【独身淑女のクリスマス】 第15章
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夕食のために着替える時間を知らせるベルは既に鳴ったが、ウィンウッド夫人ことローラは何か気になることがあったのか、自分の寝室を通り過ぎて、屋敷の旧館につながる階段を昇って行った。子供の頃からよく知っている、階段から通路、そしてまた階段へと、常に登っていく曲がりくねったルートを辿った。最後の細い階段の上で、ドアを開けるのに苦労したが、肩で押したらやっと開き、ウィントレルホールの屋根の上に出た。
ずっと下にある大きな玄関広間まで光が差すようにスリットガラスが入ったレンガの丸屋根には、側面に二つの小塔があり、そのうち一つにドアが付いていて、ローラはそこから外に出たのだった。これほど高いと風がとても強かったが、毛皮の襟がついたマントを着ていたし、新鮮な冷たい空気のおかげで目が覚め、生き生きとした気分になった。
レンガの欄干が丸屋根を取り囲んでいて、ローラはその隙間を通り抜け、周りを歩いて田舎の景色を見ようとした。今朝、子供達が雪合戦をした前庭の芝生の雪に残った足跡が見えた。遠くでは、雪がかかった木々がきらめき、枝から氷が落ちていた。さらに遠くの方では、四角い形の放牧地が低木で区切られ、川は黒みがかった線のように見えていた。
ローラは空想にふけった。寒さが頬を刺すようだったが、景色があまりに美しいので戻るのが惜しまれ、それにこの心地よい平和、ずっとそこに浸っていたいほどだった。
だがその時、ドアが開く音がして振り向くと、ミランダが屋根の上に出てきた。
その目は——何ということか、その目は死んでいるようだった。
ミランダは戻ろうとしたが、ローラはその手を掴んだ。「いらっしゃい。一緒に景色を楽しみましょう」
ミランダがしばらくためらっていたので、ローラは彼女が自分の提案に合意するかどうかが分からなかった。しかし、ゆっくりと欄干の隙間を通り抜けてきて、ローラの隣に立った。
「お邪魔する気はなかったんです」ミランダは言った。
「そんなことはないわよ」
「一回目のベルはもう鳴りましたから」
「そうね、知ってるわ、だけど……」ローラは深呼吸した。「みんなあなたのせいね」
「私ですか?」緑色の目は、ローズオレンジ色の光の中でくり色に見えた。
「あなたはとても落ち着いてるわ、ミランダ、それに比べて私……私はジェラルドみたいに、いつも何かしようと思ってる。だからここにきたの、平和を求めて、主を求めてね」
ミランダは目をそらせた。
「あなたがここにいるのもそのため?」ローラが尋ねた。
ミランダは口を開き、話す言葉を探していた。「分かりません」やっと答えた。口は動くようだ。ミランダは、皮膚の下に滑り込んできた感情を、そこに閉じ込めておこうともがいているように見えた。
いつものローラだったら、そう質問していたかもしれないが、何者かに声を抑えられている気がした。だから、景色に浸ろうと向きを変え、黙っていた。
ローラは、ミランダがそのまま中に戻るのではないかと心配になったが、ミランダはしばらくそこに立っていた。
「ここにいると、自分が何て小さいのかが分かります」ミランダが言った。
「そうね、人間が何者だというので、これをみこころに留められるのでしょう。人の子が何者だというので、これを顧みられるのでしょう。これはヘブル人への手紙から」
ミランダは瞬きした。「それは聖書の言葉ですか?」
「もちろんそうよ。どうして驚くの?」
ミランダは眉をひそめた。まなざしは景色にとどまっていたが、景色を見ているのではないことが、ローラには分かった。「私……神様が私のことを顧みてくださるなんて、考えたこともありませんでした」
「一体何故かしら?神様はあなたを創造された。どんな親よりも、あなたのことを深く愛しておられるのよ」
ミランダの顎はこわばり、目は悲しげだった。「それは難しいことじゃありませんわ。彼らにとって、私はどうでもいい存在でしたから」
ローラは不意に思い出した。ここウィントレルホールにいた夏の日、ミランダの母が、ミランダとオーガスタに不満を言っていたことを。その理由は、ロンドンにいる間にミランダを嫁にやる男性を見つけることができなかったことだった。
「愛するミランダ」ローラはミランダの方を向いた。「他のことで私が信じられなくても、これだけは信じて。あなたは神様にとって重要な存在なの、とても。あなたをお造りになられたそのままの姿を愛してらっしゃるのよ」
ミランダは少し頭を振った。「どうして神様は私のような者を顧みてくださるんですか?」
「こちらにいらっしゃい、どうしてだか教えてあげるから」ローラはミランダに腕を回して、丸屋根の周りを歩き出した。「女主人にいじめられた奴隷がいたの。それで、奴隷は逃げ出した。だけど神様は荒野にいる彼女を見て、話しかけられたの」
ミランダの眉にシワがよったが、何も言わなかった。
ローラは続けた。「その当時の人達は、物に名前をつけるのが好きだった。だからその奴隷は神様に別の名前を付けた。あなたはエル・ロイ(ご覧になる神)って」
その頃までに、二人は丸屋根の反対側まで来た。その丸屋根は、長方形のガラスパネルの中に丸いデザインがあり、夕日がそこを通り抜けて、ほんの少し目のように見えた。ローラは立ち止まった。「ただの女奴隷だったのに、神様は彼女を顧みられたのよ、ミランダ」
ミランダはオレンジ色の光を二、三秒見ていたが、顔をそらせた。ローラはその表情を見て、悩まされた。それが絶望の表情だったから。
「私にはあなたが見えてるわよ、ミランダ」ローラは言った。「そして、神様があなたを困難から救い出す方法を必ず見つけてくださるって信じてるわ」
「そうですね」ミランダが言った。ぼんやりと。「行かなくちゃ」小塔のドアへと向かったが、突然振り向いて、ローラに強く抱きついてきた。
そしてすぐにいなくなり、ドアを通って狭い階段を降りて行った。
ローラはそこに立ったまま、心がズキズキとゆっくり痛むのを感じた。ミランダの抱擁は、まるでさようならと言っているようだったから。
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第15章
夕食のために着替える時間を知らせるベルは既に鳴ったが、ウィンウッド夫人ことローラは何か気になることがあったのか、自分の寝室を通り過ぎて、屋敷の旧館につながる階段を昇って行った。子供の頃からよく知っている、階段から通路、そしてまた階段へと、常に登っていく曲がりくねったルートを辿った。最後の細い階段の上で、ドアを開けるのに苦労したが、肩で押したらやっと開き、ウィントレルホールの屋根の上に出た。
ずっと下にある大きな玄関広間まで光が差すようにスリットガラスが入ったレンガの丸屋根には、側面に二つの小塔があり、そのうち一つにドアが付いていて、ローラはそこから外に出たのだった。これほど高いと風がとても強かったが、毛皮の襟がついたマントを着ていたし、新鮮な冷たい空気のおかげで目が覚め、生き生きとした気分になった。
レンガの欄干が丸屋根を取り囲んでいて、ローラはその隙間を通り抜け、周りを歩いて田舎の景色を見ようとした。今朝、子供達が雪合戦をした前庭の芝生の雪に残った足跡が見えた。遠くでは、雪がかかった木々がきらめき、枝から氷が落ちていた。さらに遠くの方では、四角い形の放牧地が低木で区切られ、川は黒みがかった線のように見えていた。
ローラは空想にふけった。寒さが頬を刺すようだったが、景色があまりに美しいので戻るのが惜しまれ、それにこの心地よい平和、ずっとそこに浸っていたいほどだった。
だがその時、ドアが開く音がして振り向くと、ミランダが屋根の上に出てきた。
その目は——何ということか、その目は死んでいるようだった。
ミランダは戻ろうとしたが、ローラはその手を掴んだ。「いらっしゃい。一緒に景色を楽しみましょう」
ミランダがしばらくためらっていたので、ローラは彼女が自分の提案に合意するかどうかが分からなかった。しかし、ゆっくりと欄干の隙間を通り抜けてきて、ローラの隣に立った。
「お邪魔する気はなかったんです」ミランダは言った。
「そんなことはないわよ」
「一回目のベルはもう鳴りましたから」
「そうね、知ってるわ、だけど……」ローラは深呼吸した。「みんなあなたのせいね」
「私ですか?」緑色の目は、ローズオレンジ色の光の中でくり色に見えた。
「あなたはとても落ち着いてるわ、ミランダ、それに比べて私……私はジェラルドみたいに、いつも何かしようと思ってる。だからここにきたの、平和を求めて、主を求めてね」
ミランダは目をそらせた。
「あなたがここにいるのもそのため?」ローラが尋ねた。
ミランダは口を開き、話す言葉を探していた。「分かりません」やっと答えた。口は動くようだ。ミランダは、皮膚の下に滑り込んできた感情を、そこに閉じ込めておこうともがいているように見えた。
いつものローラだったら、そう質問していたかもしれないが、何者かに声を抑えられている気がした。だから、景色に浸ろうと向きを変え、黙っていた。
ローラは、ミランダがそのまま中に戻るのではないかと心配になったが、ミランダはしばらくそこに立っていた。
「ここにいると、自分が何て小さいのかが分かります」ミランダが言った。
「そうね、人間が何者だというので、これをみこころに留められるのでしょう。人の子が何者だというので、これを顧みられるのでしょう。これはヘブル人への手紙から」
ミランダは瞬きした。「それは聖書の言葉ですか?」
「もちろんそうよ。どうして驚くの?」
ミランダは眉をひそめた。まなざしは景色にとどまっていたが、景色を見ているのではないことが、ローラには分かった。「私……神様が私のことを顧みてくださるなんて、考えたこともありませんでした」
「一体何故かしら?神様はあなたを創造された。どんな親よりも、あなたのことを深く愛しておられるのよ」
ミランダの顎はこわばり、目は悲しげだった。「それは難しいことじゃありませんわ。彼らにとって、私はどうでもいい存在でしたから」
ローラは不意に思い出した。ここウィントレルホールにいた夏の日、ミランダの母が、ミランダとオーガスタに不満を言っていたことを。その理由は、ロンドンにいる間にミランダを嫁にやる男性を見つけることができなかったことだった。
「愛するミランダ」ローラはミランダの方を向いた。「他のことで私が信じられなくても、これだけは信じて。あなたは神様にとって重要な存在なの、とても。あなたをお造りになられたそのままの姿を愛してらっしゃるのよ」
ミランダは少し頭を振った。「どうして神様は私のような者を顧みてくださるんですか?」
「こちらにいらっしゃい、どうしてだか教えてあげるから」ローラはミランダに腕を回して、丸屋根の周りを歩き出した。「女主人にいじめられた奴隷がいたの。それで、奴隷は逃げ出した。だけど神様は荒野にいる彼女を見て、話しかけられたの」
ミランダの眉にシワがよったが、何も言わなかった。
ローラは続けた。「その当時の人達は、物に名前をつけるのが好きだった。だからその奴隷は神様に別の名前を付けた。あなたはエル・ロイ(ご覧になる神)って」
その頃までに、二人は丸屋根の反対側まで来た。その丸屋根は、長方形のガラスパネルの中に丸いデザインがあり、夕日がそこを通り抜けて、ほんの少し目のように見えた。ローラは立ち止まった。「ただの女奴隷だったのに、神様は彼女を顧みられたのよ、ミランダ」
ミランダはオレンジ色の光を二、三秒見ていたが、顔をそらせた。ローラはその表情を見て、悩まされた。それが絶望の表情だったから。
「私にはあなたが見えてるわよ、ミランダ」ローラは言った。「そして、神様があなたを困難から救い出す方法を必ず見つけてくださるって信じてるわ」
「そうですね」ミランダが言った。ぼんやりと。「行かなくちゃ」小塔のドアへと向かったが、突然振り向いて、ローラに強く抱きついてきた。
そしてすぐにいなくなり、ドアを通って狭い階段を降りて行った。
ローラはそこに立ったまま、心がズキズキとゆっくり痛むのを感じた。ミランダの抱擁は、まるでさようならと言っているようだったから。
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