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うまく進まない日のために

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うまく進まない日のために 最近、私は自分の仕事ぶりに少しがっかりしていました。 一日にどれくらい働けたか、どれくらい言葉を書けたかを振り返るたびに、「もっとできたはずなのに」と感じてしまうのです。 つい、集中力が高く、規律正しく、次々と成果を出している他の作家さんたちと自分を比べてしまうこともありました。 以前、生物学の研究者として働いていた頃と同じような時間数で仕事をしようとしていましたが、文章を書くことは、思っていた以上に心と頭を使う仕事なのだと、改めて感じています。 集中力や自己管理をもっと身につけたいと思いながらも、気が緩んでしまう日もあります。 在宅で仕事ができるという恵まれた環境を与えられているのに、誰にも見られていないからこそ、怠けてしまいそうになることもありました。 そんな時、あるデボーショナルを読んで、はっと気づかされたのです。 私は「なぜ書いているのか」という一番大切な理由から、少し目を離してしまっていたのだと。 物語を書くことは、私が自分で選んだだけの仕事ではなく、神様に導かれて与えられた働きです。 結果や効率ばかりを気にするのではなく、まずは与えられた一日一日を大切に、目の前のことに誠実に取り組むこと。 その原点に、もう一度立ち返る必要がありました。 完璧でなくてもいい。 気が進まない日があってもいい。 それでも、今日できる小さな一歩を踏み出すことが大切なのだと、静かに心に留めました。 もしあなたも、仕事や日々の責任の中で、迷いや疲れを感じることがあれば、 少し立ち止まって「自分が大切にしたい理由」を思い出してみてください。 同じように感じることはありますか。 あなたは、どのように向き合っていますか。 「たゆまず、善を行いなさい。」 ―― テサロニケの信徒への手紙二 3章13節

【独身淑女のクリスマス】 第14章

→ 作品ページにもどる 第14章 ジェラルドは、全くと言っていいほどその下男に気が付かなかった。気が散っていたからだと言いたかったが、本当は、マイケルがうまくやっていたからだった。  ミランダが行ってしまった後、外は寒すぎたので、ジェラルドは心地よい暖炉のそばでお茶を一杯、と考えた。おまけにウィスキーもちょっと入れようか。しかし、下男らが音楽室から椅子を運び出していたために、寝室に行く方向は遮られていた。彼らは応接間に向かっていて、ジェラルドは今晩の客用に余分の椅子が必要になったのかと推測した。フェリシティが豪華な夕食会を計画していたのだ。  下男が一人、ジェラルドのそばを通ったのだが、他人の制服を着ているのではないかと思われるほど似合っていなかった。最初、その下男の顔は完全に知らない顔だった。すると突然、その召使いは青緑色の目をジェラルドに向け、ウィンクした。  ジェラルドは歯ぎしりをした。  ゆっくり廊下を進み、音楽室を過ぎて寝室に向かった。寝室のドアのところで立ち止まり、待った。  執事は、下男らが静かに歩き回るのを立って監視していた。問題の人物である下男は応接間を出て、もっと椅子を取りに音楽室に戻ったが、ジェラルドは自分の寝室へ入る前に、彼をキッと睨んでこちらへ来るようにと合図をした。そして暖炉の前に腰を落ち着かせ、待った。  数秒後にドアを引っ掻くような音がした。「どうぞ」ジェラルドは大声で言った。 「ご機嫌斜めだね」部屋に入りながらマイケルは言って、ドアを閉めた。ジェラルドが最初に見た妙な召使いではなく、突然いつものマイケルに戻っていた。 「何で君がその制服を着てる?」ジェラルドが詰問した。  マイケルは袖を引っ張りながら、無実を装った。「あれは明らさまだよ。仕事中に話しかけるなんて、僕をクビにしたいのか」 「召使いのふりをして忍び込むなんて、危険すぎる」ジェラルドは言った。「君が着いた時に話し合っただろ」 「ずっと村の行商人のふりをしてたら、君を守れないよ」マイケルが言った。 「僕の父——君の叔父——に見抜かれてたかもしれないよ、バカだな」  マイケルはジェラルドを凝視した。「君は分からなかったじゃないか。それに、フランスでのあの日のことを忘れたっていうのか。君のお父さんだったら間違いなくだま...

【独身淑女のクリスマス】 第13章

→ 作品ページにもどる 第13章 十二月二十九日  彼女は彼のスカーフを巻いていた。  ジェラルドは屋敷の南側にあるポーチを通り抜けて、氷で覆われた石の上に注意深く松葉杖を置いた。昨晩数インチほどの雪が降ったので、子供達は南側の芝生の上で雪合戦をしていた。ミランダは敷石のテラスの端にあるベンチに腰掛けていて、首に巻いた赤と黒のスカーフが向こう側の雪景色に明るい色を添えていた。  振り向くと、ジェラルドが家を出て行くのが見えた。ミランダの顔は青白く、一瞬何か心配しているように見えた。そして、ジェラルドの不安を鎮めるよう風と波に命令するかのように、小さく笑った。空気は鼻と肺に食い込むように冷たかったが、ジェラルドはそれでも、降ったばかりの雪や、もみとウッドスモークの澄んだ香りを大いに楽しんだ。  ミランダは立ち上がり、彼の方へ歩いて行った。「休んでないとダメよ」 「君こそ休んだら?僕のことで文句を言う前に」ジェラルドが言った。 「文句は言ってないけど」目にシワがよった。「それに怪我もしてないし」 「昨日また襲われたんだよ、僕もそう」力が入りすぎて、続ける前に息継ぎをした。「本当に怖かった」  かすかな感情がミランダの顔に現れた。それを見てジェラルドは、キャンディー店の窓ガラスに鼻をくっつけている子供を思い出した。その感情が去ると、彼女はいつもの冷静で頼りになるミランダに戻った。 「座って」ベンチを指差した。「雪を払ったから」  ミランダは、敷石の端まで歩くジェラルドの隣を歩いた。「ミランダ」低い声で言った。「一人で座ってちゃいけないよ。危ないから——あいつらは君が目当てだ」  ミランダは何も言わなかった。頭を落としていたので、ジェラルドはボンネットの向こう側にある彼女の顔が見えなかった。 「ミランダ、この話を避けることはできないんだよ」  まだ返事がない。  ジェラルドはため息をついた。「話したくないんだったら、君が避けたがってるもう一つの話題に変えよう」 「お願いだからやめて」彼を見た彼女の頬が赤くなっている。  それを見たら、また彼女にキスしたくなった。  しかし、またそっぽを向いてボンネットで顔を隠したので、チャンスがなくなった。「私たちが襲われたことについて、みんな噂話をしてるわ。慎重に...

【独身淑女のクリスマス】 第12章

→ 作品ページにもどる 第12章 十二月二十八日  翌朝、ジェラルドがローブのままベッドでゴロゴロしていると、辛抱強いマドックスが尋ねた。「今日はスケートに行かれますか、ご主人様」  ジェラルドは答えを戸惑った。部屋に閉じ込もりたくはないが、女性達と脇で座っているだけ、というのも嫌だった。まして、年寄りのようにそりに乗せられて氷の上を滑るなんて、とんでもない。スケートが出来るほど凍ったあの湖までの馬車も、押し合いへし合いに違いない。  ドアを叩く音がして、マドックスがドアを開けるより早く、ミランダの声がした。「また下品なことをおっしゃってる?それとも、すねて動くのを拒否されてるかしら?」 「そのどちらでもない、薄情者!」ジェラルドは開いたドアに向かって叫んだ。 「湿布をもう一つ持ってきたわ」声だけが返ってきた。 「また僕の足を凍らせるつもり?」 「今度は温かい湿布よ」  ジェラルドはドアを睨みつけ、そしてマドックスに頷いた。ミランダから布袋を受け取った従者は、思わず身震いした。なぜ体から十分離すようにして持っていたのか、マドックスがベッドの近くまで来た時に、ジェラルドは気が付いた。布の中からは湯気が立っていて、その中には、茹でたカブにピリッとするハーブを混ぜたような臭いがするマッシュポテト状の塊が入っていた。 「前のよりもっとひどい臭いだ」ジェラルドは言った。  戸口の方から声がした。「マドックスが誤って体にこぼしても礼儀を忘れないでね、キャプテン・フォーモント。もっと長い間、香りを楽しむことができるわよ」  マドックスの唇の端がピクピク動いたが、顔は無表情なままだった。「いかがですか、ご主人様」  ズボンをはいている足を上げて、靴下を脱いだ。しかし、マドックスが膝にそのマッシュをのせている時、ミランダが寝室を覗き込んでいるのを見つけた。「ミランダ!」  しかしミランダは、彼の素足を見ても非常に冷静だった。「マドックス、もっと足の筋肉の方へ動かして」その冷静な表情にジェラルドは慰められた。ただ大騒ぎされないことが、何故だか彼にとってはありがたかった。  突然戸口で何か動きがあり、ミランダの頭が消えて、母の声がした。「ミランダ、あなた——まあ何てこと!」母は開いた戸口で立ち止まり、まずベッドのジェラルド、...

【独身淑女のクリスマス】 第11章

→ 作品ページにもどる 第11章 十二月二十七日  夕食が終わって子供達を寝かしつけた後、ミランダが応接間に入ると、奥の方にいるジェラルドがすぐに見えた。混雑した部屋でも必ず見つけることができる。だから、一日中彼が何かに気を取られているのが分かっていた。  二人を襲撃した男がまだ見つかっていないのは深刻な状況どころではなく、挫折以上のものだった。ジェラルドの目には活気がなく、顎に沿って更に緊張が増しているようだったので、ミランダは心配になった。まるで、体の痛みを超える深い苦痛を感じているように見えた。  その夜、燃え盛る暖炉の火の前で多くの者がシャレード(ジェスチャー遊び)をしている間、彼は母親と一緒に座っていた。母はゲームをする者たちの滑稽なしぐさを見て笑っていたが、ジェラルドはほとんど彼らを見ていなかった。怒りでこわばっているほどではないが、厳しい顔つきをしていた。母親が時々話しかけていたが、おそらく異なる理由のために、二人とも苛立っているのがミランダには明らかだった。  ミランダはこんなジェラルドを見たことがなかったが、冷酷無情の船長として船に乗る彼はこんな表情をしていたのだろうか、と想像してみた。  ミランダは部屋を横切った。「ミセス・フォーモントは音楽がお好きですよね。新しいグリークラブに参加しませんか?」年配のメンバーがピアノの周りに集まって歌っていた。「私でよければ、ジェラルドと一緒に座りますよ」 「ナーサリーメイドは要らないよ」ジェラルドは言い返した。 「私はナーサリーメイドなんだけど、どう答えたらいいのかしら」ミランダは愛らしく言った。  ジェラルドは彼女をにらんだが、さっきより苛立ちは和らいでいた。  母親は口をぽかんと開け、まずミランダ、そしてジェラルドを見た。母は数秒驚いていたが、すぐに言った。「必要ないわ、ミランダ。息子は私の責任だから」  母の冷たい言葉のために、ジェラルドは目を背けた。  ミセス・フォーモントは、これまでミランダに対して決して無愛想ではなかったが、ミランダがエリーに同伴することに抵抗しているせいか、少し距離を置いているように思われた。しかし原因が何であれ、また結果が何であれ、ミランダは、ジェラルドが荒れた気性に飲み込まれるままにしておくことはできなかった。昨日、口出しし...

【独身淑女のクリスマス】 第10章

→ 作品ページにもどる 第10章 十二月二十六日  襲撃された翌日、ジェラルドは足全体に刺すような痛みを感じて、朝早く目が覚めた。膝がクリスマスのプリンのように大きく腫れ上がってズキズキするので、夜中に何度も起こされた。  これまでも決して素直な患者ではなかったが、負傷してからは、いつもクマいじめにあっているクマのような気分で、大声で吠えたくなることがよくあった。父の従者であるマドックスがいつもより早い時間に寝室に入ってきたのは、このように不機嫌になっていた時だった。ジェラルドは感謝するべきなのに、膝の苦痛が体中を駆け巡って頭まで回り、目玉の裏で激怒していた。 「何だよ」ジェラルドは問いただした。 「ミス・ミランダがよこしてくださった湿布を持って参りました、ご主人様」 「要らないよ」頑固に言った。膝の痛みを和らげるために何かするべきなのは分かっているが、せめて苦しんでいる時は一人にしておいてもらいたかった。 「朝早く起きて、準備してくださったようですよ」主人の癇癪を無視してマドックスは言った。 「分かったよ」  従者はシーツをたたみ、ジェラルドの寝間着を丁寧に巻き上げて膝を出した。冷たい空気のために、怪我をしている方の足がシューっと音を立てて怒っているようだった。それからマドックスは、布に入れた包みを取り、ジェラルドの素肌にあてた。 「マドックス、氷じゃないか!」ジェラルドは叫んだ。「湿布っていうのは温かいものだろう」 「ミス・ミランダがくださったものですよ、ご主人様」  不快感のため機嫌は全く直らなかったが、マドックスが湿布をはがした後、少し気分がよくなった。 「朝ごはんをお持ちしましょうか、ご主人様?」 「結構だ、一日中寝間着でゴロゴロしていたくないからね」  従者は目をぐるりと回して呆れた様子を見せるようなことはせず、明らかに主人の息子はお尻をピシャリと叩かれても当たり前、という表情をしていた。「分かりました、ご主人様」  しかし、ベッドから鏡台まで歩こうとした時、かろうじて暖炉の前の椅子までたどり着いたものの、膝がズキズキして顔に汗が流れてきた。杖はもはや支えとして十分ではないことに気付き、部屋の向こう側に放り投げたい気分だったが、それを取り戻そうと思ったら、這って取りに行かなくてはならなく...

【独身淑女のクリスマス】 第9章

→ 作品ページにもどる 第9章 はじめミランダは、あまりの驚きと錯乱状態のためにものを考えることができず、ただ感覚のみがあるようだった。極上のウールの上着が頬に当たり、腰に当てた手と、背中にはもう片方の手がぴったり押し付けられていた。ミント、そして何故だか荒々しい海の匂い。  廊下の向こう側のダンスフロアに続く開いたドアから、女性達の笑い声が突然湧き上がり、二人は飛ぶようにして離れた。彼の腕の中にいなくても、ミランダはまだ……しっかりと包まれているように感じた。  彼に自分の顔を見せることはできない。長い間この家にいることで引っ掻き傷ができ、本当の自分という解けた糸を必死につかもうとする苦痛に満ちた顔。 「どうしたの?ミランダ」  彼女はただ頭を振っただけだった。  陽気な笑い声をのせて、軽快な調子の音楽がダンスフロアから流れてきた。家族や隣人がダンスを楽しんでいる間、この廊下に立っている自分がこれほど浮世離れしていると感じたことはなかった。不幸なわけではなかったが、このような社交は彼女の趣味ではない。変わり者で、どこにも属する場所がなかった。  ジェラルドは杖を取り、ミランダの手をつかんで引っ張りながら、ダンスホールから離れた方向へと廊下を進んで行った。 「一体何?」小声で言った。 「君も僕も、あんなところにはいたくない」開いた戸口の方を指すために頭を後ろに向けながらジェラルドは言い、ミランダはその声に鋭い苦痛を感じ取った。少し前にダンスホールで彼を見かけたときは、明らかに一緒にいた二人の女性に苛立っていたが、その目は逸れてダンスフロアを見つめていた。十四歳の頃も、ベルモアのいとこたちとダンスフロアを跳ね回るのが大好きだった。ミス・チャーチプラットンやミス・バーンズと座っているだけというのは色々な意味で辛いだろうと、ミランダは察した。  だから、後ろ側にある召使い用の階段に向かう廊下へと連れて行かれるのを許した。彼らは脇のドアから出て、家を離れて整形庭園に向かった。  夜空は暗く、新月が出ていたが、フェリシティは手さげランプとトーチを配置して、庭を照らしていた。おそらくゲストが恥ずべき行為を取らないように、暗い隅を照らそうとしたのだろう。過熱したダンスホールから敢えて出てくる人には空気が冷たすぎるので、フェリシティの...

【独身淑女のクリスマス】 第8章

→ 作品ページにもどる 第8章 ジェラルドは途方に暮れていた。あまりにも無力で、彼女のために何をしてあげることもできない。  彼らに向かって怒鳴りつけ、ミランダを笑い者にするのをやめろと言いたかった。あるいは彼女のところまで行って手を取り、食堂の外に連れ出したかった。しかしそんなことをしたら、彼女がもっと笑い者にされるだけだ。  ミランダの目の中に苦痛が見えたが、その顔は平静心の仮面で覆われていった。その瞬間まで、それが仮面であったことがよく分かっていなかった。  ミランダのことで、知らないことは沢山ありすぎた。知りたくなかったことも沢山あった。  今は、その全てを知りたかった。  今すぐということではない。まず、この忌まわしい杖がなくてもちゃんと歩くことができなくては。もう一度健康になりたい、そして自立し、自尊心というものを取り戻したい。  そしてこの瞬間、耳から血が流れ出す前に、両側にいる二人のおしゃべりな女から何とか逃げ出したかった。  ジェラルドはダンスホールの隅に座っていて、カップル達はカントリー・ダンスの旋律に合わせて揺れていた。壁に掛けられた緑樹の花輪は部屋に森の香りを添え、その中で召使い達は、ワッセル酒、パンチ、ワインの入ったカップを持って歩き回っていた。地域の者がみな招かれて、ベルモア家での年に一度のクリスマス舞踏会に来ていたのだ。  しかし、彼の隣に座っていた二人の女性はダンスに興味がないようだった。ミス・チャーチプラットンはチャーミングだが、会話は常に自分のことか、何か自分に関係のあることばかり。ミス・バーンズはそれほど自己中心的ではないが、ジェラルドの人生や趣味について彼を質問攻めにし、彼がしてきたことを全て褒め称えた。  ジェラルドは、どちらを向いても身動きが取れない。昔はダンスが好きで、すごく上手な訳ではなかったが楽しかった。見ているだけのダンスは全く楽しくない。  膝が痛み、「行き場がない」ことを思い出した。 「ひどい混雑ね」ミス・チャーチプラットンは言った。「客が多いとフェリシティは大喜びかもしれないけど、私はもっと小さくて人を選んだパーティーの方が好きだわ」 「舞踏会に行かれたことあります?キャプテン・フォーモント」ミス・バーンズが尋ねた。「きっと大人気だったんでしょうね」 ...

【独身淑女のクリスマス】 第7章

→ 作品ページにもどる 第7章 十二月二十五日 「かわいいわ」エリーはミランダに言った。 「ありがとう」ミランダは、ミス・ティールの部屋の壁にかかった小さい鏡の前に立って、黒髪をピンでとめていた。細く編んだ髪の毛を、更に簡単なパターンで巻くと、一見複雑に編んでいるように見えた。  今夜もまた、舞踏会の前に家族全員が一緒に食事をするので、ミス・ティールは既に着替えを済ませ、年長の女子生徒がトイレを済ませるのを手伝っていた。普段のミランダは、自分の服装のことなどほとんど気にしないのだが、今夜は……いつもと違うように見せたかった。その理由は全くないと分かっていたのだが。  着るものが沢山あるということでもなかった。両親と暮らしていた頃、彼らはパーティーや舞踏会に出かけたものだったが、ミランダはいつも一緒に行く訳ではなかった。混雑した部屋にいると息が苦しくなり、普段より更に退屈な会話しかできなくなった。だから、その当時も持ち衣装は少なかった。今持っているイブニングドレスは二着だけ、昨晩着た濃いブルーのドレスと、このドレスだった。  このドレスの方が気に入っていた。最近流行らなくなったふくらみのあるスタイルで、母が着なくなった淡い緑色のシルクのドレスを自分で仕立て直したのだった。エメラルドグリーンのリボンで縁取りをし、繊細な金色の葉のパターンで布地に刺繍を入れた。古いドレスで、ミランダが望んでいたほどピッタリ合う訳ではなかったが、刺繍の出来栄えは気に入っていて、スカートが膝の辺りでシュッと音を立てるのも女らしくて嬉しかった。 「そろそろ返してもらえるかしら、いたずらっ娘さん」着替えている間に使わせてあげていたネックレスを、エリーの首から外した。もともと母が持っていた頃は本物のエメラルドだったのだが、資金繰りが厳しくなって宝石を売り、ペーストに置き換えられた。ペーストストーンは色が不自然で、取り付けもよくないが、自分の目の色と合うので好きだった。  他人に良い印象を与えようとするべきではないと、またミランダは自分に言い聞かせようとした。他人に心を開こうとしないのだから、自分の容貌に対するジェラルドの意見には少しも関心がない。これまでに自分を理解してくれた人は一人もいなかったし、自分のことで、明るみに出ると困ることは山ほどある。  自分はい...