【独身淑女のクリスマス】 第8章
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ジェラルドは途方に暮れていた。あまりにも無力で、彼女のために何をしてあげることもできない。
彼らに向かって怒鳴りつけ、ミランダを笑い者にするのをやめろと言いたかった。あるいは彼女のところまで行って手を取り、食堂の外に連れ出したかった。しかしそんなことをしたら、彼女がもっと笑い者にされるだけだ。
ミランダの目の中に苦痛が見えたが、その顔は平静心の仮面で覆われていった。その瞬間まで、それが仮面であったことがよく分かっていなかった。
ミランダのことで、知らないことは沢山ありすぎた。知りたくなかったことも沢山あった。
今は、その全てを知りたかった。
今すぐということではない。まず、この忌まわしい杖がなくてもちゃんと歩くことができなくては。もう一度健康になりたい、そして自立し、自尊心というものを取り戻したい。
そしてこの瞬間、耳から血が流れ出す前に、両側にいる二人のおしゃべりな女から何とか逃げ出したかった。
ジェラルドはダンスホールの隅に座っていて、カップル達はカントリー・ダンスの旋律に合わせて揺れていた。壁に掛けられた緑樹の花輪は部屋に森の香りを添え、その中で召使い達は、ワッセル酒、パンチ、ワインの入ったカップを持って歩き回っていた。地域の者がみな招かれて、ベルモア家での年に一度のクリスマス舞踏会に来ていたのだ。
しかし、彼の隣に座っていた二人の女性はダンスに興味がないようだった。ミス・チャーチプラットンはチャーミングだが、会話は常に自分のことか、何か自分に関係のあることばかり。ミス・バーンズはそれほど自己中心的ではないが、ジェラルドの人生や趣味について彼を質問攻めにし、彼がしてきたことを全て褒め称えた。
ジェラルドは、どちらを向いても身動きが取れない。昔はダンスが好きで、すごく上手な訳ではなかったが楽しかった。見ているだけのダンスは全く楽しくない。
膝が痛み、「行き場がない」ことを思い出した。
「ひどい混雑ね」ミス・チャーチプラットンは言った。「客が多いとフェリシティは大喜びかもしれないけど、私はもっと小さくて人を選んだパーティーの方が好きだわ」
「舞踏会に行かれたことあります?キャプテン・フォーモント」ミス・バーンズが尋ねた。「きっと大人気だったんでしょうね」
シャツを脱ぎ、上甲板で小躍りする部下のことを思った。「何度も行きましたよ、実はね」
不意に見上げると、部屋の向こう側にミランダが見えた。ジェラルドを見ているのではなく、ダンスホールにいる誰かを探しているようだった。ジェラルドを見ると少し微笑み、その後、彼と一緒にいる二人の女性の方に目が動いた。
その瞬間に気がついた。自分と一緒に座っているのがミランダだったら、こんな気分にはならないだろうと。
すると、歩いてきた人が視線を遮ったので、ミランダが見えなくなった。
「あなたとここに座ってる方がずっといいわ、キャプテン・フォーモント」ミス・チャーチプラットンは言った。「フェリシティが無理強いして招いた若い子達は元気がありすぎて、ドレスをしわくちゃにされるの」
「あなただったら、そんなことしませんわよね、キャプテン」ミス・バーンズは言った。
母が呼んでいるからという理由で退散しようと思ったが、母はあいにくダンスホールにいなかった。それに、この二人に母のいるところまで一緒に来たいと言われても困る。
ウィンウッド夫人が救済に来るとは意外だった。
「ミス・バーンズ」ウィンウッド夫人は言った。「応接間にいるお母様のところに行かれた方がいいかもしれないわ。ホイストでミセス・シーガーと組まれたんだけど、とてもイライラなさってて、パートナーの首を絞めるかも」
「まあ大変」ミス・バーンズは自分の親が殺人を犯すのを止めようと急いで立ち上がった。
ウィンウッド夫人は空いた席に腰を下ろした。「ミス・チャーチプラットン、キャプテン・フォーモント、素敵な舞踏会ね。ロンドンでのお披露目パーティーを思い出すわ。あのときの舞踏会で一番ハンサムだったケラートン卿からダンスに誘われてドキドキしたわ。あの素敵な金髪が全部抜けて、愛人から梅毒を移される前のことだけどね」
ジェラルドは吹き出しそうになるのを堪え、ミス・チャーチプラットンは呆れているように見えた。ウィンウッド夫人は、何か悪い冗談を企んでいるようだった。
「私のデコルテだけど、モスリンをうまく押し込んでふくよかに見せたことがあるのね。そうしたら、元気のいいカントリー・ダンスを踊った時にモスリンが一つ出てきちゃったのよ。私がどれだけ仰天したか、分かってもらえる?ミス・チャーチプラットン乳房の大きさの違いをどうやって説明するの?」
ウィンウッド夫人は話をやめ、明らかにミス・チャーチプラットンの返事を待っているように見えた。この若い娘はゴクリと唾を飲み込んで、弱々しく言った。「本当にそうですね」
ジェラルドは真っ赤になった顔を無理やり背けた。死ぬほど決まり悪く、笑いを堪えすぎて肋骨が折れそうだった。彼はまたミランダを見た。まだ誰かを探しているようで、手袋をはめた手は喉元のペーストストーンをいじっており、目は本物のエメラルドのように輝いていた。もっと高価な洋服を着た女性達と比べ、ミランダは新鮮で自然体、それに、誰より愛らしかった。
しかしその時、フェリシティが口元を固く引き締めて現れた。そしてミランダの肘をつかみ、ダンスホールの外に引っ張っていった。
ジェラルドは緊張感を感じ、立ち上がって彼女の後を追おうとしている自分に気が付いた。失礼にもウィンウッド夫人とミス・チャーチプラットンを残して。
「ミセス・ドリューを見て。私を睨んでるわ」ウィンウッド夫人が言った。「彼女と私の母は天敵だったのよ、知ってらした?」
「お母様があなたと同じような人だったら、お母様を嫌う人がいるなんて信じられませんね」ジェラルドは言った。
「あなたったら」ウィンウッド夫人は彼の腕を握った。「一、二年前のことだけど、彼女と私の母が喧嘩になって、ミセス・ドリューが振り回した杖が若い男の子の股間に当たったことがあるのよ」
ミス・チャーチプラットンは喉を詰まらせたような声を出した。顔は暗赤色に変わり、それがピンク色のドレスとかち合った。とても動揺した様子でうちわを扇ぎ、その目は必死でダンスホールをきょろきょろと見回していた。
カントリー・ダンスは終わり、若い男性が近づいてきた。彼は大地主の息子の一人でかっぷくがよく、地元で一番のいい男だと自負していた。「ミス・チャーチプラットン、次のダンスを一緒にいかがですか?」
「いいですよ」危うく彼をダンスフロアに引きずって行きそうな勢いだった。
「やっと行ったわ」ウィンウッド夫人が言った。「私のタオルクローゼットの中味を暗唱し始めないと、立ち上がらないかと思ったわ」
ジェラルドは高笑いを咳に変えた。「タオルクローゼットのような平凡なことを話していたら、まだここにいたと思いますよ」
「最近の若い人は、糊付けしたみたいにかたいわね。私の時代はもっと不真面目で、愉快だったわ。ミランダがここに来るように言ってくれて、本当によかった」
ミランダは彼を救う方法を確実に知っていた。ジェラルドは彼女に感謝したが、彼女の危急の時に助けてあげられないことを少し恥ずかしく思った。
「あなたのお母様と話したのよ、ジェラルド」ウィンウッド夫人は言った。「お母様は、ミランダのような若い独身の女性があなたと同じ屋根の下に住むことについて心配してらっしゃるの」
ダンスホールは突然息苦しくなった。「私はフォーモント・レイシーに引っ越すことを提案したんですけどね」
「そこだと近すぎるのよ」ウィンウッド夫人は鋭い目で彼を見た。将来の結婚をどうするかについて聞かれるのではないかと一瞬心配になったが、明らかに彼女は気が変わったようだった。「もう一度話してみるわ。希望を失くしちゃいけないわね。だけど今は、応接間のソファまで連れていってもらえないかしら。ミス・バーンズの椅子はとても座り心地が悪いの」
「ミス・バーンズではなくて、ミス・チャーチプラットンに席を譲ってもらえばよかったですね」ジェラルドは笑って言った。
「ミス・バーンズを選んだのは、彼女の方が追い出しやすかったからなのよ」ウィンウッド夫人は、ジェラルドに助けられて立ち上がりながら言った。「ミス・チャーチプラットンはとても頑固なの。お母さんと同じでね。いつか、そのことを教えてあげるわ」
ジェラルドは腕を差し出し、真実かどうかは分からないが、ローラは自分や他人のことについて、いかがわしい話をして彼を楽しませた。このようにして二人は開いた二重ドアを通って応接間に入り、ローラはソファに腰を下ろした。「何か飲み物でもお持ちしましょうか?奥様」
「お構いなく、ワッセル酒にシェリーをもっと入れたのを、年の若いいとこに頼むわ。あの子達の中に、セシールの秘密の隠し場所を知ってる子がいるはずだから」
ジェラルドはローラに感謝し、ミセス・ハザウェイの息子の一人に合図を送って彼女の付き添いを頼んでから、ダンスホールに戻っていた。すると、親切な女主人の仮面を付けたフェリシティが部屋に戻ってきたのに気がついたが、ミランダはいなかった。少し待ってみたが、フェリシティの後ろからミランダが現れることはなかった。
ダンスはもうすぐ終わろうとしており、またミス・チャーチプラットンの罠にはまるのはご免だったので、素早く部屋を出てミランダを探しに行った。舞踏会に参加する義務はあったものの、楽しみにしていた訳ではなく、ミス・チャーチプラットンと一緒になるとは予想もしていなかった。彼女は若い男性全員と踊るものと思い込んでいた。それよりも自分はミランダと話したかった。それに、ダンスの続きを見るぐらいだったら床に就いた方がいい。
ダンスホール外の廊下を見下ろしたが、最初は誰も見えなかった。すると廊下の向こう側に影が見えてきて、壁にもたれている人の形が見え、ジェラルドは彼女の方に向かって行った。
近くに行って初めて、何かおかしいことに気がついた。ミランダは、お腹を押さえている手が震えていた。顔は、ペンキで塗られた壁の色より白かった。
「ミランダ」
ミランダは彼を見た。その目を見ると、溺死した部下の顔を思い出した。
杖を落として大股で前に進み、彼女を腕に包み込んだ。
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第8章
ジェラルドは途方に暮れていた。あまりにも無力で、彼女のために何をしてあげることもできない。
彼らに向かって怒鳴りつけ、ミランダを笑い者にするのをやめろと言いたかった。あるいは彼女のところまで行って手を取り、食堂の外に連れ出したかった。しかしそんなことをしたら、彼女がもっと笑い者にされるだけだ。
ミランダの目の中に苦痛が見えたが、その顔は平静心の仮面で覆われていった。その瞬間まで、それが仮面であったことがよく分かっていなかった。
ミランダのことで、知らないことは沢山ありすぎた。知りたくなかったことも沢山あった。
今は、その全てを知りたかった。
今すぐということではない。まず、この忌まわしい杖がなくてもちゃんと歩くことができなくては。もう一度健康になりたい、そして自立し、自尊心というものを取り戻したい。
そしてこの瞬間、耳から血が流れ出す前に、両側にいる二人のおしゃべりな女から何とか逃げ出したかった。
ジェラルドはダンスホールの隅に座っていて、カップル達はカントリー・ダンスの旋律に合わせて揺れていた。壁に掛けられた緑樹の花輪は部屋に森の香りを添え、その中で召使い達は、ワッセル酒、パンチ、ワインの入ったカップを持って歩き回っていた。地域の者がみな招かれて、ベルモア家での年に一度のクリスマス舞踏会に来ていたのだ。
しかし、彼の隣に座っていた二人の女性はダンスに興味がないようだった。ミス・チャーチプラットンはチャーミングだが、会話は常に自分のことか、何か自分に関係のあることばかり。ミス・バーンズはそれほど自己中心的ではないが、ジェラルドの人生や趣味について彼を質問攻めにし、彼がしてきたことを全て褒め称えた。
ジェラルドは、どちらを向いても身動きが取れない。昔はダンスが好きで、すごく上手な訳ではなかったが楽しかった。見ているだけのダンスは全く楽しくない。
膝が痛み、「行き場がない」ことを思い出した。
「ひどい混雑ね」ミス・チャーチプラットンは言った。「客が多いとフェリシティは大喜びかもしれないけど、私はもっと小さくて人を選んだパーティーの方が好きだわ」
「舞踏会に行かれたことあります?キャプテン・フォーモント」ミス・バーンズが尋ねた。「きっと大人気だったんでしょうね」
シャツを脱ぎ、上甲板で小躍りする部下のことを思った。「何度も行きましたよ、実はね」
不意に見上げると、部屋の向こう側にミランダが見えた。ジェラルドを見ているのではなく、ダンスホールにいる誰かを探しているようだった。ジェラルドを見ると少し微笑み、その後、彼と一緒にいる二人の女性の方に目が動いた。
その瞬間に気がついた。自分と一緒に座っているのがミランダだったら、こんな気分にはならないだろうと。
すると、歩いてきた人が視線を遮ったので、ミランダが見えなくなった。
「あなたとここに座ってる方がずっといいわ、キャプテン・フォーモント」ミス・チャーチプラットンは言った。「フェリシティが無理強いして招いた若い子達は元気がありすぎて、ドレスをしわくちゃにされるの」
「あなただったら、そんなことしませんわよね、キャプテン」ミス・バーンズは言った。
母が呼んでいるからという理由で退散しようと思ったが、母はあいにくダンスホールにいなかった。それに、この二人に母のいるところまで一緒に来たいと言われても困る。
ウィンウッド夫人が救済に来るとは意外だった。
「ミス・バーンズ」ウィンウッド夫人は言った。「応接間にいるお母様のところに行かれた方がいいかもしれないわ。ホイストでミセス・シーガーと組まれたんだけど、とてもイライラなさってて、パートナーの首を絞めるかも」
「まあ大変」ミス・バーンズは自分の親が殺人を犯すのを止めようと急いで立ち上がった。
ウィンウッド夫人は空いた席に腰を下ろした。「ミス・チャーチプラットン、キャプテン・フォーモント、素敵な舞踏会ね。ロンドンでのお披露目パーティーを思い出すわ。あのときの舞踏会で一番ハンサムだったケラートン卿からダンスに誘われてドキドキしたわ。あの素敵な金髪が全部抜けて、愛人から梅毒を移される前のことだけどね」
ジェラルドは吹き出しそうになるのを堪え、ミス・チャーチプラットンは呆れているように見えた。ウィンウッド夫人は、何か悪い冗談を企んでいるようだった。
「私のデコルテだけど、モスリンをうまく押し込んでふくよかに見せたことがあるのね。そうしたら、元気のいいカントリー・ダンスを踊った時にモスリンが一つ出てきちゃったのよ。私がどれだけ仰天したか、分かってもらえる?ミス・チャーチプラットン乳房の大きさの違いをどうやって説明するの?」
ウィンウッド夫人は話をやめ、明らかにミス・チャーチプラットンの返事を待っているように見えた。この若い娘はゴクリと唾を飲み込んで、弱々しく言った。「本当にそうですね」
ジェラルドは真っ赤になった顔を無理やり背けた。死ぬほど決まり悪く、笑いを堪えすぎて肋骨が折れそうだった。彼はまたミランダを見た。まだ誰かを探しているようで、手袋をはめた手は喉元のペーストストーンをいじっており、目は本物のエメラルドのように輝いていた。もっと高価な洋服を着た女性達と比べ、ミランダは新鮮で自然体、それに、誰より愛らしかった。
しかしその時、フェリシティが口元を固く引き締めて現れた。そしてミランダの肘をつかみ、ダンスホールの外に引っ張っていった。
ジェラルドは緊張感を感じ、立ち上がって彼女の後を追おうとしている自分に気が付いた。失礼にもウィンウッド夫人とミス・チャーチプラットンを残して。
「ミセス・ドリューを見て。私を睨んでるわ」ウィンウッド夫人が言った。「彼女と私の母は天敵だったのよ、知ってらした?」
「お母様があなたと同じような人だったら、お母様を嫌う人がいるなんて信じられませんね」ジェラルドは言った。
「あなたったら」ウィンウッド夫人は彼の腕を握った。「一、二年前のことだけど、彼女と私の母が喧嘩になって、ミセス・ドリューが振り回した杖が若い男の子の股間に当たったことがあるのよ」
ミス・チャーチプラットンは喉を詰まらせたような声を出した。顔は暗赤色に変わり、それがピンク色のドレスとかち合った。とても動揺した様子でうちわを扇ぎ、その目は必死でダンスホールをきょろきょろと見回していた。
カントリー・ダンスは終わり、若い男性が近づいてきた。彼は大地主の息子の一人でかっぷくがよく、地元で一番のいい男だと自負していた。「ミス・チャーチプラットン、次のダンスを一緒にいかがですか?」
「いいですよ」危うく彼をダンスフロアに引きずって行きそうな勢いだった。
「やっと行ったわ」ウィンウッド夫人が言った。「私のタオルクローゼットの中味を暗唱し始めないと、立ち上がらないかと思ったわ」
ジェラルドは高笑いを咳に変えた。「タオルクローゼットのような平凡なことを話していたら、まだここにいたと思いますよ」
「最近の若い人は、糊付けしたみたいにかたいわね。私の時代はもっと不真面目で、愉快だったわ。ミランダがここに来るように言ってくれて、本当によかった」
ミランダは彼を救う方法を確実に知っていた。ジェラルドは彼女に感謝したが、彼女の危急の時に助けてあげられないことを少し恥ずかしく思った。
「あなたのお母様と話したのよ、ジェラルド」ウィンウッド夫人は言った。「お母様は、ミランダのような若い独身の女性があなたと同じ屋根の下に住むことについて心配してらっしゃるの」
ダンスホールは突然息苦しくなった。「私はフォーモント・レイシーに引っ越すことを提案したんですけどね」
「そこだと近すぎるのよ」ウィンウッド夫人は鋭い目で彼を見た。将来の結婚をどうするかについて聞かれるのではないかと一瞬心配になったが、明らかに彼女は気が変わったようだった。「もう一度話してみるわ。希望を失くしちゃいけないわね。だけど今は、応接間のソファまで連れていってもらえないかしら。ミス・バーンズの椅子はとても座り心地が悪いの」
「ミス・バーンズではなくて、ミス・チャーチプラットンに席を譲ってもらえばよかったですね」ジェラルドは笑って言った。
「ミス・バーンズを選んだのは、彼女の方が追い出しやすかったからなのよ」ウィンウッド夫人は、ジェラルドに助けられて立ち上がりながら言った。「ミス・チャーチプラットンはとても頑固なの。お母さんと同じでね。いつか、そのことを教えてあげるわ」
ジェラルドは腕を差し出し、真実かどうかは分からないが、ローラは自分や他人のことについて、いかがわしい話をして彼を楽しませた。このようにして二人は開いた二重ドアを通って応接間に入り、ローラはソファに腰を下ろした。「何か飲み物でもお持ちしましょうか?奥様」
「お構いなく、ワッセル酒にシェリーをもっと入れたのを、年の若いいとこに頼むわ。あの子達の中に、セシールの秘密の隠し場所を知ってる子がいるはずだから」
ジェラルドはローラに感謝し、ミセス・ハザウェイの息子の一人に合図を送って彼女の付き添いを頼んでから、ダンスホールに戻っていた。すると、親切な女主人の仮面を付けたフェリシティが部屋に戻ってきたのに気がついたが、ミランダはいなかった。少し待ってみたが、フェリシティの後ろからミランダが現れることはなかった。
ダンスはもうすぐ終わろうとしており、またミス・チャーチプラットンの罠にはまるのはご免だったので、素早く部屋を出てミランダを探しに行った。舞踏会に参加する義務はあったものの、楽しみにしていた訳ではなく、ミス・チャーチプラットンと一緒になるとは予想もしていなかった。彼女は若い男性全員と踊るものと思い込んでいた。それよりも自分はミランダと話したかった。それに、ダンスの続きを見るぐらいだったら床に就いた方がいい。
ダンスホール外の廊下を見下ろしたが、最初は誰も見えなかった。すると廊下の向こう側に影が見えてきて、壁にもたれている人の形が見え、ジェラルドは彼女の方に向かって行った。
近くに行って初めて、何かおかしいことに気がついた。ミランダは、お腹を押さえている手が震えていた。顔は、ペンキで塗られた壁の色より白かった。
「ミランダ」
ミランダは彼を見た。その目を見ると、溺死した部下の顔を思い出した。
杖を落として大股で前に進み、彼女を腕に包み込んだ。
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