【ひとり寿司】第20章

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第20章


トリッシュが久しぶりに教会に来た。ワーシップ・リーダーが閉会の祈りを言い終わる前にトリッシュが抜け出さないよう首を伸ばしながら、レックスは、長椅子でそわそわしていた。

「アーメン」

レックスは椅子から飛び上がり、教会の裏へと急いだ。後ろの方に座っていたトリッシュは、すでにドアの外に滑り出ていた。

トリッシュがマリコのブライダル・シャワーに来ていれば、家の前であっさりレックスを降ろして走り去るという行動をエイデンに取らせるようなことを、レックスは言わなかっただろう。ドラマミンのせいで眠すぎて、思い出せなかった。少なくとも、車を取りに、父と一緒にマリコの家まで行くべきことは覚えていた。

「レックス」

立ち止まって振り向いた。「ビーナス。今日は教会、行かなかったの?」ビーナスは、レックスの教会の独身男性が執拗に言い寄ってくるので、別の教会に行っていたのだった。

「今日はこっちに来たの。あなたに会いたかったから」

「どうして?」レックスは、トリッシュがトイレに隠れるのを見た。よかった。ビーナスと話す時間ができた。

「ブライダル・シャワーのこと、聞いたわよ」

低いうめきが喉の中でゴロゴロした。「その話はやめよう」

「デトックスの泥ラップはどう?」

「へ?」レックスは顔をしかめた。「ちょっとまだ胃の調子が良くないの、ビーナス」

「違うって。ベルビュー・スパのデトックス・トリートメントよ」

「私の肌はそんなに大事じゃないから」

「リラックスするためよ、バカね」

「あーあ、すごい、それいいわ、ビーナス」トリッシュがトイレから出てくるのが見えた。「ちょっと待って、トリッシュと話さなきゃ。トリッシュ!」

トリッシュは振り向かなかった。いつも日曜学校の先生をスカウトしようとしているミセス・キャスカートに追いかけられているかのように、建物から走り去っていった。おしゃべりをしている人のグループを迂回しながら、レックスはトリッシュを追ってドアの外に出た。

よろめきながら駐車場に出ると、賢そうなアジア系の男性が運転する赤いマツダのオープンカーに、ちょうどトリッシュが乗り込むのが見えた。彼らは車を急発進させて、教会の駐車場を出ていった。

取り残された。虚しさのためにお腹が痛い。トリッシュがレックスから逃げることなど、これまで一度もなかった。何故、一緒にいたくないのだろうか?

「あれ、彼氏なの?」ビーナスのハイヒールがアスファルトの上で音をたてた。

「多分ね」レックスは、鼻声を隠すことができなかった。「私と話したくないみたい」

「気にしちゃダメよ、分かった?」ビーナスは自分の車、シルバーのオープンカーの方へ歩いた。「私が運転するわ」

**********


「ウエーッ。見られない。吐きそう……」

ビーナスの苛立った鼻息。「見なくていいの。目を閉じてて」

「だけど開けたら、見えるのは茶色いベタベタだけ。ウグッ……」レックスの胃は、吐くべきかどうかが分からないように迷っていた。

目をかたく閉じ、泥風呂に深く沈んだ。確かに熱がとても気持ちよかった。昔の腰の負傷——会社の椅子のせいだ——は、背骨の底に押し込まれた岩のような感じがしていたが、泥の中で体を伸ばすと、その圧迫感がゆっくりと退いていった。

ビーナスが自分の泥風呂の中で位置を変えている、べちゃべちゃした音が聞こえた。「気持ちいいでしょ?」

このベタベタしたものに浸かっていると、心が行きたくないところへふらりと行ってしまう。トリッシュは何故逃げたのか。駐車場に取り残されたときの苦痛。

(もうやめよう。楽しいことを考えなきゃ)脳みそはその願いに応じず、マリコのブライダル・シャワーに戻っていった。そういえば、この泥は少し——

「リラックス!」ビーナスは叫んだ。

「そんな声の調子じゃ、リラックスできないわ」

「そんな顔してたら、あんたが何か心配してるのが見え見えよ」

ビーナスの方を向いた。「お父さんが家を売った、って聞いた?」

「聞いてない。いつ?」

「水曜日。二週間後には出ないといけないの」

「どこに?」

「今探してるとこ……」レックスはもっと真剣に住む場所を探さないといけない。多分、コンドミニアム全部ではなく、一軒家のひと部屋を借りられるだろうか。「ワサマタユのトライアウトに呼ばれたことは言ったっけ?」

「すごいじゃない! いつ?」

「二週間後。問題は、高い前金」

「トライアウトのためにお金取るの?」

「選ばれなかったら戻ってくるの。入れたときにちゃんと払えるかを確認したいんだと思う」

ビーナスが泥の中に深く沈んだ。「私が払ってあげる」

「ダメよ!」

ビーナスはのんびりと横目を流した。「大丈夫よ」

ゲーム開発の会社でトップから二、三レベル下という、高いポジションにいるのは知っているが、ビーナスに借りを負いたくはない。「ダメよ。お金を貯めたから」

「それはコンドミニアムの頭金にするんでしょ? そのために、我慢してお父さんと一緒に住んできたんじゃなかったの?」

「五%の頭金には足りないし。夏の女子チームのプレイオフのためにも十分じゃないの」レックスがモゾモゾ動くと、泥が磁器製の風呂桶の脇に飛んだ。「だから、ワサマタユのために使おうかな、って思い始めてる」

「プレイオフのために使って、少し足りない分を集めた方がいいんじゃない?」ビーナスが厳しい目つきを投げた。

レックスにとってワサマタユは、バレーボール選手としてのキャリアの頂点にあるものだが、高級ジム会員のビーナスには決して理解することができないだろう。「ワサマタユの会費は私だけのためじゃないの。このクラブはお金持ちでスポーツ志向のヤッピーが集まってるわ。チームのスポンサーを見つけるには完璧な場所なの。女子チームのプレイオフの費用なんて、彼らが銀行に持ってるお金と比べたら些細な額なのよ。税金控除にもなるし」

「確実に誰かに頼める、ってわけね。だけど、ちょっと賭けじゃない?」ビーナスの声は冷静だ。

「彼らはアスリートだから、話が通じるの。私のジレンマも分かってくれるだろうし、喜んでチームのスポンサーになってくれると思うわ」

「あなたがそう言うんだったら、そうなのかもね」

ビーナスの懐疑的な態度がレックスに決意させた。「いい考えだと思う。ワサマタユのためにお金を使うわ」

**********


神様という方は実用的なジョークを使うものだろうかと、エイデンは思い始めていた。

勾配のある丘を走ろうと、わざわざ南サンノゼまで来たのに、何故この人にばったり会ってしまうのだろうか? 話すのが一番ためらわれる人。彼女は、彼に結婚を申し込んだことを覚えているのだろうか?

それに、レックスの家はこの近くではない。何故だろう?

レックスはまだエイデンを見つけていない——丘を登るのに苦戦している。少し足を引きずりながら。足首に何か問題があるようだ。

避けた方がいい。彼女は、彼のアラームシステムが警告を発する対象物そのものだった。きっぱり断ることを余儀なくされた、押しの強い女の子の友達で、その子の親戚でもあり、教会へ行くと言うだけではなく、実際、毎週、教会へ行くほど熱狂的なクリスチャン。常識的に考えて、彼女に近づくべきではない。

ただ彼女は、彼がその良識を失うほど魅力的でもあった。それに、同じバレーボールチームにいて、彼の携帯を盗み、結婚を申し込み、彼のマラソンのコースで待ち伏せしているという小さい事実もあった。

彼女に追いつこうと急いだ。

彼女は脇道にそれ、見えなくなった。

胃が、どさっと落ちて、そこに小さい空洞ができた。トレーニングコースからそれてしまえば、レースのために体調を整えられない。丘を登りながら、自分に蹴りを入れるものを失くした気がした。

一つ目の丘の頂上までダッシュしたら、肺が引き伸ばされた。降りてくる途中、彼は誰もいないスーパーの駐車場を突っ切って、ゴミ置き場の角を右に曲がった。

「ウップ!」

柔らかく軽い人とぶつかった。彼はよろめき、彼女は倒れた。

レックス。彼はレックスとぶつかったのだった。(嘘だ。神様、あんたって変なユーモアのセンスの持ち主だな)

絶対に、笑い声が聞こえたと思った。

「大丈夫? 君の足首——」彼女を助け起こそうと、手を差し出した。

レックスはそれを振り払った。「大丈夫よ」立ち上がって、数歩、歩いた。「でしょ?」

「足、引きずってるじゃないか」

「そんなことない」下唇を突き出した。

表情を抑える間もなく、眉毛が上がった。「分かった、分かった。引きずってない」

エイデンをにらんだ。「私をバカにしてる?」

「全然」

「ふん」振り向いて丘の上に向けた顔は、ガックリしているようだった。

「トレーニング中?」

「どうして分かるの?」

「トレーニングじゃなきゃ、走らないって言ってたよね」

「ああ」青白い頬が、朝日に当たって赤くなった。「あの……ごめんなさい。あの時は失礼なこと言って」

首が緩んだ。「別にいいよ」単純な謝罪なのに、彼は降参した。哀れなことだ。

「あなたもトレーニング中なの?」

「ああ」丘を見た。「もうすぐマラソンなんだ」

「そうなんだ、じゃあ、行ったら?」彼女は駐車場の方を向き、ポケットから車の鍵を引っ張った。

「トレーニング中じゃなかったの?」

顔をしかめた。「今日はあまりやる気がしなくて。最近……いろんなことがあってさ。あのブライダル・シャワーの他にもね」

「何言ってるんだよ、行くぞ」エイデンは丘を登り始めた。「早く」

レックスは混乱し、イライラした表情で彼をじっと見た。

彼は身振りで彼女に来いといった。「女々しいぞ」

この言葉で彼女が挑発されるのは分かっていた。もちろん、彼女は急に彼の後を走り始めた。

「女々しくないわ」彼を見る目は猛獣のようだった。

「もちろんさ」表情がなさすぎる顔を向けた。

レックスは眉をひそめた。

エイデンはニヤッと笑った。

**********


レックスは、エイデンが笑った顔をあまり見たことがない。彼はいつも控えめで、落ち着いていた。何てこと、オーランド・ブルームみたいだ。彼女の心臓は、一定のリズムに落ち着く前に、少し飛び跳ねた。

彼は、彼女よりずっと早く走った。驚くことではない。本物のランナーと一緒に走るのは初めてだった。いつもはバレーボール友達とペースを決めるのだが、今はついていくのも難しい。

「頑張れ、できるよ。もうちょっとだけ、このペースで」

(ゼーゼー)

「僕、理学療法士でトレーナーだから」

「つまり——(ゼーゼー)——いじめのプロね」

彼は笑った。「調子を整えたいんじゃなかった?」

「もちろん」(ゼーゼー、ハアハア)「死にたくないけど」

「オッケー、じゃあ膝を上げて」

レックスの足は、アリゾナの太陽より熱くなっていた。肺は今にも爆発しそうだ。

「何のためのトレーニング?」息を切らしてもいない。嫌なやつ。

彼女は空気を吸い込んだ。「ワサマタユよ」

「すごい、おめでとう。バレーボール?」

「そう」

「もっと膝上げて。で、いつなの? トライアウト」

「土曜日」

「一週間しかないのか。ほら、怠けるな。膝を上げるんだ。選ばれたいんだろ?」

決意に駆り立てられ、お尻を槍で突かれたように、レックスは丘のてっぺんまで行き、反対側へ降り、それをもう一度、繰り返した。エイデンが汗をかき始めたときには、彼女は逆に嬉しくなった。

ちょうど良い時間に、二人はスーパーの駐車場に戻ってきた。レックスは全身が痛かった。頭も痛い。

「ごめんね。私がいたから、あまり真剣に走れなかったでしょ」これが逆の立場だったら、彼女は怒りまくっていたかもしれないが、エイデンは肩をすくめただけだった。

「昨日はもっとタフなトレーニングをしたんだ。君が帰ってから、もうちょっとやってくよ」

(うそ)

レックスの様子を観察しながら、エイデンは頭を傾けた。「口、閉じた方がいいよ。周りに蜂がいるから」

彼女は、彼に向かって顔をシワクチャにした。

彼は微笑み、特徴のない顔から素敵な顔へと変わっていった。

何故、今までそのように見えなかったのだろうか?


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