【独身淑女のクリスマス】 第7章

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第7章


十二月二十五日

「かわいいわ」エリーはミランダに言った。

「ありがとう」ミランダは、ミス・ティールの部屋の壁にかかった小さい鏡の前に立って、黒髪をピンでとめていた。細く編んだ髪の毛を、更に簡単なパターンで巻くと、一見複雑に編んでいるように見えた。

 今夜もまた、舞踏会の前に家族全員が一緒に食事をするので、ミス・ティールは既に着替えを済ませ、年長の女子生徒がトイレを済ませるのを手伝っていた。普段のミランダは、自分の服装のことなどほとんど気にしないのだが、今夜は……いつもと違うように見せたかった。その理由は全くないと分かっていたのだが。

 着るものが沢山あるということでもなかった。両親と暮らしていた頃、彼らはパーティーや舞踏会に出かけたものだったが、ミランダはいつも一緒に行く訳ではなかった。混雑した部屋にいると息が苦しくなり、普段より更に退屈な会話しかできなくなった。だから、その当時も持ち衣装は少なかった。今持っているイブニングドレスは二着だけ、昨晩着た濃いブルーのドレスと、このドレスだった。

 このドレスの方が気に入っていた。最近流行らなくなったふくらみのあるスタイルで、母が着なくなった淡い緑色のシルクのドレスを自分で仕立て直したのだった。エメラルドグリーンのリボンで縁取りをし、繊細な金色の葉のパターンで布地に刺繍を入れた。古いドレスで、ミランダが望んでいたほどピッタリ合う訳ではなかったが、刺繍の出来栄えは気に入っていて、スカートが膝の辺りでシュッと音を立てるのも女らしくて嬉しかった。

「そろそろ返してもらえるかしら、いたずらっ娘さん」着替えている間に使わせてあげていたネックレスを、エリーの首から外した。もともと母が持っていた頃は本物のエメラルドだったのだが、資金繰りが厳しくなって宝石を売り、ペーストに置き換えられた。ペーストストーンは色が不自然で、取り付けもよくないが、自分の目の色と合うので好きだった。

 他人に良い印象を与えようとするべきではないと、またミランダは自分に言い聞かせようとした。他人に心を開こうとしないのだから、自分の容貌に対するジェラルドの意見には少しも関心がない。これまでに自分を理解してくれた人は一人もいなかったし、自分のことで、明るみに出ると困ることは山ほどある。

 自分はいつまで経っても自分、変わらない。だから、いつも一人。

「みんなを呼んで下へ行こうか?」ミランダはエリーに尋ねた。少女は、屋敷の中が来客と召使いでごった返している間、ミランダが一時的に使っていた低い折りたたみ式ベッドから飛び降りた。

 ほかのナーサリーメイドたちは、ナーサリー棟にある別の寝室から子供達を呼び集めていて、ミランダは濡らした布で手や顔を拭いたり、ゆがんだサッシュを結び直し、失くした靴を探すのを手伝っていた。そして皆、応接間へと降りて行った。

 夕食のために集まった興奮気味の子供達と家族全員に囲まれていたにもかかわらず、部屋に入った途端、見上げるとジェラルドと目が合った。負傷によって少し体重は減っていたが、それでもスラリと背が高く、誇らしげに見え、他の男性が弱々しく活気がないように見えるほどの活力を醸し出していた。濃い色の夜会服は、幅の広い肩を引き立たせ、雪のように白いクラバットは控えめなシャツの襟にシンプルに結んであったので、あごのラインをたくましく見せていた。

 彼はミランダに微笑んだが、それに対し彼女は顔を赤らめてそっぽを向いた。そして、少女のような反応をしてしまったことに恥ずかしくなった。

 その時、夕食のローストビーフの一番大きい一切れを誰が食べるかということで男の子二人が口論を始めたため、ミランダは気を取り直して自分の仕事に集中することにした。

 もうすぐ食事の時間なので、ミランダはジャックストローを始めようとする子供達を制した。すると時間通りに執事が応接間のドアを開け、夕食が始まることを告げた。他の客が食堂に入っていく間、ミランダはポールを見張っていた。彼は、暖炉の上の緑樹で遊ぶのが大好きで、今朝も教会の後、大きな枝全体を床にひっくり返したところだった。

 ほとんど全員が席に着き、ミランダも座ろうとしていた時、チャンスが訪れた。今朝着いたばかりのラビニア大叔母さんは高齢だったが、誰かと席を替わったようで————フェリシティの反感をかったに違いない————子供達の席の近くにいた。ミランダは、大叔母さんの隣に座るためにポールと席を替わった。

「こんにちは、ラビニアおばさん」

「まあ!キャサリン————いいえ、ミランダね?あなた、お母さんにそっくりね」ラビニアおばさんは叫んだ。テーブルを囲む人たちの中で最高齢、というわけではなかったが、耳は一番遠そうだ。しかし口の動きは読めるので、ミランダは面と向かって話しかけようとした。

「楽しんでらっしゃいますか、おばさん?」

「もちろんよ、クリスマスだから友達がたくさん近所に帰ってきてるの。二、三日したら連絡してみようと思ってるのよ」

 ゴシップ好きな叔母のことだから、何か新しい噂話を集めているのだろう。彼女はミランダの祖父の妹で、サー・ジャスティン・スキナートンと結婚しており、彼の土地はベルモアの領地に隣接していた。長年この地域の住人で、地元の家族とはみな親しかった。

 セシールがワザとらしく咳払いをしたので、沈黙がゆっくりと長テーブルの向こう側まで広がっていき、全ての目がセシールに注がれた。そしてセシールは、非常にうやうやしい祈りを捧げた。食べ物、主の御子イエス、過去の収穫、将来の収穫、皆の健康、将来の健康……ありとあらゆるものに感謝を捧げ、ポールが「いつ食べられるの?」と大きな声でささやかなければ、セシールの祈りはさらに続いていただろう。

 セシールはまた咳払いをして祈りを終え、立ち上がった。これが合図となって、召使いは湯気の立つワッセル酒のカップを全員に、子供にはエールの代わりにアップルサイダーを使った特別な飲み物を配って回った。夕食後の舞踏会のために、余分の召使いが雇われていたので、皆がカップを手にするまでにほんの一、二分かかっただけだった。

「家族と友人に乾杯」セシールが厳かに言った。

 皆は、「家族と友人に!」と答えて飲み物をいただいた。

 ミランダは、ベルモア家の準男爵の妻一人一人に譲り渡された秘密のレシピである甘いワッセル酒の味を楽しんだ。セシールの母が亡くなってからは、フェリシティが毎年ワッセル酒を作っており、彼女はそのコツを心得ていることを、ミランダは認めていた。多分、エールを少なめ、シェリーを多めに使って、ローストしたリンゴ、ナツメグ、生姜の味を出しているのだろう。

 召使いが食べ物を出し始めた。ミランダは、隣に座っているポールにキジの足全部をお皿に取らせないように四苦八苦していた。他にもローストビーフ、鹿の肉、ガチョウ、ポーク、ハト、チキン、魚があった。ミランダはポールに野菜を取らせようとした。人参、レタス、パースニップ、セロリ、にら、キャベツのように色々な種類があったので、これは意外と簡単だった。

 ポールは無作法に食べ物にかぶりついた。ミランダは叱ろうかと思ったが、クリスマスだから悪いテーブルマナーは見逃すことに決めた。そして、大叔母の方を向いた。「ミセス・シーガーの息子さんとご家族は、ロンドンからいらしたんですか?」一番答えが聞きたい質問で会話を始めたくなかったし、叔母の大好きな話題————近所の人の噂話から注意をそらせたかった。

「いいえ、今年は来なかったの。お嫁さんの家族との約束があってね。ミセス・シーガーと最後に話した時、彼女はとても落ち込んでたのよ。甥が海軍にいて、どうやらインドで蚊の大群を退治してるから、今年の家族の集まりは小さいんですって」

 ラビニアおばさんは、ミセス・シーガーの家族のことだけではなく、曲がりくねるような一連の噂話を心が行ったり来たりするように、ドルー家、バーン家、ウィルソン家のことについてまくし立てた。

 会話が一息ついた頃、ミランダは尋ねた。「おばさん、お友達の中にコンパニオンか家庭教師が必要な方はいませんか?」もちろんフォーモント家でエリーに付き添う方が好ましいのだが、フェリシティから、そしてベイティ家から逃れることができるように、有給の仕事も引き続き探さなくてはならない。

 フォークが口に届く途中で止まり、叔母の眉毛が上がった。「あなたにも勇気ってものがあるのが分かって、本当に嬉しいわ、愛するミランダ」

 ミランダは微笑んだ「このことはセシールに言わないでもらえますよね」

「もちろんよ、そんなことをするはずがないでしょ?あの馬鹿者と話すのは極力避けてるの。口やかましい妻も同じぐらい悪いけどね」

「できるだけ早く仕事を見つけたいんです。できれば十二夜が終わる前に」

「今は何も思いつかないけど、友達に会ったら聞いてみるわ。どうしてもっと早く手紙を書いてくれなかったの?」

「返事をもらっても、セシールがきっと私に回してくれないと思ったので」

「ああ、そうね。あの詮索好きな男は、郵便物全てに目を通してるんでしょ?父親がそうしてたようにね」

 ただ、セシールの母は物腰が柔らかく、怠惰ではあったが不親切ではなかった。フェリシティは義母を完全に無視していた。

「あなた、牧師先生の新しい奥さんと話したことはある?」ラビニアおばさんは尋ねた。「ミセス・バーンズが手紙をくれて、彼女のことを全て私に教えてくれたのよ。ミセス・ピーターソンは明らかに、連帯感の強い家族を怒らせるために結婚したの。少なくとも、夫のお兄さんが思いがけなく伯爵の位の推定相続人になるまではね。彼女だったら、コンパニオンか家庭教師が必要なお友達を知ってるかもしれないわ」

「今晩の舞踏会に出席するはずよ」ミランダは夕食後、子供達に付き添わなくてはならないが、その後降りてきて舞踏会に戻ることができるだろう。

 両親が亡くなり、セシールのところへ来て初めての年であった去年のクリスマス、ミランダは舞踏会に出なかった。フェリシティの末息子が腐敗性咽頭炎にかかり、ミランダはクリスマスの日ずっと彼を介護していた。この子は、クリスマスのプリンを食べられなかったことについてひどく文句を言ったものだった。

「ミセス・バーンズと言えば、甥の息子さんが軍の大尉なんですって」ラビニアおばさんは言った。「最近手紙が届いたそうよ。犬に噛まれたんですって、バカね。私に手紙を書いてきて、『ラビニア、外国の犬だから、ひょっとしたら外来病を持ってるかもしれないわ』ですって。だから、きっとそうだって言ってやったの」

 召使いはやっと夕食のお皿を下げ、ろうそくの火が消された。子供達は席でもぞもぞし始め、お互いにささやき合った。

 ドラマチックな演出とともに、青く燃え立ち、真紅とオレンジ色に点滅する大きい山のようなプリンをお皿にのせて、執事が食堂に入ってきた。ミランダは、かんきつ果皮と砂糖の匂いが混ざった燃えるブランデーの匂いを嗅ぐことができた。大人は拍手喝さいし、子供達はもてはやした。執事は注意深くテーブルにプリンを置いた。

 このプリンの大きいこと、みんながたっぷり食べられる大きさだった。毎年そうであったように、プリンに混ぜ込んである小さいアクセサリーがお皿にのっているのを見て、皆は喜びや落胆の声をあげた。今年フェリシティは、富の象徴であるシリング銀貨を見つけて喜びの声をあげた一方、ウィンウッド夫人は運のいい人生を意味するボタンを見つけ、オーガスタおばさんの若い息子の一人は、結婚を予測するリングを見つけてうんざりした。ジェラルドのは、安全な港を見つけたことを意味するミニチュアのいかりだった。

 ポールは、自分よりミランダのお皿にのったプリンの方が大きいのに目をつけ、ミランダのお皿と自分のお皿を取り替えた。すると、彼女のフォークが何か固いものに当たり、取り出してみると銀の指ぬきであった。

 ミランダはそれを凝視した。ただのゲーム、たわいもない伝統であるとは分かっていたが、泣き崩れたい気持ちになった————針もとげもちっとも痛くない、世界中に平静心の仮面をかぶって見せるだけ、感情を決して見せないように努力してきた彼女であったが————今回のとげは、多分今までの中で最悪、しかし、それでもこれは完全な偶然だった。

 子供達の一人が得意げに言った。「ミランダは指ぬきをもらったよ!」

 テーブルの周りでは、一瞬の驚きと居心地の悪い沈黙があった。そして、ミス・チャーチプラットンがくすくす笑った。

 フェリシティがすぐにシーっと言って彼女を黙らせたが、その笑い声を真似て数人の子供達が笑い始めた。忍び笑いとささやき声が起こった。子供達を黙らせようとする大人がいる中で、彼らはゆっくりと叱責に反応していった。

 ミランダの顔は、ブランデーに浸したプリンのように真っ赤になった。だが、なぜ彼女が当惑しないといけないのか?彼女は指ぬきが意味する通り独身で、それが彼女の運命なのは秘密ではない。彼女の両親は、収穫が落ちて父親が農場を抵当に入れる前、まだ持参金があるうちに、結婚を申し込んでくれるような男性を見つけることができなかった。

 しかし、長い爪の手が彼女の心をつかみ、締め付け、食い込んできた。ミランダは目を閉じ、自分の呼吸に集中し、平静心を取り戻そうとした。

 目を開けた。指ぬきを手に取って、ナプキンで拭いた。そして、まず心に浮かんだことを口にした。「何て偶然、新しい指ぬきが必要だったの」

 違う種類の笑いがテーブルに沿ってさざ波のように広がった。幾らかの安心感もあっただろう。

 理由は分からなかったが、勇気を出してジェラルドがいる方を見てみた。彼は途方もなく心配しているような目つきでミランダを見つめていた。

 ミランダはその目を捉え、少し微笑んだ。彼は微笑みを返さなかったが、眉毛に沿うシワが緩んだようだった。

「うまく振る舞ったわよ、あなた」ラビニアおばさんはミランダの手を軽くたたいた。「指ぬきは独身だけじゃなくて、倹約っていう意味もあるのよ。節約が上手な女ってこと」

 ミランダは叫ぶような短い笑い声を上げた。すこしヒステリーもあったのかもしれない。「ラビニアおばさん、私は節約するようなお金もないわ。お金を貯めなきゃいけないような世帯も持ってないし」

「お金だけじゃない。女はいろんなものを節約するの」

 小さい手が反対側から入り込んで来た。振り向くと、ポールが怒ったような顔をしていた。

「僕が大きくなったら、君と結婚するよ、ミランダおばさん」彼は言った。「そうしたら、みんなは今日笑ったことを後悔するよ」

「何ていい子なの」ミランダはポールの頭にキスをして、少しの間、彼を腕に抱きかかえた。

 そして、低くかがんで彼の耳にささやいた。「ミス・チャーチプラットンのスカートの近くでスナップドラゴンをしようか」

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