたった。体を半分に曲げ、トイレの下の暗闇で目を凝らした。便器にトイレのドアが当たる音、そしてジェニファーの声が聞こえた。「トリッシュ?」

「ドアの近くに電気のスイッチある?」

 手探りする音の後、電気のブーンという音と、咳き込むようなトイレのファンの音が聞こえた。気がつくと、トイレの下の薄汚れた水たまりをにらんでいた。ゆるんだ弁から垂れてきているらしい。締められるかと思い手を伸ばすと、背筋が寒くなるようなキーッという音が聞こえた。

 トリッシュは急に動いたので、頭を便器にぶつけた。頭をさすりながらジェニファーをチラッと見上げ、それから天井を見た。

 灰色、茶色、新緑色の微妙な影を取り入れた濃い色の油絵のデザインを使って、誰かが平らな天井に壁画を描いたのかなと、最初は思った。

 そして気づいた。それは、巨大なカビの層だった。

 悲鳴を上げてトイレで飛びはねたら、その動きでドアがバタンと閉まった。巨大なカビは、脅すようにクスクス笑っているように見えた。再び叫び声を上げ、ドアを引っ張って開けられるようにシャワーの中に飛び込んだ。シミー(2) を踊るようにバスルームから出た。

 トリッシュとジェニファーは叫びながら一瞬お互いにしがみついた。まだ呼吸の早いトリッシュは、母に呼ばれてガレージの方を向いた。

 冷ややかな薄暗さと同時に、腐りかけたにおいに包まれたが、少し開いたガレージドアの底のすき間から一筋の細く白い色が差し込んできた。電気のスイッチを入れると、裸電球がブーンと音を立てて光った。ゴキブリが逃げていき、それから、ほこりっぽい蜘蛛の巣、落ち葉、壁に沿う小さく黒い粒に気づいた。

 ビーナスもそれに気づいた。「ゲッ、ネズミの糞」

「だけど、このにおいはカビね」母が電気を切った。「古いけど、ネズミもいなくなると思うわ」

「そうなって欲しい」

「お恥ずかしいわ」チョイ夫人は手をもみ合わせた。「新しい場所を探す間ここにいても構わないんだったら、お家賃はいらないわ」

 トリッシュは薄汚れた壁、危険区域の台所に目を走らせ、閉じられたトイレのドアをチラッと見た。しかし、寝室にあるジョージのテントは使える。シャワーは会社で入ればいい。トイレは……緑の怪物はトイレの上の一部だけだったから、どうしても仕方がなければそっと入り、用を足し、そのままそっと出ればいい。

「ありがとうございます、チョイさん」他に方法もない――会社の警備員と仲が悪いわけではないが、これ以上オフィスの段ボール箱に目をつぶってもらうことはできない。もうここに箱を移したのだから、他に置き場所はない。「問題は、布団ね」この家に持ってくるのは絶対イヤだ。

「うちに来たらどうなの?」トリッシュの母は、それが明らかな解決策だというように細い眉をつり上げた。

「ベッドが入らない」ビーナスのアパートのちっぽけな居間に入るわけでもない。トリッシュが一週間以内にベッドを運び出すと約束するたびに聞くビーナスの恐ろしいうなり声は、聞き慣れていた。

「どこか見つかるまでガレージに全部入れて、車はドライブウェイに停めるのね」

 母の落ち着いた声と、分別のある提案を聞いて、トリッシュの不安は和らいだ。「ありがとう、お母さん」

「そろそろうちで夕ご飯にしない? チキンヘッカ(3) よ」

「美味しそう!」レックスとトリッシュは、そろって舌鼓を打った。

 何か聞きたそうな顔をしているチョイ夫人のために、トリッシュは説明した。「カントリースタイルの日本料理で、炒めたチキンが入ったスープみたいなものです」

 ジェニファーは呆れた顔をして頭を向けた。「トリッシュ、そんな複雑な言い方をしなくても――」

 トリッシュはいとこの後をついて廊下を歩いた。「だってさ、刺身だってただの生魚だけど、日本で寿司のシェフが何年も訓練を受けてから働いて――」

「料理のことで私に説教しないで」

「ああ、そうだった」トリッシュは話すのをやめた。叔母たちは決して認めないが、ジェニファーは叔母よりはるかに料理が得意だった。

 廊下をツカツカ歩き、アーチのついた廊下をダッシュで通り抜け、ドアの外に逃げた。トリッシュはチョイ夫人の方を向いた。「ここにいさせてくださって、ありがとうございます」オフィスの床に寝袋を置いて寝ると、背中が痛くなった。

「これくらいはさせて。前もってここを見に来なかったこと、本当にごめんなさいね。ジョージがここを買ったってことと、住所と、いくらの賃料が欲しいのかだけしか聞いてなかったものだから」

「いいんです。少なくとも会社に近い場所に、一時的でもいさせてもらえるんですから」

「他の場所が見つかるかしら?」

「急がなくてよくなったから、大丈夫だと思います。先週はたまたま運が悪かったんです――いつもだったら、空いてるアパートはたくさんあるんですから」

 チョイ夫人は微笑んだ。「そうよね、よかったわ」

「必ず近いうちに出ていきます」トリッシュは車の方へ歩いた。「遅くとも一週間後までには」



 



 今夜の礼拝では、自分を殺すまではいかないが、完全に自分を明け渡そうとしていた。

 まあ、礼拝で殺される人がいるはずはなく、金髪――ケイティ? ケイトリン? キャシー?――は、トリッシュが完全に礼拝にのめり込むのを制止することはできない。トリッシュのことが気に入らないのなら、あの金髪女は別の独身者グループに行けばいい。

 ライオンと対決する覚悟でソーシャルホールまで行進した。しかし、金髪女はいなかった。(ちぇっ)

 いつもより多くの人が数少ない折り畳み椅子を埋めていったので、トリッシュは前方わきのあたりに落ち着いた。前の方から、オリビアが励ますような笑顔を向けた。どんな礼拝の仕方をしても、自分を評価してくれる人がいるのはありがたい。

 時々スペンサーが言ったことを考えた――奉仕をしたいと彼に話すと、賛美チームのことがいつも頭に浮かぶと言っていた。そもそも、スペンサーはそれほどプレイボーイではなかったのだ。事実、職場であの香港人のインターンと話しているのも見かけなかった。彼が話す女といえば……トリッシュだけだった。

 温かい、チョコレートの味がするものがお腹の中でかき混ぜられるような気がした。

 エドとオリビアは賛美を始めた。トリッシュは目を閉じた。

 遅れて入ってきた二人が乱暴にぶつかってきて、最後の空席だった隣の二席をつかみ取った。

 ああ、金髪女だ。ゴージャスな男友達と一緒に。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジョニー・デップのようにはっきりした輪郭で、深く切り込みを入れたような顎だが、ヒゲはなく、歯もきれいな男友達が思わず目に入り、その彼はトリッシュに微笑んだ。滑らかな頭の後ろ側は、ジャック船長より少し金色に光り、油分はずっと少ない。

 金髪女は、恐ろしく歯をむき出しにして微笑んで、彼を紹介した。「トリッシュ、ジャックよ」(実物だったのか)「どうも」

 まだ凶暴な微笑みを浮かべながら、歯にうっすらついた赤いキャンディーの色が見えるほどトリッシュに近づいた。小声で話すその唇はほとんど動かない。「ジャックはクリスチャンじゃないの。だから、変に手を振り回して彼を驚かせないでね」

 クリスチャンじゃない? 驚かせる? トリッシュは、確かにそうかもしれないと納得した。

 だけど、今日は完全に明け渡すはずだったのに! 金髪女がそれを台無しにするのは許さないと決心したはずじゃなかったか?

 しかし、ルール二番はどうだろう? 他の人にキリストの話をする。つまり、初めて独身者グループに来た人を驚かせない。

 音楽が始まった。オリビアの目は柔らかくなり、それからトリッシュがみじめに座っているのを見て、伏し目になった。オリビアが落胆しているのを見ると、粉挽き器の中ですりつぶされるコショウのように苦しくなった。あるいは、手回しのグラインダーの中のチーズ。それとも、すり鉢の中のナツメグ。

(最高)お腹の中もかき回されているような気分になってきた。

 メロディーは頭の上を通り過ぎていった。トリッシュは、波に流されて溺れていた。でもすぐ、目を閉じて歌い、歌詞が心を呼び覚ますのに身を任せた。手を胸まで上げ、鼓動が打つのを感じた。

 金髪女に腕を押された。

 わざとなのか? なんて意地悪。トリッシュは手を上まであげるつもりはなかった。金髪女を通り越してジャック隊長をチラッと見た。歌詞の意味は分からなくても、彼は微笑んで音楽を楽しんでいた。

 トリッシュは椅子にうずくまった。

 エドは次の歌に移った。独身者グループに対し勝利の旗を振りかざしているように感じる力強いバラード。トリッシュは胸が一杯になり、前に傾いた。

 金髪女に足をつねられた。

 痛っ! 失礼な。トリッシュは痛みが和らいでいく足をさすった。あざになりそうだ。金髪女の攻撃はフェアじゃないし、二人は別に敵対しているわけでもなかった。しかし、相手が手を引かない限り、戦わざるを得ないだろう。トリッシュは、金髪女のゴツゴツした膝を自分の膝でつっついた。

 すると、エドはトリッシュが好きな歌を歌い始めた。

「あなたの恵みが今私に……御前に出て我を捨て……永遠の主よ……」

 大切な人は誰だろう? 金髪女の友達? それとも神様に栄光をもたらすこと? 今夜トリッシュは、全てを顧みずに神様を礼拝する決意を持ってきたのに、気が散り、突っつかれ、つねられた。初めて教会というものを経験するジャック隊長の前で礼拝することは、悪いことなのだろうか?

 しかし、礼拝は彼女のためではなかった。神様のための礼拝だった。トリッシュは出し惜しみをしていた。ホワイトチョコレートモカから生クリームを削ぎ落とすように。

「包み込んでください、主よ……内側から私を変えてください」目を閉じ、御言葉が心に刻まれるのを感じた。手を上げた。

 金髪女にまたつねられたが、目を開けず、トリッシュはその手を振り払った。

「あなたの光が輝き……決して終わらない……あなたを賛美し……」

 トリッシュは神様を賛美したかった。その小さい(まあ、それほど小さくないが)体の全てで賛美したかった。神様はそれに値するお方で、彼女の全てを要求されるお方だ。

「魂が叫ぶ……あなたを賛美し……」

 トリッシュはスッと立ち上がり、手を空中に高く上げた。指が何かにぶつかった――椅子の背かもしれない――が、どうでもいい。鳥かごから飛び出す鳥、ヒモを解かれた犬になった気がした。翼があって、神様のところまで真っ直ぐに飛んでいった。

 賛美はもう終わってしまった。ギターの音が響く中で立ち、頭を下げ、聖なる霊に心が満たされるままにした。

 目を開けて、座った。金髪女とジャック隊長はどこへ行ったのだろう?

 ああ、いた。ソーシャルホールから戻ってくるようだ。大きい黒い目を見せびらかせながら。映画の中で、連続殺人犯が犠牲者の頭を切り落とす前のような表情をトリッシュに向けて、にらんだ。

 金髪女はジャック隊長が座っていた席に身を投げ、二人の間に距離を置いた。

「あなたって、ほんとに迷惑な人ね」その声から、小さいため池を汚染するのに十分な毒を持っているような敵意が感じられた。彼女は用心深く目の上にアイスパックを置いた。

「どういうこと?」

 金髪女の顔は紫色になった。顔全体が目の色と同じだ。「ばか!」歯がむき出しになり、同時に歯ぎしりした。「あなたが立ち上がった時に目を叩かれたのよ」

 大変だ。「ごめんなさい」

 金髪女はあきれた顔で手を振り上げた。(知ったことか)

「ジャック隊長は?」

「誰?」

「あの……あなたの友達の」

「あなたは彼の魂を地獄に送ったことを喜んでいればいいのよ」

 少しドラマチックすぎないか?「訳がわからない」

「あなたが飛び上がった途端に出てったわ」

 胸の中の泡立つように開放される気持ちは凍りつき、お腹が叩きつけられた。「本当?」

「二度と教会の敷居をまたぐことはないでしょうね。あなたのおかげで」



(1) スナックのブランド
(2) 体自体は動かさず、肩だけを前後に動かすダンスの一種
(3) ハワイに移民した日本人が伝え、独自の進化をした「すき焼き」をルーツとする伝統料理

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※少しでも物語を楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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