【ひとり寿司】第19章

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第19章


マリコは、その悪名高い甘党遺伝子の威力をフル活用していた。

食べ物のテーブルを眺めながら、レックスはすでに、歯のエナメルが砂糖にやられるのを感じた。ナッツ入りバナナブレッド、セサミボール、アーモンドクッキー、フルーツカクテル、アーモンドカスタード、蒸しケーキ、それに、エビとくるみのはちみつソースもある。その朝、トランズ・ニュークリアコーヒーショップで買った強いコーヒーが、お腹の中でブクブクと音を立てていた。

「お腹空いてないの?」レックスのいとこのティキは、チョコレートクロワッサンを食べながら、不可能なほど長いまつ毛をゆらゆらさせている。

そもそも、アジア人のティキのまつ毛が何故そこまで長く、カールしているのだろう? 偽物に違いない。それに、何のためらいもなくチョコレートクロワッサンを食べているこの子がゼロサイズなんて、信じられない。ティキは息子も一人産んでいるというのに。

「ねえレックス、マリコは何かあなたを驚かせたいことがあるそうよ」

レックスはティキをのぞき込んだ。「時間の無駄よ」

猫のような目が、陽気に輝いた。「そうなの? どうして?」

「バイロン・ハーベイがいるのに、男は要らないわ」サクラメント・キングズのトップスコアラーだ。

ティキは瞬きした。その顔はぼんやりしている。脳みその容量と同じだ。「それは……いいわね」

レックスは口をすぼめた。「そうなの……バイロンか、ジェフ・ジャーマンか、どっちにしようかと思ってさ」

ティキの整った眉毛にシワができた。「誰それ?」

「ジャーマンよ。オークランドA’sの」

眉毛が真っ直ぐになった。「ああ、野球ね」選手の名前など知るものか、という言い方。

レックスは、横隔膜が落とし戸のように落ちるのを感じた。このおバカさんは、スポーツのヒーローを誰も知らないのか。マリコの結婚式にプロのアスリートを連れて行くということは、文盲者が集まるディナーでピューリッツアー賞に輝くようなものだ。

「タヴィが泣いてるわ」ティキは、金切り声を上げる赤ん坊をなだめようと、飛び出して行った。

レックスは肩を落とした。少なくとも、UCLAの同窓会担当者の機嫌を取ってバイロンの電話番号を聞き出す手間が省けたから、よかった。どうせ、本物の恋人だと祖母に確信させることはできなかっただろう。

「オッケーみんな、ゲームを始めるわよ」マリコはチアリーダーのように元気よく、居間の真ん中に立っていた。

ティキは、泣いている一歳児を揺らしながら、マリコににじり寄った。「バートはどこ? 子守をしに来てくれることになってるんだけど」

マリコはシーッ、と言ってティキを黙らせた。

ドアがあいた。

ミスター・ベビーシッターは、剣闘士と戦うためにコロシアムに入るラッセル・クロウのような血色、体格、顔色をしていた。真っ直ぐ伸びた背筋、上を向いたあご、食いしばった歯、険しい目——戦う準備は整っている。

「やっと来たわ!」ティキは、彼の腕の中にタヴィを押しつけた。「ほら、タヴィちゃん、バート叔父さんよ」マリコの方へ踊るように戻った。「じゃあ、始めましょ」

「バート、そこに座って」マリコは、マニキュアを塗った指で、二つ並んで置かれた椅子の一つを突いた。「レックス、あなたは——」

「はいはい」レックスはバートの隣にドスンと座った。

彼はジャック・ハンマーのようにタヴィを揺らすので、肘がレックスの腕に軽く触れている。

レックスは椅子を数センチずらした。

「みんな、洗濯バサミを五個ずつ取ってくれる?」ティキが洗濯バサミを配った。「どこでもいいから自分の服にはさんで」

レックスは、針もぐらのようにブラウスの袖をはさんだ。

「誰かが『ウェディング』っていう言葉を言うのを聞いたら、言った人から洗濯バサミを一つ取るの。最後に持ってる洗濯バサミが一番多い人の勝ちよ」ティキは手を叩き、これより気のきいたゲームはこの世にないかのように、爪先で飛び跳ねた。

レックスは自分の洗濯バサミを五個全部外して、ミスター・ベビーシッターに渡した。「はい、ウェディング」

「レックス!」ティキの顔がそのピンク色の唇と同じ色になった。「あなた、シャワーの精神を分かろうともしないの?」

「しないわ」レックスは嬉しそうに言った。

ミスター・ベビーシッターは、しゃっくりをし始めたタヴィを片手に移し、レックスの洗濯バサミをつかんだ。「サンキュー。この後はもう一言もしゃべらないから」

「みんな、じゃあ今度は、ここにあるトイレットペーパーを使ったゲームよ。好きなだけ取っていいわ」トイレットペーパーのロールをみんなに渡しながら、マリコはクスクス笑った。他の女性も、トイレットペーパーを引っ張りながら笑い始めた。レックスは一切れだけ切った。

「二つのチームに分かれるのよ。あなたたちはチーム・ワン——」マリコは三人のバービー人形(レックスはこの子たちの名前を覚えていなかった)、レックス、ミスター・ベビーシッター、ベビー・タヴィを指さした。「残りがチーム・ツー。じゃあ、一人がモデルになって、トイレットペーパーでウェディングドレスを作るのよ!」

(冗談でしょ)それに、何でマリコが歓声を上げているのか? これほどバカげたブライダルシャワーは史上初ではないだろうか。

「レックス、モデルはあなたよ」チリチリの金髪の背の高い女の子が言った。

「だって私たち、ドレスの作り方を知ってるから」このアジア系の女の子は、緑色のコンタクトレンズをつけているせいで、エイリアンのように見える。

「いやよ、絶対」レックスは腕組みした。

「いいじゃない」ショートヘアの巨乳女子の身長は、手に持っているトイレットペーパーと同じ長さだ。「あなたが抵抗しなければ、早く終わるのよ」

確かにそうだ。そうすれば、レックスはドレス作りを手伝っていないことにはならないし、ミスター・ベビーシッターは手が空かない。「分かったわよ」レックスは腕を伸ばして、緑のコンタクトの鼻をはじくしぐさをした。

マリコは時間制限を設けるべきだった。三バカ大将は、トイレットペーパーの切れ端を全て使おうとして、どこに置こうかと悩んでいた。

「肩の上は?」

「ダメよ、素敵なトレーンが隠れちゃう」

「前に落とそうか?」

「ダメ、ラインが崩れる」

(ライン? トイレットペーパーのドレスなのよ、お願い。それに、どうしてそこまでさわる必要がある?)「早くしてよ!」レックスがくるっと回ったので、三人がギロッとにらんだ。ミスター・ベビーシッターは離れたところに座っていて、タヴィをフットボールのように抱いている。

ドアベルが鳴った。レックスのグループはドアの近くにいたので、巨乳女子がドアをサッと開けた。

レックスが体をひねった。「ダメ!」

もう遅い。ドアが開いた。「お届け物です。サインをお願いします」宅配便の配達員が、茶色のユニフォームを着て立っている。ミイラのようになったレックスを、驚いたような顔で二度見した。チリチリの金髪が、ベールだと言ってレックスの頭をさらに多くのトイレットペーパーで巻いていた。

レックスは配達員をにらんだ。「何見てるの?」

彼は飛び上がった。「な、何も見てません」巨乳女子が走り書きでサインをし終わらないうちに、電子パッドをつかみ、急いで出ていった。

やっと終わった。レックスを見て彼女らが笑っている間、レックスはしかめっ面をして立っていた。ドレスを見て笑っているのだと、どうすれば信じられるのだろうか——マリコはやっとうなずいて、レックスの体からトイレットペーパーを剥ぎ取り始めた。

「あ! 気をつけて!」緑のコンタクトが、自分達の創造物を保存しようとした。

レックスは、彼女の瞳孔が縮むのが見えるほど顔を近づけた。「ただのトイレットペーパーよ」

「じゃあ次のゲームは、下着当てクイズよ!」ティキはサディスティックな笑いを震わせた。「マリコのためにセクシーな下着を持ってきてって、みんなに頼んだわよね——それがここにあるわ——誰が持ってきた下着なのかを当てるの!」

ティキは、子供の頃に頭をぶつけたのだろうか? この狂ったゲームは一体、何?

タヴィが金切り声を上げている——すごい、この子はずっと泣き続けている——マリコがレックスの方を見た。「レックス、あなたが先よ」

「いやよ」レックスはあごを突き出した。

マリコは、短刀が飛び出すような目でレックスを見た。

レックスは、そのレーザービームのような眼力で、「資生堂」の顔を穴があくほど見た。

マリコが一歩、レックスに近づいた。

(リ、リ、リーン!)

携帯電話に助けられた。祖母の友人の息子からの電話であったとしても、大歓迎だ。

もしかしたら……見覚えのある番号だったが、思い出せない。「もしもし?」

「レックス、エイデンだ」

レックスは、マリコに向かって明るい笑顔を輝かせた。「ごめん、ちょっと話さなきゃ」キッチンへ逃げた。

「ハーイ、エイデン、どうしたの?」冷蔵庫の中をのぞいた。もしかしたらマリコが、にんじんスティックを入れてるかも……

「君、僕の携帯持ってるよ」

額が棚の角をかすめ、レックスは背を正した。「どういう意味? 今話してるじゃない」ヒリヒリする皮膚をさすった。

「君の携帯からね」

レックスは電話を見た。あれ? 「どうしちゃったのかな?」

「覚えてる? 昨日バレーボールで? 一緒に電話に出たの」

「ああ、そうだった」レックスは、電話に出ずに放り投げたのだった。電話をバッグに入れた時も気がつかなかった。

「今どこにいる?」

「クパティーノ」

「近くにいるから、電話を交換しに行ってもいい?」

「もちろんいいわよ!」(おっと、落ち着いて、落ち着いて)「ああ、別にいいわよ」

「住所教えて」

日曜学校の子供達が元気よく言うように、レックスはマリコの住所を暗唱した。「道順分かる?」

「いや、だけどナビで見るよ。迷ったら電話するから」

あの忌々しい下着ゲームが終わるまで、リンゴをもぐもぐ食べながらキッチンでうろうろしていた。そして、じっとしていないタヴィを抱えながら、誰かが入れてくれた、シロップのようなパンチを飲もうとしているミスター・ベビーシッターの隣に座った。

彼はコップを差し出した。「ちょっとこれ、持っててくれる?」

「いいわよ」コップをつかんだ。

ミスター・ベビーシッターは、まっすぐ伸ばした腕を揺らしながら、泣き叫ぶベビーを抱えている。タヴィの泣き声は、耳をつんざくような遠吠えへとエスカレートしていった。

レックスの方を向いたミスター・ベビーシッターの目は、純粋なパニック状態だった。「赤ちゃんの扱い方、知ってる?」

「知らないわ」ティキの甘やかされた赤ん坊をレックスが虐待してくれたら、彼はいくらでもお金を払うだろう。

タヴィは一瞬止まり、口を大きく開けてゲップをした。濁ったよだれが垂れている。

(ウエーッ)リモコンを取ろうとするときの父より早く、レックスは目を背けた。マリコが何か病的に甘い香りをふりまきながら、そばを通った。虐待にさらされたレックスの胃はグルグル鳴った後、おさまった。

タヴィは落ち着いてきて、すすり泣きと荒い鼻息、しゃっくりだけになったが、とても湿った、ドロドロした、気持ちの悪い音を立て始めた。よだれかけには、黄土色のよだれの大きいシミがついている。(考えちゃダメ!)レックスはタヴィを見なくていいように、片目を閉じようとした。

鼻で浅い息をしていたのだが、何か明らかな嘔吐物の臭いを吸ってしまった。吐き気を催した。

「マリコ、ちょっと気分が悪いの」

マリコはレックスを睨みながら、頭を傾けた。手でお尻を支え、鎖のように腕輪をジャラジャラ鳴らしている。「そこから動かないで」

「嘘じゃないわ、マリコ」

 ピンク色のグリッターがついたエクステがレックスに狙いを定めている。「じっとしてて」

また吐き気がしてきた。じっとしていれば、おさまるかもしれない。

溢れ出る液体のような音。手に温かいものが垂れ、スラックスにしみ込んでくる気がした。

(見ちゃダメ、見ちゃダメ、見ちゃ—— )

吐いたニンジンのにおいがレックスを襲った。ショックで目が、ぱっと開いた。

黄土色のものが手に、腕に、脚全体にはねた。なんてラッキー。タヴィは、まだ嘔吐物を噴出させている。

胃が沸騰してきた。内臓がかき乱されている間、手で口と鼻を押さえ、冷静に落ち着いて考えようとした。

不幸にも、手の中にシロップのようなジュースが入ったコップがあるのを忘れていた。ジュースは、そこら中に飛び散っていた。

ほとんどはタヴィのよだれかけと、この子の頭、そしてミスター・ベビーシッターのパンツに飛んだ。それから、マリコの家の床にも。

「きゃーっ!」マリコの突き刺すような叫び声が、レックスの体に響いてきた。

体が動かない。ニヤッ、と笑うタヴィの黄土色の顔を見て、震える手でお腹の真ん中を押さえた。

ティキがタヴィの方へ走ってきたが、ミスター・ベビーシッターがこの赤ん坊を押しつけようとすると、腕をカナリアのようにバタバタさせて立ちすくんだ。「キャッ……ウゲッ……あの……」

「レックス、どうしてこんなこと?」緑のコンタクトが周りをグルグル歩いていたが、タヴィの振り回す腕にあたらないよう距離を置いていた。「赤ちゃんだから」

「始めたのは彼よ」レックスは赤ん坊が自分の手に吐いたものを、ミスター・ベビーシッターのパンツで拭こうとした。

「おい!」彼はレックスから離れた。

「どうせ、もう汚いんだから、いいじゃない」

「君もそうだ」

うーん。確かに。あぁ、大変だ。「気持ち悪くなってきた」

彼らの周りにできた輪は、風船より早く大きくなってきた。ミスター・ベビーシッターは、混乱した目でそこにいる一人一人を見回した。「誰か、この子を頼む!」

レックスは、ミスター・ベビーシッターの方向に吐こうとした。

「自分のパンツに吐け!」

ドアベルが鳴った。

緑のコンタクトが、レックスに指を振った。「頭を足と足の間に入れるのよ」

レックスは涙が溢れてくる目で彼女をにらもうとした。悔しい。具合が悪くなるといつも、涙が出た。今は泣きたくない、この人たちの前でだけは……

「レックス・坂井さんはいますか——?」

(エイデンだ)

彼は明るい太陽を背にして、開いたドアのところに立っていた。輝くよろいをまとった騎士だ。

「助けて」レックスはしわがれた声で言った。

**********


彼は、輝くよろいをまとった騎士になった気がした。

レックスは、餅より白い顔をしていた。涙が顔をつたい、まるで自分のものであることを否定するように、オレンジ色の手を前に出した。

エイデンは、食べ物が置いてあるテーブルまで歩いていって、カクテルナプキンの束をつかんだ。そのうちの半分は手、残りはパンツを拭くために使わなければ。「具合が悪いところはどこ? めまいは?」

レックスは頭を振った。目を堅く閉ざし、口もピッタリ閉めたままだ。

「吐き気は?」

うなずいた。

女性らは、ハトの群れのように、理解しやすい言葉でエイデンの周りでおしゃべりしていた。あらゆる忠告、質問、当てこすり、誘惑を、彼は無視した。

少しレックスに似た女の子が、彼の上腕に爪を立て、耳元で囁いた。「ここから連れ出してあげて」

レックスは、ガクガクする膝で立ち上がった。エイデンは彼女の肘を持ち、ドアまで誘導した。中にいた女性の一人が、レックスのバッグを肩にかけてくれた。

女性たちが赤ん坊をウェットティッシュで拭いている間、バカ男はそこに立っていたが、そのうち自分のパンツを拭き始めた。レックスがドアの方へ向かうと、彼は立ち上がり、ブルドッグのように彼女の前に立った。「これ、ジョヴァンニなんだけど、君に新しいの買ってもらおうかな」

エイデンは、レックスの口から炎のように熱い答えが返ってくるものと思ったが、レックスはチラッと彼を見ただけで、ぼんやりしていた。

そいつは、ビーズのような目を彼女に傾けた。「ジャイアンツのチケットを取ってくれたら赦してやってもいいけど」

レックスはゼイゼイしながら息を吸い込み、答える前にそれを呑み込んだ。「大学の試合だけよ、バカね」ドアの方を向いた。

エイデンは、レックスの腰をしっかり手で抑えたが、緊張による衝撃でお腹全体が硬くなった。すぐ手をどかした。

肘をつかまれているのは大丈夫なようだった。彼女の重心が彼の手にもたれかかった。ドアの外に引きずり出すと、誰かがバタンとドアを閉めた。

エイデンのSUVのドアが開き、レックスは革の座席を見て尻込みした。「パンツが——」

余分のTシャツは、どこから出てきたのだろうか? トランク? いや、後ろの席だ。彼はそれを革の座席に広げ、慎重に彼女を座らせた。

エイデンは運転席に座った。「うちは?」

「ブロッサムヒルと85」レックスは目を閉じた。

涙がこぼれてきた。彼女は目を開けない。世界を締め出したいのだろうか、と彼は思った。

どう言うわけか、これは具合が悪いからではないことに、彼は気がついた。全身が震えているようだった。彼女がこのように弱く不安定になるのを見たことがある人は、いったい何人いるだろうか? 手はドアの取っ手をつかみ、指の関節は白くなっている。

(騎士みたいだな、俺。この子が最悪の状態の時に一緒にいるなんて。彼女も感激してるぞ)唇をキュッと締める前に、下唇が震えているのが見えた。

「大丈夫だよ。下道を通ってゆっくり行くから」

彼女の顔に少し笑顔が見えた。彼は心が大きくなった。

が、すぐにそれをガス抜きした。バカ。彼女はトリッシュのいとこで、クリスチャンだ。トリッシュのような偽善はもう十分じゃなかったのか?

「ドラム——」

「何?」

足元に置いてあるバックパックに手を伸ばした。「ドラム——」中を手探りして、薬の入った袋を取り出した。

レックスは袋を手に取って、やっと彼を見た。そのぼんやりした目つきは、何かを訴えているようだったが、何故か落ち着きがあり、彼を信頼しているように感じられた。

彼は車を停め、彼女から薬の袋を取り上げた。「ドラマミン?」オレンジ色の錠剤を取り出した。

「吐き気のため」彼女は錠剤を口に入れ、バッグからウォーターボトルを引っ張った。

エイデンは、レックスから道順を聞きながら運転した。彼女の声が不鮮明になり、眠気のために目が伏し目になってきた。「薬のせいよ、眠くなるの」あくびをした。「サンタテレサをまっすぐ行って。あと三キロぐらい」彼女はため息をついた。そして、もう一度。「エイデン、本当にごめんね」

輝くよろいをまとった騎士。「いいよ、別に」

「あなたが来てくれて、ほんとによかった」

「携帯が必要だったからさ」

「どうでもいいわ。取りに来てくれるなんて、本当に親切ね」彼女があくびをすると、喉の奥から少し音がした。「あなたといると、居心地が悪くならない。あの娘たちと違って」

「あの娘たちと一緒にいると、居心地が悪くなるの?」エイデンは、レックスに話をさせようとするべきではない。今のように混乱しているときには。

革の座席に心地よく横たわり、目を閉じた。「あっちは中傷するけど、あなたはしない。文句も言わないし」

うとうとし始めた。目を覚まし、不明瞭な言い方で言った。「ウェディングケーキ」

「結婚式の夢でも見てた?」

微笑んだが、目は開けなかった。「うん、あなたは悪い人じゃないわね」

「そう思ってもらえて、嬉しいよ」

「ほんとよ。あなたのこと、好きになりそう」窓の方に頭を向け、座席に沈み込んだ。

「ええっ?」

巨大なあくびをして、こんなことを何かぶつぶつ言った。「私と結婚して、おばあちゃんから私を救ってくれる?」

トラックにぶつかる前に、彼はハンドルをグイッと戻した。


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