【独身淑女のクリスマス】 第11章
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十二月二十七日
夕食が終わって子供達を寝かしつけた後、ミランダが応接間に入ると、奥の方にいるジェラルドがすぐに見えた。混雑した部屋でも必ず見つけることができる。だから、一日中彼が何かに気を取られているのが分かっていた。
二人を襲撃した男がまだ見つかっていないのは深刻な状況どころではなく、挫折以上のものだった。ジェラルドの目には活気がなく、顎に沿って更に緊張が増しているようだったので、ミランダは心配になった。まるで、体の痛みを超える深い苦痛を感じているように見えた。
その夜、燃え盛る暖炉の火の前で多くの者がシャレード(ジェスチャー遊び)をしている間、彼は母親と一緒に座っていた。母はゲームをする者たちの滑稽なしぐさを見て笑っていたが、ジェラルドはほとんど彼らを見ていなかった。怒りでこわばっているほどではないが、厳しい顔つきをしていた。母親が時々話しかけていたが、おそらく異なる理由のために、二人とも苛立っているのがミランダには明らかだった。
ミランダはこんなジェラルドを見たことがなかったが、冷酷無情の船長として船に乗る彼はこんな表情をしていたのだろうか、と想像してみた。
ミランダは部屋を横切った。「ミセス・フォーモントは音楽がお好きですよね。新しいグリークラブに参加しませんか?」年配のメンバーがピアノの周りに集まって歌っていた。「私でよければ、ジェラルドと一緒に座りますよ」
「ナーサリーメイドは要らないよ」ジェラルドは言い返した。
「私はナーサリーメイドなんだけど、どう答えたらいいのかしら」ミランダは愛らしく言った。
ジェラルドは彼女をにらんだが、さっきより苛立ちは和らいでいた。
母親は口をぽかんと開け、まずミランダ、そしてジェラルドを見た。母は数秒驚いていたが、すぐに言った。「必要ないわ、ミランダ。息子は私の責任だから」
母の冷たい言葉のために、ジェラルドは目を背けた。
ミセス・フォーモントは、これまでミランダに対して決して無愛想ではなかったが、ミランダがエリーに同伴することに抵抗しているせいか、少し距離を置いているように思われた。しかし原因が何であれ、また結果が何であれ、ミランダは、ジェラルドが荒れた気性に飲み込まれるままにしておくことはできなかった。昨日、口出ししたい衝動に駆られたように、今日も笑っている彼の顔が見たかった。
「ミセス・フォーモント、どうかあなたの気難しいご子息を私に任せてください」ミランダは懇願した。「頭をガツンとやらないと不機嫌は治らないかもしれないけど、楽しい会話ができるように頑張ってみます」
「お手なみを拝見したいね」彼はうなった。
「頭をガツン?楽しい会話?」
彼はミランダを睨みつけた。
二人を見てミセス・フォーモントの眉が上がった。
「ジェラルド、いつも私が勝つんだから、仲たがいしても仕方がないわ」ミランダは優越感を漂わせた笑みを浮かべた。
ジェラルドはうなって、握りこぶしに顎をのせた。
妙なことに、母は何かに驚き、打ちひしがれているように見えた。しかし、ミランダに対するうなずきには、柔和な部分もあった。「ご自由にどうぞ、ミランダ」それから流し目を光らせて付け加えた。「息子の前で笑うと、彼の居心地が悪くなるといけないから」
そうそう、これこそミランダが知っているミセス・フォーモントだった。ジェラルドの母はさっさと出て行き、ミランダは空いた席に座った。「ね、気分が良くなった?」楽しげに聞いた。
「子供扱いするな」
「もちろんよ。だけどあなたはお母さんを怒らせた」
「母は僕の態度のことで怒ってるんじゃない」低い声で言った。
「どういう意味?」
彼は頭を振ったが、ミランダは手を伸ばして、椅子の肘掛けに置かれているジェラルドの手の甲を触った。「見捨てられたみたいに見えるわよ」ミランダは言った。
「全然違う。逆に、一人にされたことがないんだよ」
「物理的には見捨てられていなくても、感情的にはそうなんじゃない」
ジェラルドはミランダの手をほどいた。「違うよ」
だが、自分が間違っていないのは分かっていた。それはミランダ自身が長年感じていたことだったから。「親が生きていた頃、私はあの人たちと全然違うことが分かっていたの。だから私のことを理解できなかった。それで向こうも分かろうとするのを諦めたの。で、私は見捨てられたと思った」
ジェラルドの首の筋肉が一瞬ひきつり、そして和らいだ。
「親が私のことを愛していたのは分かってる」ミランダは言った。「それでも遠くにいる存在だった」
ジェラルドは何も言わず、ミランダも黙っていた。このことは誰にも告白したことがなかったのに、たった今、グラスに入ったワインを彼の膝にこぼすように話してしまった。
彼は話し始めたが、ピアノに集まったグリークラブのシンガー達の声と、シャレードをやっている人たちの叫び声のために、ミランダはほとんど彼の声が聞こえなかった。
「あの人たちは、僕が何か悪いことをしたからだと思ってるんだ」
予想外の返事だった。「もちろんそんなことは何もしてないわ」
ジェラルドはミランダを見たが、彼女は彼の表情を読み取ることができなかった。「君は僕を信じてくれているね」
「いつも信じてるわ」何も考えずに言った。
すると彼は微笑んだ。ミランダは短く息を吸って、自分を落ち着かせた。
「母が僕に聞いたんだ。攻撃されるようなことを何かしたのかって」
「まあ、ジェラルド」
「最近母と僕は、始終仲たがいしている。だけど、そんな質問をするほど僕のことを理解していないとは思わなかった」
「あなたは長い間家族から離れていた。そして、療養のために戻ってきた。あなたはもう小さい男の子じゃない。変わったわ——否応なしにね——だから多分、大人になったあなたを見ると、あなたのことがよく分からなくなって怖いんだと思う」
「君は変わらないね」
「違う、私はとても変わった」もう女子生徒ではない。それでも、十二歳の時そうだったように、女性として彼と心を通わせようとしているのを感じた。
目が合って、そこに留まった。彼は凍りついているようだったが、驚いてはいなかった。手を伸ばし、ミランダの頬に手を当てるというより、頬骨から顎まで指を這わせた。生け花の真ん中にある繊細な花に触るように。だが、ミランダは決してそのようなものではない。ミランダはミランダ、そして、自分が見捨てられたと感じていることをたった今口走ってしまった。
ミランダは顔を背け、ジェラルドは手を落とした。
ジェラルドが自分を選ばない理由は限りなくあった。ミランダは貧しく、彼の家族は息子が財産目当ての相手と結婚することを望まないだろう。そしてジェラルドも、足が治らないうちに女性と交際するという複雑な状況を望んではいない。
こんな風に感じるべきではない理由が沢山あることも分かっていた。これまで、あまりにも多くの人に裏切られたから、その気になればどんな女性でも妻にできるようなジェラルドにも裏切られたくはない。彼が自分を愛してくれる可能性があるということが信じられなかった。自分の中で何かが壊れているのかもしれないと、いつも思っていたので、周りの人も自分のことを気にかけなくなっていた。
だから、誰に対しても心を開くことができなかった。
それにもかかわらず、これまでいつもそうだったように、彼のことを望まないではいられなかった。いつも勇敢で親切、今でもそうだ。さらに人生経験によって、これまでになかった深みと理解力を蓄えていた。
そして、ミランダはまた彼を好きになってしまった。自分でもそれを止めることができなかった。
「ミランダ?」
あまりにも長い間、自分の思考の中に溺れていた。ミランダは無理やり微笑んだ。「フォーモント・レイシーにはいつ戻るの?」
「祖母から相続した時に航海中だったから、貸してるんだ」
「相続したら家や農場を改良するって、話してたことがあったわね」
「そんなのは若造の奢りだった」ジェラルドは中途半端な笑みを浮かべた。「農場経営のことは何も知らないって、今だったら分かる」
「お父様から教えてもらえるわ。船で若い船員に指示するようなものでしょ?」
「まあね。だけど、何を命令しているのかを理解していなくちゃいけない。でなきゃ部下は確実に戸惑うだろう」視線が膝に流れていった。「歳を取ったらこんなことはいくらでもできると思ってたけどね」
「若いうちに覚えた方がいいのかもしれない、それに、あなたのお父様はまだ若いわ」ミランダは少し戸惑って、言った。「陸に上がるのが嬉しくないのは分かるけど、楽しくなってくるはずよ」
「そうならなければ、人生は惨めだね」一抹の敵意を帯びた寂しげな声だった。
「いつも困難を乗り越えてきた。今回も、船に乗っていた頃の困難と変わらないわ。フォーモント・レイシーで農場を経営するのは嫌なの?」
「嫌じゃない。そのつもりだったし、いずれは父の農場も引き継ぐつもりだ」その眼差しがまた膝に落ちた。「君の言う通りかもしれない。もうすぐ馬にも乗れるようになるだろうし、そうすれば父や管理人についていくこともできる」
肩の力が緩んで初めて、どれほど肩に力が入っていたかに気が付いた。すぐに彼を元気付けることができると勘違いしているのではない。しかし、両親の懐疑心のために傷ついている今だからこそ、逃げ場所であるフォーモント・レイシーというアイディアによって、彼を慰めたかった。「スクワイア・ビグスビーみたいなドッグカートで動き回ることだってできるかも」
「懐かしいね、スクワイア・ビグスビー。あいつみたいに汚い犬が必要になるとはね」
「馬小屋に生まれたばかりの子犬がいるわ。セシールに頼んだら、小さいのを一匹譲ってもらえるはずよ」
「セシールからは何ももらいたくない」
シャレードをする人たちのドッとあふれる笑い声が部屋中に響いた。しかしその騒音が静まった時、ジェラルドはぎこちなく肩を落としてミランダの方を向いた。「ミランダ、話したくないのは分かってるけど、話さなくちゃいけない」
何のことだかは分かっていた。彼の腕に包まれた一瞬の記憶、あの時、彼の唇が彼女の唇に押し付けられ、思わず震えるような喜びがミランダの体を走った。生きているうちにもう一度キスをされることなど期待していないし、ジェラルドとのキスは、何にも代えられない思い出になるだろう。「もう忘れなきゃ」
「今までのように、押入れの中に隠れたままでいることはできないよ。僕は君に対して責任を取らなくちゃいけないことをした。僕は正しいことをしたい」
そうすれば、セシールから、そしてベイティ家から逃れることができる。しかし、ミランダも同じように正しいことをしたかった。自分を愛していない人、いつかは自分に腹を立てる人を結婚という罠にはめるのは間違っている。便宜上の結婚は彼女にとっては都合がいいが、彼にとっては決してそうではない。彼は妻を必要としていないし、それを望んでいない。
それに、ジェラルドは正しいことなどしなくていい。自分は何よりも深い愛情と友情が欲しかった。しかし皮肉にも、他人に心を開くという一歩を踏み出すことができなかった。ただ、一人でいる時間が長すぎた。「ジェラルド、私のことを愛してる?」
彼の目の中に何が見えるかは予想がついたので、ミランダは覚悟を決めていた。しかし、そこに驚きという優しさが見えるとは予想していなかった。彼が無言だったので、ミランダは突っ走った。「もちろんそんなことないわ。愛していない女に足を引っ張られるようなことはしないで。そんなことを私は望んでいない」
「ミランダ——」
「それにジェラルド、私と結婚したら、あなたの家族は私のことを財産目当てだと言うわ。お母さんは本当に苦しむと思う」
「ミランダ——」
「だからあなたのプロポーズを断ったの。あなたは自由よ」
彼は冷めた眼差しを送った。「プロポーズはしてないんだけど」
「まあいいけど、手間が省けてよかったわね」
「僕に話す機会を与えてくれたら——」
シャレードをする人たちが突然ジェラルドの名前を呼び、ミス・チャーチプラットンが部屋の向こう側からやって来て、いたずらっぽくジェラルドの腕を引っ張った。「こちらにいらして、キャプテン。次のヒントは何か水と関係があるみたいなの」
もちろんミス・チャーチプラットンは、ミランダがいることを無視し、ジェラルドはミス・チャーチプラットンや他の家族の懇願に答えて椅子から立ち上がった。しかし、ミランダが驚いたことに、彼女の方に体を寄せて言った。「この話はまだ終わってないよ、ミランダ」
松葉杖を取って、シャレードをする者らの方へ進んだ。ミランダは立ち上がって部屋を出たが、彼女が戸口で立ち止まった時、ジェラルドは彼女をちらりと見た。まるで、離れたところから彼女に触れようとして手を伸ばしているようだった。ミランダの呼吸が速くなった。
深呼吸をして部屋を出た。まるで階段を駆け上がるように。
少女時代のお熱はどうして冷めないのだろう?彼は何故あんなに気高く、自分は怖がっているのだろう?
そうだ、彼を恐れているからだ。彼に心を開くことを恐れていた。両親がそうだったように、自分に対するジェラルドの優しさが、いつか冷淡な抱擁へと乾いていくのを恐れていた。
フォーモント家にいさせてもらえたら、ジェラルドには感謝をするのだが、長い間そこにとどまることはできなかった。エリーがそこに慣れ、ウィンウッド夫人が受け入れてくれるようになったらすぐに、そこを出る。遠くで仕事を見つける。そしてジェラルドが歳を取って結婚するまで、彼とは二度と会わないだろう。
喉に痛々しくつっかえたむせび泣きを押し殺し、ナーサリーへと急いだ。
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第11章
十二月二十七日
夕食が終わって子供達を寝かしつけた後、ミランダが応接間に入ると、奥の方にいるジェラルドがすぐに見えた。混雑した部屋でも必ず見つけることができる。だから、一日中彼が何かに気を取られているのが分かっていた。
二人を襲撃した男がまだ見つかっていないのは深刻な状況どころではなく、挫折以上のものだった。ジェラルドの目には活気がなく、顎に沿って更に緊張が増しているようだったので、ミランダは心配になった。まるで、体の痛みを超える深い苦痛を感じているように見えた。
その夜、燃え盛る暖炉の火の前で多くの者がシャレード(ジェスチャー遊び)をしている間、彼は母親と一緒に座っていた。母はゲームをする者たちの滑稽なしぐさを見て笑っていたが、ジェラルドはほとんど彼らを見ていなかった。怒りでこわばっているほどではないが、厳しい顔つきをしていた。母親が時々話しかけていたが、おそらく異なる理由のために、二人とも苛立っているのがミランダには明らかだった。
ミランダはこんなジェラルドを見たことがなかったが、冷酷無情の船長として船に乗る彼はこんな表情をしていたのだろうか、と想像してみた。
ミランダは部屋を横切った。「ミセス・フォーモントは音楽がお好きですよね。新しいグリークラブに参加しませんか?」年配のメンバーがピアノの周りに集まって歌っていた。「私でよければ、ジェラルドと一緒に座りますよ」
「ナーサリーメイドは要らないよ」ジェラルドは言い返した。
「私はナーサリーメイドなんだけど、どう答えたらいいのかしら」ミランダは愛らしく言った。
ジェラルドは彼女をにらんだが、さっきより苛立ちは和らいでいた。
母親は口をぽかんと開け、まずミランダ、そしてジェラルドを見た。母は数秒驚いていたが、すぐに言った。「必要ないわ、ミランダ。息子は私の責任だから」
母の冷たい言葉のために、ジェラルドは目を背けた。
ミセス・フォーモントは、これまでミランダに対して決して無愛想ではなかったが、ミランダがエリーに同伴することに抵抗しているせいか、少し距離を置いているように思われた。しかし原因が何であれ、また結果が何であれ、ミランダは、ジェラルドが荒れた気性に飲み込まれるままにしておくことはできなかった。昨日、口出ししたい衝動に駆られたように、今日も笑っている彼の顔が見たかった。
「ミセス・フォーモント、どうかあなたの気難しいご子息を私に任せてください」ミランダは懇願した。「頭をガツンとやらないと不機嫌は治らないかもしれないけど、楽しい会話ができるように頑張ってみます」
「お手なみを拝見したいね」彼はうなった。
「頭をガツン?楽しい会話?」
彼はミランダを睨みつけた。
二人を見てミセス・フォーモントの眉が上がった。
「ジェラルド、いつも私が勝つんだから、仲たがいしても仕方がないわ」ミランダは優越感を漂わせた笑みを浮かべた。
ジェラルドはうなって、握りこぶしに顎をのせた。
妙なことに、母は何かに驚き、打ちひしがれているように見えた。しかし、ミランダに対するうなずきには、柔和な部分もあった。「ご自由にどうぞ、ミランダ」それから流し目を光らせて付け加えた。「息子の前で笑うと、彼の居心地が悪くなるといけないから」
そうそう、これこそミランダが知っているミセス・フォーモントだった。ジェラルドの母はさっさと出て行き、ミランダは空いた席に座った。「ね、気分が良くなった?」楽しげに聞いた。
「子供扱いするな」
「もちろんよ。だけどあなたはお母さんを怒らせた」
「母は僕の態度のことで怒ってるんじゃない」低い声で言った。
「どういう意味?」
彼は頭を振ったが、ミランダは手を伸ばして、椅子の肘掛けに置かれているジェラルドの手の甲を触った。「見捨てられたみたいに見えるわよ」ミランダは言った。
「全然違う。逆に、一人にされたことがないんだよ」
「物理的には見捨てられていなくても、感情的にはそうなんじゃない」
ジェラルドはミランダの手をほどいた。「違うよ」
だが、自分が間違っていないのは分かっていた。それはミランダ自身が長年感じていたことだったから。「親が生きていた頃、私はあの人たちと全然違うことが分かっていたの。だから私のことを理解できなかった。それで向こうも分かろうとするのを諦めたの。で、私は見捨てられたと思った」
ジェラルドの首の筋肉が一瞬ひきつり、そして和らいだ。
「親が私のことを愛していたのは分かってる」ミランダは言った。「それでも遠くにいる存在だった」
ジェラルドは何も言わず、ミランダも黙っていた。このことは誰にも告白したことがなかったのに、たった今、グラスに入ったワインを彼の膝にこぼすように話してしまった。
彼は話し始めたが、ピアノに集まったグリークラブのシンガー達の声と、シャレードをやっている人たちの叫び声のために、ミランダはほとんど彼の声が聞こえなかった。
「あの人たちは、僕が何か悪いことをしたからだと思ってるんだ」
予想外の返事だった。「もちろんそんなことは何もしてないわ」
ジェラルドはミランダを見たが、彼女は彼の表情を読み取ることができなかった。「君は僕を信じてくれているね」
「いつも信じてるわ」何も考えずに言った。
すると彼は微笑んだ。ミランダは短く息を吸って、自分を落ち着かせた。
「母が僕に聞いたんだ。攻撃されるようなことを何かしたのかって」
「まあ、ジェラルド」
「最近母と僕は、始終仲たがいしている。だけど、そんな質問をするほど僕のことを理解していないとは思わなかった」
「あなたは長い間家族から離れていた。そして、療養のために戻ってきた。あなたはもう小さい男の子じゃない。変わったわ——否応なしにね——だから多分、大人になったあなたを見ると、あなたのことがよく分からなくなって怖いんだと思う」
「君は変わらないね」
「違う、私はとても変わった」もう女子生徒ではない。それでも、十二歳の時そうだったように、女性として彼と心を通わせようとしているのを感じた。
目が合って、そこに留まった。彼は凍りついているようだったが、驚いてはいなかった。手を伸ばし、ミランダの頬に手を当てるというより、頬骨から顎まで指を這わせた。生け花の真ん中にある繊細な花に触るように。だが、ミランダは決してそのようなものではない。ミランダはミランダ、そして、自分が見捨てられたと感じていることをたった今口走ってしまった。
ミランダは顔を背け、ジェラルドは手を落とした。
ジェラルドが自分を選ばない理由は限りなくあった。ミランダは貧しく、彼の家族は息子が財産目当ての相手と結婚することを望まないだろう。そしてジェラルドも、足が治らないうちに女性と交際するという複雑な状況を望んではいない。
こんな風に感じるべきではない理由が沢山あることも分かっていた。これまで、あまりにも多くの人に裏切られたから、その気になればどんな女性でも妻にできるようなジェラルドにも裏切られたくはない。彼が自分を愛してくれる可能性があるということが信じられなかった。自分の中で何かが壊れているのかもしれないと、いつも思っていたので、周りの人も自分のことを気にかけなくなっていた。
だから、誰に対しても心を開くことができなかった。
それにもかかわらず、これまでいつもそうだったように、彼のことを望まないではいられなかった。いつも勇敢で親切、今でもそうだ。さらに人生経験によって、これまでになかった深みと理解力を蓄えていた。
そして、ミランダはまた彼を好きになってしまった。自分でもそれを止めることができなかった。
「ミランダ?」
あまりにも長い間、自分の思考の中に溺れていた。ミランダは無理やり微笑んだ。「フォーモント・レイシーにはいつ戻るの?」
「祖母から相続した時に航海中だったから、貸してるんだ」
「相続したら家や農場を改良するって、話してたことがあったわね」
「そんなのは若造の奢りだった」ジェラルドは中途半端な笑みを浮かべた。「農場経営のことは何も知らないって、今だったら分かる」
「お父様から教えてもらえるわ。船で若い船員に指示するようなものでしょ?」
「まあね。だけど、何を命令しているのかを理解していなくちゃいけない。でなきゃ部下は確実に戸惑うだろう」視線が膝に流れていった。「歳を取ったらこんなことはいくらでもできると思ってたけどね」
「若いうちに覚えた方がいいのかもしれない、それに、あなたのお父様はまだ若いわ」ミランダは少し戸惑って、言った。「陸に上がるのが嬉しくないのは分かるけど、楽しくなってくるはずよ」
「そうならなければ、人生は惨めだね」一抹の敵意を帯びた寂しげな声だった。
「いつも困難を乗り越えてきた。今回も、船に乗っていた頃の困難と変わらないわ。フォーモント・レイシーで農場を経営するのは嫌なの?」
「嫌じゃない。そのつもりだったし、いずれは父の農場も引き継ぐつもりだ」その眼差しがまた膝に落ちた。「君の言う通りかもしれない。もうすぐ馬にも乗れるようになるだろうし、そうすれば父や管理人についていくこともできる」
肩の力が緩んで初めて、どれほど肩に力が入っていたかに気が付いた。すぐに彼を元気付けることができると勘違いしているのではない。しかし、両親の懐疑心のために傷ついている今だからこそ、逃げ場所であるフォーモント・レイシーというアイディアによって、彼を慰めたかった。「スクワイア・ビグスビーみたいなドッグカートで動き回ることだってできるかも」
「懐かしいね、スクワイア・ビグスビー。あいつみたいに汚い犬が必要になるとはね」
「馬小屋に生まれたばかりの子犬がいるわ。セシールに頼んだら、小さいのを一匹譲ってもらえるはずよ」
「セシールからは何ももらいたくない」
シャレードをする人たちのドッとあふれる笑い声が部屋中に響いた。しかしその騒音が静まった時、ジェラルドはぎこちなく肩を落としてミランダの方を向いた。「ミランダ、話したくないのは分かってるけど、話さなくちゃいけない」
何のことだかは分かっていた。彼の腕に包まれた一瞬の記憶、あの時、彼の唇が彼女の唇に押し付けられ、思わず震えるような喜びがミランダの体を走った。生きているうちにもう一度キスをされることなど期待していないし、ジェラルドとのキスは、何にも代えられない思い出になるだろう。「もう忘れなきゃ」
「今までのように、押入れの中に隠れたままでいることはできないよ。僕は君に対して責任を取らなくちゃいけないことをした。僕は正しいことをしたい」
そうすれば、セシールから、そしてベイティ家から逃れることができる。しかし、ミランダも同じように正しいことをしたかった。自分を愛していない人、いつかは自分に腹を立てる人を結婚という罠にはめるのは間違っている。便宜上の結婚は彼女にとっては都合がいいが、彼にとっては決してそうではない。彼は妻を必要としていないし、それを望んでいない。
それに、ジェラルドは正しいことなどしなくていい。自分は何よりも深い愛情と友情が欲しかった。しかし皮肉にも、他人に心を開くという一歩を踏み出すことができなかった。ただ、一人でいる時間が長すぎた。「ジェラルド、私のことを愛してる?」
彼の目の中に何が見えるかは予想がついたので、ミランダは覚悟を決めていた。しかし、そこに驚きという優しさが見えるとは予想していなかった。彼が無言だったので、ミランダは突っ走った。「もちろんそんなことないわ。愛していない女に足を引っ張られるようなことはしないで。そんなことを私は望んでいない」
「ミランダ——」
「それにジェラルド、私と結婚したら、あなたの家族は私のことを財産目当てだと言うわ。お母さんは本当に苦しむと思う」
「ミランダ——」
「だからあなたのプロポーズを断ったの。あなたは自由よ」
彼は冷めた眼差しを送った。「プロポーズはしてないんだけど」
「まあいいけど、手間が省けてよかったわね」
「僕に話す機会を与えてくれたら——」
シャレードをする人たちが突然ジェラルドの名前を呼び、ミス・チャーチプラットンが部屋の向こう側からやって来て、いたずらっぽくジェラルドの腕を引っ張った。「こちらにいらして、キャプテン。次のヒントは何か水と関係があるみたいなの」
もちろんミス・チャーチプラットンは、ミランダがいることを無視し、ジェラルドはミス・チャーチプラットンや他の家族の懇願に答えて椅子から立ち上がった。しかし、ミランダが驚いたことに、彼女の方に体を寄せて言った。「この話はまだ終わってないよ、ミランダ」
松葉杖を取って、シャレードをする者らの方へ進んだ。ミランダは立ち上がって部屋を出たが、彼女が戸口で立ち止まった時、ジェラルドは彼女をちらりと見た。まるで、離れたところから彼女に触れようとして手を伸ばしているようだった。ミランダの呼吸が速くなった。
深呼吸をして部屋を出た。まるで階段を駆け上がるように。
少女時代のお熱はどうして冷めないのだろう?彼は何故あんなに気高く、自分は怖がっているのだろう?
そうだ、彼を恐れているからだ。彼に心を開くことを恐れていた。両親がそうだったように、自分に対するジェラルドの優しさが、いつか冷淡な抱擁へと乾いていくのを恐れていた。
フォーモント家にいさせてもらえたら、ジェラルドには感謝をするのだが、長い間そこにとどまることはできなかった。エリーがそこに慣れ、ウィンウッド夫人が受け入れてくれるようになったらすぐに、そこを出る。遠くで仕事を見つける。そしてジェラルドが歳を取って結婚するまで、彼とは二度と会わないだろう。
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