【独身淑女のクリスマス】 第14章
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ジェラルドは、全くと言っていいほどその下男に気が付かなかった。気が散っていたからだと言いたかったが、本当は、マイケルがうまくやっていたからだった。
ミランダが行ってしまった後、外は寒すぎたので、ジェラルドは心地よい暖炉のそばでお茶を一杯、と考えた。おまけにウィスキーもちょっと入れようか。しかし、下男らが音楽室から椅子を運び出していたために、寝室に行く方向は遮られていた。彼らは応接間に向かっていて、ジェラルドは今晩の客用に余分の椅子が必要になったのかと推測した。フェリシティが豪華な夕食会を計画していたのだ。
下男が一人、ジェラルドのそばを通ったのだが、他人の制服を着ているのではないかと思われるほど似合っていなかった。最初、その下男の顔は完全に知らない顔だった。すると突然、その召使いは青緑色の目をジェラルドに向け、ウィンクした。
ジェラルドは歯ぎしりをした。
ゆっくり廊下を進み、音楽室を過ぎて寝室に向かった。寝室のドアのところで立ち止まり、待った。
執事は、下男らが静かに歩き回るのを立って監視していた。問題の人物である下男は応接間を出て、もっと椅子を取りに音楽室に戻ったが、ジェラルドは自分の寝室へ入る前に、彼をキッと睨んでこちらへ来るようにと合図をした。そして暖炉の前に腰を落ち着かせ、待った。
数秒後にドアを引っ掻くような音がした。「どうぞ」ジェラルドは大声で言った。
「ご機嫌斜めだね」部屋に入りながらマイケルは言って、ドアを閉めた。ジェラルドが最初に見た妙な召使いではなく、突然いつものマイケルに戻っていた。
「何で君がその制服を着てる?」ジェラルドが詰問した。
マイケルは袖を引っ張りながら、無実を装った。「あれは明らさまだよ。仕事中に話しかけるなんて、僕をクビにしたいのか」
「召使いのふりをして忍び込むなんて、危険すぎる」ジェラルドは言った。「君が着いた時に話し合っただろ」
「ずっと村の行商人のふりをしてたら、君を守れないよ」マイケルが言った。
「僕の父——君の叔父——に見抜かれてたかもしれないよ、バカだな」
マイケルはジェラルドを凝視した。「君は分からなかったじゃないか。それに、フランスでのあの日のことを忘れたっていうのか。君のお父さんだったら間違いなくだませるよ、必ずね」
ジェラルドの憤りは退いていった。
二年前ジェラルドは、フランスの村で船に再補給していたフランス人を捕獲するために、岸で部隊を率いたことがあった。小競り合いがあって、船員と共に捉えられた農民がいた。
ジェラルドは従兄弟の顔をじっと見たが、すぐには彼だと分からなかった。何時間も経ってから、そのフランス人の農民が思いがけずマイケルの声で静かにささやくまで。マイケルは、本部から受けた任務の途中であることを白状し、自由になれる方法を探して欲しいとジェラルドに頼んだのだった。明らかにマイケルには、ウェリントンの下級士官として以上の任務があったわけだ。
女に襲われたクリスマスイブの後、ジェラルドは、クリスマス休暇で帰宅中であることが分かっていたマイケルに手紙を書いて、あの女のことを調べてもらおうと協力を頼んでいたのだった。マイケルは髪の毛を黒く染めることまでし、行商人のふりをした時は、泥で自分の特徴を隠した。そして今、泥はないが、何か顔の血色が悪く見えるようなことをしたようで、椅子を運んでいる時にジェラルドが見た彼の歩き方と姿勢は、背筋を伸ばしたいつもの姿勢とは全く違っていた。
マイケルは呑気な笑顔を見せた。「それに、召使いに注目する人は誰もいないよ」
確かにそうだと、ジェラルドは認めた。
マイケルは続けた。「行商人のふりをしたのは正解だったよ。地元の居酒屋でありとあらゆる男と飲み友達になって、君やミランダと何か関係がある地元の人がいないか探りを入れることができた。だけど、昨日の襲撃の後は、ここにいてミランダを守った方がいいと思うようになった。それに、恩知らずな僕の親類の安全も大事だからね、もちろん」
「恩知らずじゃない」ジェラルドは唸った。「君のことが心配なだけだ」
「君の心遣いには胸を打たれるよ」マイケルは短くお辞儀をした。「お互い様さ、君だって、自分をおとりにして奴らをおびき出そうとしたじゃないか」
「ここに座ったまま何もしないなんてことはできないよ。君だったらもちろん分かってくれるだろ」
ジェラルドを見るマイケルの目は真剣だった。「もちろん」
突然取り乱してドアを叩く音がし、二人は振り向いた。一瞬のうちに、マイケルの顔はびっくりするほど変貌していった。顎と唇の筋肉を緩めたり引き締めたりすると、突然顎が弱くなったように見え、目は瞼が半分閉じた。丸めた背中と顔のメークを組み合わせると、ほとんどマイケルに見えなかった。応対に出ようと足を引きずって行った。
ミランダはマイケルを見てまず驚いたが、その目はジェラルドの方へ流れた。顔は青ざめ、肌の色が半透明に見えるほどだった。
「ミランダ、何かあったの?」膝の痛みを無視して立ち上がった。
彼女は息を呑み込んで、マイケルをちらりと見た。
「早く、入って」ジェラルドが言った。
ミランダはそれが淫らな行為であることに躊躇すらせずに、寝室に滑り込んだ。マイケルがドアを閉め、顔の筋肉を緩めると、ミランダは驚いて、きゃっと叫んだ。
「ミランダ、紹介するよ。従兄弟のマイケル・コールトン–ジョーンズ大尉。マイケル、こちらはミス・ミランダ・ベルモア」
「光栄です」マイケルは彼女の手を取ってお辞儀をし、キュートな笑顔を見せた。この笑顔を見て彼の足元にひれ伏さなかった女性はいない。
ジェラルドは彼を睨んだ。しかし、ミランダがさっと手を引っ込めてジェラルドの方を向いたのが嬉しかった。
しかし今、彼と一緒に密室にいるミランダは不安そうで、緊張しているように見えた。「ジェラルド、座って。あっ、膝のためじゃなくて」
「何なの?」ありがたくソファに沈み、ミランダは椅子に腰を落ち着けた。
「私……」恐ろしい記憶を遮ろうとしているかのように、目をかたく閉じた。「誰が私を殺したいと思ってるのかが分かったの」
「誰?」
口を拳で押さえ、明らかに震えていた。ジェラルドは彼女に手を伸ばして、ミランダの手を取った。暖炉のそばで、興味津々の表情をして立っているマイケルなど、どうでもいい。
彼の方に向けた目はひどく苦しんでいた。「ジェラルド、すべて私のせいなの」
「ミランダ——」
「私の両親のことで何を言ったか、覚えてる?六歳のとき、両親は新しいナーサリーメイドを雇ったんだけど、彼女の行動については関心がなかったの。ハリエット……」息を呑んだ。「ハリエットに虐待されてた。彼女は両親に、私が不器用なだけだって言ったの」無意識のうちに手が前腕に動いた。「だから親は、私の傷を決して疑問に思わなかった」
彼女の手を握りつぶさないよう集中しなくては。胸に怒りがこみ上げてきて、体の全筋肉が硬くなっていった。彼女の繊細な指の骨に集中した。自分と比べて折れそうなほど、か弱い。今なら彼女を守ることができる。ミランダを愛しているから、今だったら彼女を傷つける全ての人から守ってやる。
「二年間続いたわ」ミランダは言った。「そんなある日、母のダイアモンドのブレスレットが庭の茂みに落ちてるのを見つけたの。母が開くことになってる夕食会の二、三日前の夜にブレスレットを失くしたものだから、家中が大騒ぎだった。夕食の後、庭を散歩しているうちにブレスレットが外れて落ちたんだと思う。だけど母に返さないで、ハリエットの鏡台の中に隠した。ハリエットが一日休みを取ってた日、私の面倒を見てたアンダーメイドの一人に、ハリエットが綺麗なブレスレットをしてたって、さりげなく言ってみたの。それ以上何も言わなくても、そのメイドはハリエットの持ち物を調べて、母のブレスレットを見つけた。ハリエットは即解雇、そのメイドはアッパーメイドに昇進したの」
「ハリエットの仕業だって言うの?」マイケルが尋ねた。ジェラルドは彼がそこにいたということを、ほとんど忘れていた。「こんなに年月が過ぎた後なのに?」
「その後、地元では誰も彼女を雇わなかったわ」ミランダが言った。「ハリエットは仕事を探しにロンドンへ行くしかなかったの。だけど、辛い目に遭った。聞いたところでは、亡くなったって……売春宿で」
ジェラルドは彼女の表情の中に罪悪感を見た。「君はほんの八歳だったんだよ」
「一度盗みの罪に問われたら、別の場所を見つけるのは難しいってことは分かる歳だったわ」ミランダは言った。「ロンドンで彼女がどうなったのかを後で知ったの。だけどその時は、彼女が死んだと聞いてホッとしただけだった」指を手のひらの中で強く握った。
「君は森にいた女を見なかった」ジェラルドが言った。「ハリエットかどうかは分からないよ」
「メイドのジーンがほのめかしたの。私だったらどうやって彼女をクビにできるかって」ミランダが言った。「ハリエットに言われなきゃ、ジーンがそんなことを知ってるはずはない。ハリエットを辞めさせるために、彼女の持ち物にブレスレットを隠したことを知ってる人は誰もいないのよ。あの二人の男に私達を襲わせるために、ハリエットがジーンを使って庭の門を開けさせたに違いないわ」
「だけど、あの夜君達が散歩に出たことを、どうやって彼女は知ることができたんだろう」マイケルが言った。
「多分、屋敷に忍び込んで、君を待ち伏せしてたんだろう」ジェラルドが厳しい顔で言った。
「ハリエットが君を探し当てることができたっていうことが信じられないな」マイケルが言った。「それにあの二人の男——彼女が雇ったのに違いない。だけど、何か腑に落ちないことがあるなあ」
「ここを離れようかと考えたの」ミランダが低い声で言った。
ジェラルドは心臓が捻れるようだった。ぎゅうっと。「君が行けるところはどこにもない。ハリエットのようになってしまうよ」
「そうすれば、彼女はあなた達から離れていくわ」
「君が罪滅ぼしをする必要はない」断固として言った。
「これを逆に利用することができるかも」マイケルが言った。「罠を仕掛けるんだ。スケートの時にもう少しで捕まえられたんだから」
「ミランダを危険にさらすことはできないよ」ジェラルドは従兄弟に言った。
「そんなことはさせない。ちょっと考えさせてくれ」
「一緒に考えよう。ミランダ、家にいるようにして、一人でどこかに出かけるんじゃないよ。マイケルが召使いの中に混じって、君のことを見張ってるからね」
マイケルは気取った笑みを浮かべた。「言っただろ、僕がいると便利だって」
ジェラルドはムッとした顔をした。「見破られなければね」
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第14章
ジェラルドは、全くと言っていいほどその下男に気が付かなかった。気が散っていたからだと言いたかったが、本当は、マイケルがうまくやっていたからだった。
ミランダが行ってしまった後、外は寒すぎたので、ジェラルドは心地よい暖炉のそばでお茶を一杯、と考えた。おまけにウィスキーもちょっと入れようか。しかし、下男らが音楽室から椅子を運び出していたために、寝室に行く方向は遮られていた。彼らは応接間に向かっていて、ジェラルドは今晩の客用に余分の椅子が必要になったのかと推測した。フェリシティが豪華な夕食会を計画していたのだ。
下男が一人、ジェラルドのそばを通ったのだが、他人の制服を着ているのではないかと思われるほど似合っていなかった。最初、その下男の顔は完全に知らない顔だった。すると突然、その召使いは青緑色の目をジェラルドに向け、ウィンクした。
ジェラルドは歯ぎしりをした。
ゆっくり廊下を進み、音楽室を過ぎて寝室に向かった。寝室のドアのところで立ち止まり、待った。
執事は、下男らが静かに歩き回るのを立って監視していた。問題の人物である下男は応接間を出て、もっと椅子を取りに音楽室に戻ったが、ジェラルドは自分の寝室へ入る前に、彼をキッと睨んでこちらへ来るようにと合図をした。そして暖炉の前に腰を落ち着かせ、待った。
数秒後にドアを引っ掻くような音がした。「どうぞ」ジェラルドは大声で言った。
「ご機嫌斜めだね」部屋に入りながらマイケルは言って、ドアを閉めた。ジェラルドが最初に見た妙な召使いではなく、突然いつものマイケルに戻っていた。
「何で君がその制服を着てる?」ジェラルドが詰問した。
マイケルは袖を引っ張りながら、無実を装った。「あれは明らさまだよ。仕事中に話しかけるなんて、僕をクビにしたいのか」
「召使いのふりをして忍び込むなんて、危険すぎる」ジェラルドは言った。「君が着いた時に話し合っただろ」
「ずっと村の行商人のふりをしてたら、君を守れないよ」マイケルが言った。
「僕の父——君の叔父——に見抜かれてたかもしれないよ、バカだな」
マイケルはジェラルドを凝視した。「君は分からなかったじゃないか。それに、フランスでのあの日のことを忘れたっていうのか。君のお父さんだったら間違いなくだませるよ、必ずね」
ジェラルドの憤りは退いていった。
二年前ジェラルドは、フランスの村で船に再補給していたフランス人を捕獲するために、岸で部隊を率いたことがあった。小競り合いがあって、船員と共に捉えられた農民がいた。
ジェラルドは従兄弟の顔をじっと見たが、すぐには彼だと分からなかった。何時間も経ってから、そのフランス人の農民が思いがけずマイケルの声で静かにささやくまで。マイケルは、本部から受けた任務の途中であることを白状し、自由になれる方法を探して欲しいとジェラルドに頼んだのだった。明らかにマイケルには、ウェリントンの下級士官として以上の任務があったわけだ。
女に襲われたクリスマスイブの後、ジェラルドは、クリスマス休暇で帰宅中であることが分かっていたマイケルに手紙を書いて、あの女のことを調べてもらおうと協力を頼んでいたのだった。マイケルは髪の毛を黒く染めることまでし、行商人のふりをした時は、泥で自分の特徴を隠した。そして今、泥はないが、何か顔の血色が悪く見えるようなことをしたようで、椅子を運んでいる時にジェラルドが見た彼の歩き方と姿勢は、背筋を伸ばしたいつもの姿勢とは全く違っていた。
マイケルは呑気な笑顔を見せた。「それに、召使いに注目する人は誰もいないよ」
確かにそうだと、ジェラルドは認めた。
マイケルは続けた。「行商人のふりをしたのは正解だったよ。地元の居酒屋でありとあらゆる男と飲み友達になって、君やミランダと何か関係がある地元の人がいないか探りを入れることができた。だけど、昨日の襲撃の後は、ここにいてミランダを守った方がいいと思うようになった。それに、恩知らずな僕の親類の安全も大事だからね、もちろん」
「恩知らずじゃない」ジェラルドは唸った。「君のことが心配なだけだ」
「君の心遣いには胸を打たれるよ」マイケルは短くお辞儀をした。「お互い様さ、君だって、自分をおとりにして奴らをおびき出そうとしたじゃないか」
「ここに座ったまま何もしないなんてことはできないよ。君だったらもちろん分かってくれるだろ」
ジェラルドを見るマイケルの目は真剣だった。「もちろん」
突然取り乱してドアを叩く音がし、二人は振り向いた。一瞬のうちに、マイケルの顔はびっくりするほど変貌していった。顎と唇の筋肉を緩めたり引き締めたりすると、突然顎が弱くなったように見え、目は瞼が半分閉じた。丸めた背中と顔のメークを組み合わせると、ほとんどマイケルに見えなかった。応対に出ようと足を引きずって行った。
ミランダはマイケルを見てまず驚いたが、その目はジェラルドの方へ流れた。顔は青ざめ、肌の色が半透明に見えるほどだった。
「ミランダ、何かあったの?」膝の痛みを無視して立ち上がった。
彼女は息を呑み込んで、マイケルをちらりと見た。
「早く、入って」ジェラルドが言った。
ミランダはそれが淫らな行為であることに躊躇すらせずに、寝室に滑り込んだ。マイケルがドアを閉め、顔の筋肉を緩めると、ミランダは驚いて、きゃっと叫んだ。
「ミランダ、紹介するよ。従兄弟のマイケル・コールトン–ジョーンズ大尉。マイケル、こちらはミス・ミランダ・ベルモア」
「光栄です」マイケルは彼女の手を取ってお辞儀をし、キュートな笑顔を見せた。この笑顔を見て彼の足元にひれ伏さなかった女性はいない。
ジェラルドは彼を睨んだ。しかし、ミランダがさっと手を引っ込めてジェラルドの方を向いたのが嬉しかった。
しかし今、彼と一緒に密室にいるミランダは不安そうで、緊張しているように見えた。「ジェラルド、座って。あっ、膝のためじゃなくて」
「何なの?」ありがたくソファに沈み、ミランダは椅子に腰を落ち着けた。
「私……」恐ろしい記憶を遮ろうとしているかのように、目をかたく閉じた。「誰が私を殺したいと思ってるのかが分かったの」
「誰?」
口を拳で押さえ、明らかに震えていた。ジェラルドは彼女に手を伸ばして、ミランダの手を取った。暖炉のそばで、興味津々の表情をして立っているマイケルなど、どうでもいい。
彼の方に向けた目はひどく苦しんでいた。「ジェラルド、すべて私のせいなの」
「ミランダ——」
「私の両親のことで何を言ったか、覚えてる?六歳のとき、両親は新しいナーサリーメイドを雇ったんだけど、彼女の行動については関心がなかったの。ハリエット……」息を呑んだ。「ハリエットに虐待されてた。彼女は両親に、私が不器用なだけだって言ったの」無意識のうちに手が前腕に動いた。「だから親は、私の傷を決して疑問に思わなかった」
彼女の手を握りつぶさないよう集中しなくては。胸に怒りがこみ上げてきて、体の全筋肉が硬くなっていった。彼女の繊細な指の骨に集中した。自分と比べて折れそうなほど、か弱い。今なら彼女を守ることができる。ミランダを愛しているから、今だったら彼女を傷つける全ての人から守ってやる。
「二年間続いたわ」ミランダは言った。「そんなある日、母のダイアモンドのブレスレットが庭の茂みに落ちてるのを見つけたの。母が開くことになってる夕食会の二、三日前の夜にブレスレットを失くしたものだから、家中が大騒ぎだった。夕食の後、庭を散歩しているうちにブレスレットが外れて落ちたんだと思う。だけど母に返さないで、ハリエットの鏡台の中に隠した。ハリエットが一日休みを取ってた日、私の面倒を見てたアンダーメイドの一人に、ハリエットが綺麗なブレスレットをしてたって、さりげなく言ってみたの。それ以上何も言わなくても、そのメイドはハリエットの持ち物を調べて、母のブレスレットを見つけた。ハリエットは即解雇、そのメイドはアッパーメイドに昇進したの」
「ハリエットの仕業だって言うの?」マイケルが尋ねた。ジェラルドは彼がそこにいたということを、ほとんど忘れていた。「こんなに年月が過ぎた後なのに?」
「その後、地元では誰も彼女を雇わなかったわ」ミランダが言った。「ハリエットは仕事を探しにロンドンへ行くしかなかったの。だけど、辛い目に遭った。聞いたところでは、亡くなったって……売春宿で」
ジェラルドは彼女の表情の中に罪悪感を見た。「君はほんの八歳だったんだよ」
「一度盗みの罪に問われたら、別の場所を見つけるのは難しいってことは分かる歳だったわ」ミランダは言った。「ロンドンで彼女がどうなったのかを後で知ったの。だけどその時は、彼女が死んだと聞いてホッとしただけだった」指を手のひらの中で強く握った。
「君は森にいた女を見なかった」ジェラルドが言った。「ハリエットかどうかは分からないよ」
「メイドのジーンがほのめかしたの。私だったらどうやって彼女をクビにできるかって」ミランダが言った。「ハリエットに言われなきゃ、ジーンがそんなことを知ってるはずはない。ハリエットを辞めさせるために、彼女の持ち物にブレスレットを隠したことを知ってる人は誰もいないのよ。あの二人の男に私達を襲わせるために、ハリエットがジーンを使って庭の門を開けさせたに違いないわ」
「だけど、あの夜君達が散歩に出たことを、どうやって彼女は知ることができたんだろう」マイケルが言った。
「多分、屋敷に忍び込んで、君を待ち伏せしてたんだろう」ジェラルドが厳しい顔で言った。
「ハリエットが君を探し当てることができたっていうことが信じられないな」マイケルが言った。「それにあの二人の男——彼女が雇ったのに違いない。だけど、何か腑に落ちないことがあるなあ」
「ここを離れようかと考えたの」ミランダが低い声で言った。
ジェラルドは心臓が捻れるようだった。ぎゅうっと。「君が行けるところはどこにもない。ハリエットのようになってしまうよ」
「そうすれば、彼女はあなた達から離れていくわ」
「君が罪滅ぼしをする必要はない」断固として言った。
「これを逆に利用することができるかも」マイケルが言った。「罠を仕掛けるんだ。スケートの時にもう少しで捕まえられたんだから」
「ミランダを危険にさらすことはできないよ」ジェラルドは従兄弟に言った。
「そんなことはさせない。ちょっと考えさせてくれ」
「一緒に考えよう。ミランダ、家にいるようにして、一人でどこかに出かけるんじゃないよ。マイケルが召使いの中に混じって、君のことを見張ってるからね」
マイケルは気取った笑みを浮かべた。「言っただろ、僕がいると便利だって」
ジェラルドはムッとした顔をした。「見破られなければね」
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