【独身淑女のクリスマス】 第10章
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十二月二十六日
襲撃された翌日、ジェラルドは足全体に刺すような痛みを感じて、朝早く目が覚めた。膝がクリスマスのプリンのように大きく腫れ上がってズキズキするので、夜中に何度も起こされた。
これまでも決して素直な患者ではなかったが、負傷してからは、いつもクマいじめにあっているクマのような気分で、大声で吠えたくなることがよくあった。父の従者であるマドックスがいつもより早い時間に寝室に入ってきたのは、このように不機嫌になっていた時だった。ジェラルドは感謝するべきなのに、膝の苦痛が体中を駆け巡って頭まで回り、目玉の裏で激怒していた。
「何だよ」ジェラルドは問いただした。
「ミス・ミランダがよこしてくださった湿布を持って参りました、ご主人様」
「要らないよ」頑固に言った。膝の痛みを和らげるために何かするべきなのは分かっているが、せめて苦しんでいる時は一人にしておいてもらいたかった。
「朝早く起きて、準備してくださったようですよ」主人の癇癪を無視してマドックスは言った。
「分かったよ」
従者はシーツをたたみ、ジェラルドの寝間着を丁寧に巻き上げて膝を出した。冷たい空気のために、怪我をしている方の足がシューっと音を立てて怒っているようだった。それからマドックスは、布に入れた包みを取り、ジェラルドの素肌にあてた。
「マドックス、氷じゃないか!」ジェラルドは叫んだ。「湿布っていうのは温かいものだろう」
「ミス・ミランダがくださったものですよ、ご主人様」
不快感のため機嫌は全く直らなかったが、マドックスが湿布をはがした後、少し気分がよくなった。
「朝ごはんをお持ちしましょうか、ご主人様?」
「結構だ、一日中寝間着でゴロゴロしていたくないからね」
従者は目をぐるりと回して呆れた様子を見せるようなことはせず、明らかに主人の息子はお尻をピシャリと叩かれても当たり前、という表情をしていた。「分かりました、ご主人様」
しかし、ベッドから鏡台まで歩こうとした時、かろうじて暖炉の前の椅子までたどり着いたものの、膝がズキズキして顔に汗が流れてきた。杖はもはや支えとして十分ではないことに気付き、部屋の向こう側に放り投げたい気分だったが、それを取り戻そうと思ったら、這って取りに行かなくてはならなくなる。
「ベッドにお戻りになられては?ご主人」
「ほっといてくれ、マドックス」叫んだ。
しかしその瞬間、後ろのドアを静かにノックする人がいた。ドアが開く音がして、ミランダの声が聞こえた。「これをあなたの主人にお願い、マドックス。ナーサリーの屋根裏で見つけたの」何を持ってきたのかを見ようとジェラルドが体をひねっているうちに、ドアは閉じられた。
マドックスは一対の松葉杖を持っていた。臆病な召使いだったらもっと注意深く行動したかもしれない。しかしマドックスは、王に贈り物を進呈するように、松葉杖を高くあげた。
ジェラルドはもう少しでその松葉杖をどこに放り投げればよいかを指示しそうになったが、舌をかんだ。そして長く低い息を吐いてから言った。「ここに持ってきてくれ」杖が用を足さなくなったことを、ミランダはどうやって推測したのだろう?
少し短めだったが、杖先が太めに削られており、容易にドアを通ることができるのは確実だ。ミランダの思慮深さに感謝するべきなのだが、数週間前に松葉杖が必要なくなったのに、非情にも元に戻ってしまったことを思い出さざるを得ない結果となった。
着替えは予想以上に難儀だった。怪我人だからと言って部屋に閉じ込められるものかとむきになり、腹立たしげに寝室を出た。
ミランダは、エリーと一緒に廊下でジェラルドを待っていた。
「ベッドで大人しくしてるはずがないって、ランダが言ってるよ」エリーは彼に言った。「ジャックストローで遊ばない?」
「ジャックストローをするために出てきたんじゃないよ」不機嫌に答えた。
「新しい松葉杖を試しに出てきたんでしょ」ミランダは穏やかに、明るく言った。「ジェラルドと一緒に歩きましょう、エリー」
案の定、彼はやっとの思いで応接間までたどり着いた。そこでは女性達が集まって刺繍や編み物をしており、男性は狩りに出かけていて留守だった。ジェラルドが沈むように長椅子に腰掛けるのを見て、落胆の叫び声が湧き、まるで赤子をあやすように、女性達はそわそわと歩き回った。
「あまり動き回らない方がいいですよ」ミセス・ハザウェイが叱った。
「わざわざ庭まで来て襲撃するってことは……」別の女性が言った。
「家の中まで入ってきて、私たちも寝室で殺されていたかもしれないわ」
「きっと銀貨が目当てだったのよ。不謹慎な召使いが手助けしたんじゃないかしら」
「でもセシールは、用心深く屋敷を見回るように召使いに指示してると思うわ」
「ここに座って、キャプテン・フォーモント。このクッションを足のために使ってください」ミス・チャーチプラットンは、自分の隣の席を指差した。
「問題があるのは足じゃなくて膝よ、馬鹿ね」スキナートン夫人が冷ややかに言った。
嫌われ者のミランダは脇に立って、悔しそうに弱々しく微笑む彼を見ていた。むしろエリーとジャックストローで遊んでいた方がまし——まるで彼の心が読めるようだった。彼の膝では別の部屋まで行くことができないことを、ミランダは分かっていた。そこでエリーとそこを出て、ミス・チャーチプラットンとミセス・ハザウェイの手厚い介助にジェラルドを任せた。
***
彼は部屋に夕食を運んでもらうことを承諾し、途方もない馬鹿ではなかった自分を褒めた。一人でいたいと思っていたはずなのに、食事を終えようとした頃にドアを叩く音がして、気分が引き立てられた。
「どうぞ」
ドアが開き、ミランダが中を覗いた。「マドックスを連れてきたわ。湿布とエリーもね」
「湿布を貼っている間は外にいてくださいね、ミス・ミランダ」部屋に入りながらマドックスは言った。
「子供の頃はよく、あなたの主人のワイシャツ姿を見たじゃない」
「あなた方はもう子供ではありませんよ、ミス・ミランダ」と言って、マドックスは寝室のドアを閉めた。
マドックスの言葉で、ジェラルドは昨夜のことを思い出した——襲撃ではなく、そのすぐ前に起こったこと。後悔するはずだと思ったが、後悔していなかった。イギリスに戻って以来、いや、まだ両親の家にいた頃のことを考えても、ミランダにキスをした時ほど、いかりでしっかり固定されているように感じたことはなかった。
体が元通りになっていないため、ジェラルドは感情的な混乱状態にあった。初めてホテルで目を覚ましたときほど失望による怒りを感じていない一方、自分の存在ということにまつわる状況に腹が立った。どんな女性にもこのような苦痛を味合わせたくない。特に、幼なじみのミランダには。
それでも彼はキスをしてしまった。自分のものではない女性、自分のものになるかどうかが分からない女性に。
ありがたいことに、今回マドックスが貼ってくれた湿布は温かく、ミランダとエリーが寝室に入ってくる前に、マドックスは、主人の体をしっかり覆い隠した。そして、ドアを開けたまま彼らを後にした。
「寝る時間を過ぎてるんじゃない、お嬢さん?」ジェラルドはエリーに言った。
「あなたとジャックストローをしたかったの」と言ってベッドに這い上がり、ジェラルドの隣に座った。エリーは大きすぎるガウンを羽織っていた。
ミランダはそばにあった椅子に腰掛けた。「エリーが眠れないっていうから、連れてきたの」
それで、ジェラルドはエリーとジャックストローで遊ぶことになった。
「あ、ずるいぞ」一回目のゲームの後で言った。
「ずるくないわ」エリーはあくびをした。
「ポールを見てごまかすことを覚えたみたいなの」ミランダが言った。
エリーに対してわざと顔をしかめた。「君も負けず嫌いなスマート船長だ」
「それはローラおばさんから習ったの」
二回目のゲームの途中で、エリーはベッドリネンにくるまり、口を少し開け、小さい寝息を立てながら寝てしまった。
ジェラルドは彼女を見つめた。「僕ってそんなに退屈な男かなあ、ベッドで女性が眠りに落ちるなんて、初めてだ」その言葉が口から出て初めて、その卑猥な響きに気が付いた。海で過ごした時間が長すぎたのか、あるいはただ口下手なだけなのか。
しかしミランダは、恥ずべきコメントのために気分を害したわけでもなく、狼狽しているようでもなかった——ただジャックストローを拾い始めた。「女の人の心を傷つけた報いを受けてるんじゃない?」軽く言った。
「航海中に誰の心も傷つけたことはないよ」
ミランダは答えず、横目で彼を見た。明るい目の色のせいかもしれないが、ジェラルドはこれほど不信に満ちた表情を見たことはなかった。
「誓ってそんなことはない」もちろん外国の港で二、三の唇を盗んだことはあったが、品位を落とすようなことは一度もしていない——大抵は女性の方が積極的だった。女性が好むようなうわべだけの会話など、どうやってするのかも知らない。
しかしミランダには、うわべだけの会話など必要なかった。彼女とは安心して話をすることができた。ミス・チャーチプラットンとは違い、ミランダの場合は居心地が悪くなることも、ドジな若者のような気分になることもなかった。
それなのに、彼女の心を踏みにじってしまった。育ちがよく、尊敬に値する若い女性を。「ミランダ」ゆっくりと言った。「昨日の夜のことだけど。襲撃される前の」
「忘れようって言ったじゃない」顔を背けたので、頬の曲線しかえなかったが、ミランダは冷静で、落ち着き払っていた。まるでキスなど決してなかったかのようだった。しかし、彼女の胸が素早く上下するのを見て、全く気にしていないわけではないことが分かった。あのことについて無言なだけで。
「ミランダ、僕は義務を感じる——」
「いいえ、感じないわ」その声はいつもより高かった。「お願いだから、昨夜の出来事は記憶から消してくれる?少なくともこういうことだけは」彼女は付け加えた。「セシールは私たちのことで気分を害してるのよ」
「まるで僕たちに責任があるみたいに?」
「無関心のように見られるのを嫌うんだけど、二人の襲撃者を探すために馬に乗って村中を探し回る気もないの。どうぜ見つからないって分かってるから。近所の人から白い目で見られるのも嫌なのよ」
「セシールのプライドなんてまっぴらだ」呻くように言った。
「私達を襲った男は、森にいた女と何か関係があるのかしら?」
彼も同じことを考えていた。「分からない。あの男達は彼女の仲間かもしれない、あるいは女が男達を雇ったのかも」
「私達二人を襲ってきたわ。だけど、やっぱり私が標的だった?」ジャックストローの上で指が少し固まった。
「それは知る由もない。多分、男達はあの女とは関係なくて、彼らの標的は僕だったんだ」
「あなた?でもどうして?」
ジェラルドは肩をすくめた。「僕は最後の航海で負けた元船長。何の影響力もないし、価値のある遺産も持ってない」
「だけど、お祖母様の土地を相続したでしょ?それに、お父様の財産は?」
「僕が死んだら、従兄弟が全部相続することになってる。既に二倍大きい土地を持ってるんだけどね」
「あの二人の男が、あなたの指揮下で死んだ人と関係がある可能性は?」
死んだ部下のことを考えた——多すぎるほどの顔が浮かんだ。「可能性がないとは言えない……だけど、英国海軍にいたのは六年間で、その間に数え切れない数の部下が死んでる」
「ロンドンの病院にいる時に、あなたの命を絶とうとした人はいなかった」彼女は言った。「もし私があなたを殺したいんだったら、その時に殺してたと思うわ。弱って意識がないあなたをね。食べ物に毒を入れることだってできる。誰にも分からないように」
ジェラルドは片方の眉毛を上げてミランダの方を見た。「ミランダ、君の怒りだけは買わないようにしないと。確実に殺気立ってるね」
ミランダは彼を無視した。「それに、両親と一緒に家にいるうちは襲撃されなかったのに、ここに着いてから襲われた」
「多分、あの二人はこの辺りに住んでるはずだ。誰かに聞いてみよう。航海中に家族をなくした人がいるかどうか」
「新しく越してきた人がいるかどうかを地元の人に聞いてくれる召使いがいるって言ってたわよね」
「人を呼んだけど、まだ着かないんだ。彼に探してもらう情報が二つに増えるね」
ミランダはガウンのポケットにジャクストローを押し込み、眠っているエリーを抱き上げようと、ベッドの向こう側に回った。「あの二人の男は、私と一緒にいたからあなたを襲ったのかもしれないわ」
「だけど、君に怪我をさせたり、連れ去ることができたはずなのに、しなかった」
ミランダは、エリーを注意深く抱きあげながら顔をしかめた。「分からないことが多すぎて嫌だわ」そして、目が点になった。「あら大変」
「どうしたの?」彼が考えていなかったことを何か思い付いたのだろうか?ミランダは、ベッドリネンの方を見てうなずいた。
エリーのよだれのために、ベッドの真ん中に大きなシミができていた。
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第10章
十二月二十六日
襲撃された翌日、ジェラルドは足全体に刺すような痛みを感じて、朝早く目が覚めた。膝がクリスマスのプリンのように大きく腫れ上がってズキズキするので、夜中に何度も起こされた。
これまでも決して素直な患者ではなかったが、負傷してからは、いつもクマいじめにあっているクマのような気分で、大声で吠えたくなることがよくあった。父の従者であるマドックスがいつもより早い時間に寝室に入ってきたのは、このように不機嫌になっていた時だった。ジェラルドは感謝するべきなのに、膝の苦痛が体中を駆け巡って頭まで回り、目玉の裏で激怒していた。
「何だよ」ジェラルドは問いただした。
「ミス・ミランダがよこしてくださった湿布を持って参りました、ご主人様」
「要らないよ」頑固に言った。膝の痛みを和らげるために何かするべきなのは分かっているが、せめて苦しんでいる時は一人にしておいてもらいたかった。
「朝早く起きて、準備してくださったようですよ」主人の癇癪を無視してマドックスは言った。
「分かったよ」
従者はシーツをたたみ、ジェラルドの寝間着を丁寧に巻き上げて膝を出した。冷たい空気のために、怪我をしている方の足がシューっと音を立てて怒っているようだった。それからマドックスは、布に入れた包みを取り、ジェラルドの素肌にあてた。
「マドックス、氷じゃないか!」ジェラルドは叫んだ。「湿布っていうのは温かいものだろう」
「ミス・ミランダがくださったものですよ、ご主人様」
不快感のため機嫌は全く直らなかったが、マドックスが湿布をはがした後、少し気分がよくなった。
「朝ごはんをお持ちしましょうか、ご主人様?」
「結構だ、一日中寝間着でゴロゴロしていたくないからね」
従者は目をぐるりと回して呆れた様子を見せるようなことはせず、明らかに主人の息子はお尻をピシャリと叩かれても当たり前、という表情をしていた。「分かりました、ご主人様」
しかし、ベッドから鏡台まで歩こうとした時、かろうじて暖炉の前の椅子までたどり着いたものの、膝がズキズキして顔に汗が流れてきた。杖はもはや支えとして十分ではないことに気付き、部屋の向こう側に放り投げたい気分だったが、それを取り戻そうと思ったら、這って取りに行かなくてはならなくなる。
「ベッドにお戻りになられては?ご主人」
「ほっといてくれ、マドックス」叫んだ。
しかしその瞬間、後ろのドアを静かにノックする人がいた。ドアが開く音がして、ミランダの声が聞こえた。「これをあなたの主人にお願い、マドックス。ナーサリーの屋根裏で見つけたの」何を持ってきたのかを見ようとジェラルドが体をひねっているうちに、ドアは閉じられた。
マドックスは一対の松葉杖を持っていた。臆病な召使いだったらもっと注意深く行動したかもしれない。しかしマドックスは、王に贈り物を進呈するように、松葉杖を高くあげた。
ジェラルドはもう少しでその松葉杖をどこに放り投げればよいかを指示しそうになったが、舌をかんだ。そして長く低い息を吐いてから言った。「ここに持ってきてくれ」杖が用を足さなくなったことを、ミランダはどうやって推測したのだろう?
少し短めだったが、杖先が太めに削られており、容易にドアを通ることができるのは確実だ。ミランダの思慮深さに感謝するべきなのだが、数週間前に松葉杖が必要なくなったのに、非情にも元に戻ってしまったことを思い出さざるを得ない結果となった。
着替えは予想以上に難儀だった。怪我人だからと言って部屋に閉じ込められるものかとむきになり、腹立たしげに寝室を出た。
ミランダは、エリーと一緒に廊下でジェラルドを待っていた。
「ベッドで大人しくしてるはずがないって、ランダが言ってるよ」エリーは彼に言った。「ジャックストローで遊ばない?」
「ジャックストローをするために出てきたんじゃないよ」不機嫌に答えた。
「新しい松葉杖を試しに出てきたんでしょ」ミランダは穏やかに、明るく言った。「ジェラルドと一緒に歩きましょう、エリー」
案の定、彼はやっとの思いで応接間までたどり着いた。そこでは女性達が集まって刺繍や編み物をしており、男性は狩りに出かけていて留守だった。ジェラルドが沈むように長椅子に腰掛けるのを見て、落胆の叫び声が湧き、まるで赤子をあやすように、女性達はそわそわと歩き回った。
「あまり動き回らない方がいいですよ」ミセス・ハザウェイが叱った。
「わざわざ庭まで来て襲撃するってことは……」別の女性が言った。
「家の中まで入ってきて、私たちも寝室で殺されていたかもしれないわ」
「きっと銀貨が目当てだったのよ。不謹慎な召使いが手助けしたんじゃないかしら」
「でもセシールは、用心深く屋敷を見回るように召使いに指示してると思うわ」
「ここに座って、キャプテン・フォーモント。このクッションを足のために使ってください」ミス・チャーチプラットンは、自分の隣の席を指差した。
「問題があるのは足じゃなくて膝よ、馬鹿ね」スキナートン夫人が冷ややかに言った。
嫌われ者のミランダは脇に立って、悔しそうに弱々しく微笑む彼を見ていた。むしろエリーとジャックストローで遊んでいた方がまし——まるで彼の心が読めるようだった。彼の膝では別の部屋まで行くことができないことを、ミランダは分かっていた。そこでエリーとそこを出て、ミス・チャーチプラットンとミセス・ハザウェイの手厚い介助にジェラルドを任せた。
彼は部屋に夕食を運んでもらうことを承諾し、途方もない馬鹿ではなかった自分を褒めた。一人でいたいと思っていたはずなのに、食事を終えようとした頃にドアを叩く音がして、気分が引き立てられた。
「どうぞ」
ドアが開き、ミランダが中を覗いた。「マドックスを連れてきたわ。湿布とエリーもね」
「湿布を貼っている間は外にいてくださいね、ミス・ミランダ」部屋に入りながらマドックスは言った。
「子供の頃はよく、あなたの主人のワイシャツ姿を見たじゃない」
「あなた方はもう子供ではありませんよ、ミス・ミランダ」と言って、マドックスは寝室のドアを閉めた。
マドックスの言葉で、ジェラルドは昨夜のことを思い出した——襲撃ではなく、そのすぐ前に起こったこと。後悔するはずだと思ったが、後悔していなかった。イギリスに戻って以来、いや、まだ両親の家にいた頃のことを考えても、ミランダにキスをした時ほど、いかりでしっかり固定されているように感じたことはなかった。
体が元通りになっていないため、ジェラルドは感情的な混乱状態にあった。初めてホテルで目を覚ましたときほど失望による怒りを感じていない一方、自分の存在ということにまつわる状況に腹が立った。どんな女性にもこのような苦痛を味合わせたくない。特に、幼なじみのミランダには。
それでも彼はキスをしてしまった。自分のものではない女性、自分のものになるかどうかが分からない女性に。
ありがたいことに、今回マドックスが貼ってくれた湿布は温かく、ミランダとエリーが寝室に入ってくる前に、マドックスは、主人の体をしっかり覆い隠した。そして、ドアを開けたまま彼らを後にした。
「寝る時間を過ぎてるんじゃない、お嬢さん?」ジェラルドはエリーに言った。
「あなたとジャックストローをしたかったの」と言ってベッドに這い上がり、ジェラルドの隣に座った。エリーは大きすぎるガウンを羽織っていた。
ミランダはそばにあった椅子に腰掛けた。「エリーが眠れないっていうから、連れてきたの」
それで、ジェラルドはエリーとジャックストローで遊ぶことになった。
「あ、ずるいぞ」一回目のゲームの後で言った。
「ずるくないわ」エリーはあくびをした。
「ポールを見てごまかすことを覚えたみたいなの」ミランダが言った。
エリーに対してわざと顔をしかめた。「君も負けず嫌いなスマート船長だ」
「それはローラおばさんから習ったの」
二回目のゲームの途中で、エリーはベッドリネンにくるまり、口を少し開け、小さい寝息を立てながら寝てしまった。
ジェラルドは彼女を見つめた。「僕ってそんなに退屈な男かなあ、ベッドで女性が眠りに落ちるなんて、初めてだ」その言葉が口から出て初めて、その卑猥な響きに気が付いた。海で過ごした時間が長すぎたのか、あるいはただ口下手なだけなのか。
しかしミランダは、恥ずべきコメントのために気分を害したわけでもなく、狼狽しているようでもなかった——ただジャックストローを拾い始めた。「女の人の心を傷つけた報いを受けてるんじゃない?」軽く言った。
「航海中に誰の心も傷つけたことはないよ」
ミランダは答えず、横目で彼を見た。明るい目の色のせいかもしれないが、ジェラルドはこれほど不信に満ちた表情を見たことはなかった。
「誓ってそんなことはない」もちろん外国の港で二、三の唇を盗んだことはあったが、品位を落とすようなことは一度もしていない——大抵は女性の方が積極的だった。女性が好むようなうわべだけの会話など、どうやってするのかも知らない。
しかしミランダには、うわべだけの会話など必要なかった。彼女とは安心して話をすることができた。ミス・チャーチプラットンとは違い、ミランダの場合は居心地が悪くなることも、ドジな若者のような気分になることもなかった。
それなのに、彼女の心を踏みにじってしまった。育ちがよく、尊敬に値する若い女性を。「ミランダ」ゆっくりと言った。「昨日の夜のことだけど。襲撃される前の」
「忘れようって言ったじゃない」顔を背けたので、頬の曲線しかえなかったが、ミランダは冷静で、落ち着き払っていた。まるでキスなど決してなかったかのようだった。しかし、彼女の胸が素早く上下するのを見て、全く気にしていないわけではないことが分かった。あのことについて無言なだけで。
「ミランダ、僕は義務を感じる——」
「いいえ、感じないわ」その声はいつもより高かった。「お願いだから、昨夜の出来事は記憶から消してくれる?少なくともこういうことだけは」彼女は付け加えた。「セシールは私たちのことで気分を害してるのよ」
「まるで僕たちに責任があるみたいに?」
「無関心のように見られるのを嫌うんだけど、二人の襲撃者を探すために馬に乗って村中を探し回る気もないの。どうぜ見つからないって分かってるから。近所の人から白い目で見られるのも嫌なのよ」
「セシールのプライドなんてまっぴらだ」呻くように言った。
「私達を襲った男は、森にいた女と何か関係があるのかしら?」
彼も同じことを考えていた。「分からない。あの男達は彼女の仲間かもしれない、あるいは女が男達を雇ったのかも」
「私達二人を襲ってきたわ。だけど、やっぱり私が標的だった?」ジャックストローの上で指が少し固まった。
「それは知る由もない。多分、男達はあの女とは関係なくて、彼らの標的は僕だったんだ」
「あなた?でもどうして?」
ジェラルドは肩をすくめた。「僕は最後の航海で負けた元船長。何の影響力もないし、価値のある遺産も持ってない」
「だけど、お祖母様の土地を相続したでしょ?それに、お父様の財産は?」
「僕が死んだら、従兄弟が全部相続することになってる。既に二倍大きい土地を持ってるんだけどね」
「あの二人の男が、あなたの指揮下で死んだ人と関係がある可能性は?」
死んだ部下のことを考えた——多すぎるほどの顔が浮かんだ。「可能性がないとは言えない……だけど、英国海軍にいたのは六年間で、その間に数え切れない数の部下が死んでる」
「ロンドンの病院にいる時に、あなたの命を絶とうとした人はいなかった」彼女は言った。「もし私があなたを殺したいんだったら、その時に殺してたと思うわ。弱って意識がないあなたをね。食べ物に毒を入れることだってできる。誰にも分からないように」
ジェラルドは片方の眉毛を上げてミランダの方を見た。「ミランダ、君の怒りだけは買わないようにしないと。確実に殺気立ってるね」
ミランダは彼を無視した。「それに、両親と一緒に家にいるうちは襲撃されなかったのに、ここに着いてから襲われた」
「多分、あの二人はこの辺りに住んでるはずだ。誰かに聞いてみよう。航海中に家族をなくした人がいるかどうか」
「新しく越してきた人がいるかどうかを地元の人に聞いてくれる召使いがいるって言ってたわよね」
「人を呼んだけど、まだ着かないんだ。彼に探してもらう情報が二つに増えるね」
ミランダはガウンのポケットにジャクストローを押し込み、眠っているエリーを抱き上げようと、ベッドの向こう側に回った。「あの二人の男は、私と一緒にいたからあなたを襲ったのかもしれないわ」
「だけど、君に怪我をさせたり、連れ去ることができたはずなのに、しなかった」
ミランダは、エリーを注意深く抱きあげながら顔をしかめた。「分からないことが多すぎて嫌だわ」そして、目が点になった。「あら大変」
「どうしたの?」彼が考えていなかったことを何か思い付いたのだろうか?ミランダは、ベッドリネンの方を見てうなずいた。
エリーのよだれのために、ベッドの真ん中に大きなシミができていた。
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