【ひとり寿司】第16章
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エイデンは身体中が痛かったが、なぜか気分はとても良かった。
ジルとのペッパー練習(対人レシーブ)。力強く、いいフォームで動けている気がした。この夜は、もっと自信を持ってレシーブ、セット、アタックができた。土曜日にスタンフォードのバレーボールキャンプにも通っているし、今夜はこれまで以上に日系リーグを心待ちにしていた。
「レックスは?」彼女のことだからとしても、ちょっと遅い。
ジルはボールをレシーブしないで取った。「電話があったわ。残業だそうよ。今日は来ない」
ほんの一秒前と比べて、腕は力強く感じなかった。その場で少しジョギングしてみたが、エネルギーは戻ってこなかった。
(レックスは単なる仲間の一人。そんなに気にするのはやめよう——)
実際、気にしていなかった。全くと言っていいほど。彼女のことはほとんど知らなかった。コートの中にいたりいなかったりする、ただの可愛い女の子だ。それだけ。エイデンは、可愛い女の子に目を留めただけだった。
(こんばん遅くに来るかなあ?)
アタックラインではとても調子が良かった。彼のアタックはもっと正確で、手とボールの間のコンタクトもずっとよく、回復基調を超えるほどいいコントロールだ。それに気づいている人は、他に誰もいなかった。
(レックスだったら気がついたのにな)
そうだ、しかしレックスだったら、打ち損なったアタックも全て気がついただろう。
(彼女のことを考えるのをやめるんだ。名前も思い浮かべてはダメだ)
試合が始まった。エイデンは、最初のパスをそらせた。
エイデンは常に冷静だった——他の選手のように罵声を浴びせることもしない——しかし、自分の顔が、欠けた大理石のように硬くなっているように感じた。
できるはずだ。
「ああ見て、レックスよ」キャロルは、まだ仕事着で、ハイヒールの音を立ててコートの後ろを歩く姿を指さした。
「みんな元気?」レックスは手を振って、観客席に腰を下ろした。
「出ないの?」ジルは睨んでいる審判を無視して、彼女の方を向いた。
「うん、出ない」落胆の表情の中で、口が歪んだ。「うちに服と靴を置いてきちゃった。帰ってたら時間がなくなるわ」
「早く!」審判が、しびれを切らして笛を吹いた。
(そうだよ、早くしよう、みんな)エイデンはキャロルから離れ、ポジションに戻った。一体いつからこんなに負けず嫌いになったのか? レックスの影響に違いない。
その時、エイデンの目に彼らが映った——白人男性二人、リーグでは見ない顔だ。彼らは試合を見ずに、二人だけで立っていた。
レックスを見ながら。
笛が鳴った。エイデンは試合に集中力を戻そうとしたが、それて自分の方に流れてきたパスをもう少しで受け損なった。
「エイデン、取って!」
彼のトスはネットに近すぎて、相手チームのブロッカーはボールを叩き返した。
二人の白人男性のうち一人が、レックスの方を身振りで示した。もう一人がうなずいている。
レックスは彼らに気がついていた。怒っているような、用心深い顔つきのために、表情が暗い。歩いていってパンチを浴びせようか、それとも精神科に電話をして拘束衣を持って来させようか、決心がつかないようだ。
妙なことに、二人の男性はストーカーには見えなかった。アスリートのような体格をしていた。ビジネスカジュアルの服装でなければ、バレーボール選手の中に紛れていただろう。
「エイデン、あなたよ!」
(試合に戻れ!)サーブを受けようと腕を突き出したものの、ネットの近くに行きすぎた。ジルは飛び上がって、叩き上げようとしたが、ネットに引っかかって、落ちた。
二人の男性は出口に向かって歩いていった。筋肉が緩むまで、エイデンは、自分の肩が緊張していることに気がつかなかった。
笛が鳴った。サーブ。後衛がいいパスを送った。キャロルが彼の方に曲線を描くようなトス。エイデンは跳んだ——
エイデンは、ブロックに入ると思われる相手チームのその男を知っていた。長身で、腕が長い。彼を通り越してボールを叩きつけられるとは期待していなかった。
エイデンは腕をスイングしたが、手首を曲げたので、ボールはブロッカーの指の上で転がった。勢いよく回転するボールは、コート中央に素早く落ちた。ウィングの女子二人がそれを取ろうと両側から飛び込んだ。
得点、サイドアウト。
「ナイスショット」ネットの下で、ブロッカーとエイデンは手を叩いた。
「サンキュー」
向こうのサーブ。相手チームは、同じ選手にトスを回した。彼のボールをねじ込めることは期待できなかったが、エイデンはキャンプで覚えたブロックをやってみた。(コートで自分の場所を守ればいいだけ)
(バン!)ボールは手をかすめ、高く弧を描き、パスが楽になった。ジルは、またエイデンにボールを回した。目の端に、前衛二番目の選手が、少し遅れてダブルブロックに入ったのが見えた。エイデンが急角度で叩いたボールはサイドラインに落ちた。
副審がポールの脇に立っていた。「ナイスカット」
「どうも」
レックスの叫び声が聞こえた。エイデンが振り向くと、彼女は手を叩きながら、彼に笑いかけていた。
彼に笑いかけていたのだ。
エネルギーが溢れてきて、足がピクピク動いた。天井より高く跳べそうだ。いいゾーン、いい調子、エイデンは燃えていた。
次のサーブ——相手チームはボールをそらし、それを戻さなくてはならなかった。キャロルがトス、ボールは高く弧を描いた——
エイデンは好機を捉えた——ブロッカーはラインショットをオープンにしている。ボールを叩いた。
(バーン!)相手チームの女子が地面に倒れた。
心臓が止まった。不安が胸の中で渦を巻いている。息が詰まり、荒い息を吸い込んだ。(自分は何をしてしまったのか?)
ネットの下をくぐって、彼女の方に走った。「ごめん」
彼女はぼんやりと天井を見ていたが、ひどい怪我のようには見えなかった。
ただ、彼女の鼻の上と左目の上に、「タチカラ」(ボールのブランド名)の字がくっきり描かれていた。
**********
「心配するな、っていうのが無理だろ?」エイデンは、折り畳まれた観客席に頭の後ろをぶつけた。
レックスは席を調整して、足を伸ばした。ハイヒールで仕事に行くのは嫌だった——短い時間でも、ふくらはぎとハムストリング筋が痛くなる。「選手だったらこういうこともある、って分かってると思うよ」
「試合を抜けた方が良かったよ」ジェスチャーをしている方の腕が、レックスにかすった。木のブリーチャー席(観覧席)で、彼女は横にずれた。
「ダメ、抜けるのは臆病よ。試合に出たら、最後までやるの。そうやって自分の足を引っ張るべきじゃないわ」
「僕のボールが当たったあの子は試合を抜けた——」
「キャミー? あの子は磁石みたいにボールを吸いつけるの。ウォームアップ中にコートの後ろを歩いてるだけで、ボールを当てられるんだから」
「だって、僕は彼女のど真ん中——」
「あなたはボールを正しい方向に打った。ブロッカーがそうさせてくれたのよ。ボールが飛ぶべき場所は、まさにそこだったの。キャミーはもっと下がって、レシーブするべきだった」
エイデンは、不機嫌に次の試合を見ていた。「残りの二試合も座ってようかな」
「もう、何言ってるの」
レックスの不愉快な声の調子を彼は楽しんでいるようだった。この臆病者を立ち直らせることだったら何でも言う。ヒッターが角ギリギリにショットして、相手チームの後衛センターがボールに飛び込むのを見ながら、レックスは手を叩いた。「あなた、最近良くなったわよ」
無表情なエイデンの顔が少し温かみを帯びた。かすかな笑顔が見えた、と断言してもいい。「そう?」
「うん」
「ここ何週間か、スタンフォードのバレーボールキャンプに行ってるんだ」
「そうなんだ! あれはすごく役に立つわよ。何てったって——」
「ヘイ、レックス」
キンムンが目の前に現れた。全然気がつかなかった。「ハーイ」
彼はいつもの笑顔を見せた。温かいホットチョコレートを飲んで、お腹の中が温かくなるような笑顔だ。「新しい仕事、始めたんだって?」
彼女はうなずいた。「SPZの同窓会リエゾン」
「すごいじゃん。どう? 楽しい?」
「最高よ。大学のスポーツチームのことを調べて、その同窓会の代表と話すだけでお給料がもらえるんだから」
キンムンは笑った。「天国だね。いとこが昔、同窓会の代表をやってたことがある。スポーツですごいお金儲けしてたよ」
変に躊躇気味な彼の言葉が少し引っかかった。彼女はそれを振り落とした。「そうね、SPZのウェブサイトで自分の学校のスポーツの宣伝をしたいみたいよ」
「UW(ワシントン大学)とは話した?」
「ああ、来週電話をかけることになってる。どうして?」
「別に」キンムンはまだ終わっていない試合の方に目を移した。「来週末、シアトルに行くんだ。できればフットボールの試合を見に行きたいんだけど、チケットが手に入るかどうか分からないんだ」
レックスは、チケットを取ってあげることができるだろうかと考えた。電話で話しているときに、フリーチケットをくれると言うAA(同窓会担当者)はいるが、いつもそうなるとは限らない。それに、ワシントン大学の同窓会と話すのは来週が初めてだ。
「まあ」キンムンが笑って彼女を見下ろすと、ホットチョコレート入りのカップがまた温かくなった。「仕事がうまく行っててよかったよ。今日はみんなと食べに行く?」
「うん。チリーズへ行くのよ」
「やった、僕の席、取っといてよ」
「もちろん」
キンムンは、ぶらぶらと歩いていった。
「彼はいい友達なの?」
レックスは、エイデンが隣に座っているのをすっかり忘れていた。「うん、昔からのね」
ただ、今日のキンムンは、まるでレックスに興味があるような様子だった。変だ、違う、心が弾んでいる。それも違うな、変だけど心が弾むようだ。
レックスはそのチケットを手に入れることができるだろうか。
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第16章
エイデンは身体中が痛かったが、なぜか気分はとても良かった。
ジルとのペッパー練習(対人レシーブ)。力強く、いいフォームで動けている気がした。この夜は、もっと自信を持ってレシーブ、セット、アタックができた。土曜日にスタンフォードのバレーボールキャンプにも通っているし、今夜はこれまで以上に日系リーグを心待ちにしていた。
「レックスは?」彼女のことだからとしても、ちょっと遅い。
ジルはボールをレシーブしないで取った。「電話があったわ。残業だそうよ。今日は来ない」
ほんの一秒前と比べて、腕は力強く感じなかった。その場で少しジョギングしてみたが、エネルギーは戻ってこなかった。
(レックスは単なる仲間の一人。そんなに気にするのはやめよう——)
実際、気にしていなかった。全くと言っていいほど。彼女のことはほとんど知らなかった。コートの中にいたりいなかったりする、ただの可愛い女の子だ。それだけ。エイデンは、可愛い女の子に目を留めただけだった。
(こんばん遅くに来るかなあ?)
アタックラインではとても調子が良かった。彼のアタックはもっと正確で、手とボールの間のコンタクトもずっとよく、回復基調を超えるほどいいコントロールだ。それに気づいている人は、他に誰もいなかった。
(レックスだったら気がついたのにな)
そうだ、しかしレックスだったら、打ち損なったアタックも全て気がついただろう。
(彼女のことを考えるのをやめるんだ。名前も思い浮かべてはダメだ)
試合が始まった。エイデンは、最初のパスをそらせた。
エイデンは常に冷静だった——他の選手のように罵声を浴びせることもしない——しかし、自分の顔が、欠けた大理石のように硬くなっているように感じた。
できるはずだ。
「ああ見て、レックスよ」キャロルは、まだ仕事着で、ハイヒールの音を立ててコートの後ろを歩く姿を指さした。
「みんな元気?」レックスは手を振って、観客席に腰を下ろした。
「出ないの?」ジルは睨んでいる審判を無視して、彼女の方を向いた。
「うん、出ない」落胆の表情の中で、口が歪んだ。「うちに服と靴を置いてきちゃった。帰ってたら時間がなくなるわ」
「早く!」審判が、しびれを切らして笛を吹いた。
(そうだよ、早くしよう、みんな)エイデンはキャロルから離れ、ポジションに戻った。一体いつからこんなに負けず嫌いになったのか? レックスの影響に違いない。
その時、エイデンの目に彼らが映った——白人男性二人、リーグでは見ない顔だ。彼らは試合を見ずに、二人だけで立っていた。
レックスを見ながら。
笛が鳴った。エイデンは試合に集中力を戻そうとしたが、それて自分の方に流れてきたパスをもう少しで受け損なった。
「エイデン、取って!」
彼のトスはネットに近すぎて、相手チームのブロッカーはボールを叩き返した。
二人の白人男性のうち一人が、レックスの方を身振りで示した。もう一人がうなずいている。
レックスは彼らに気がついていた。怒っているような、用心深い顔つきのために、表情が暗い。歩いていってパンチを浴びせようか、それとも精神科に電話をして拘束衣を持って来させようか、決心がつかないようだ。
妙なことに、二人の男性はストーカーには見えなかった。アスリートのような体格をしていた。ビジネスカジュアルの服装でなければ、バレーボール選手の中に紛れていただろう。
「エイデン、あなたよ!」
(試合に戻れ!)サーブを受けようと腕を突き出したものの、ネットの近くに行きすぎた。ジルは飛び上がって、叩き上げようとしたが、ネットに引っかかって、落ちた。
二人の男性は出口に向かって歩いていった。筋肉が緩むまで、エイデンは、自分の肩が緊張していることに気がつかなかった。
笛が鳴った。サーブ。後衛がいいパスを送った。キャロルが彼の方に曲線を描くようなトス。エイデンは跳んだ——
エイデンは、ブロックに入ると思われる相手チームのその男を知っていた。長身で、腕が長い。彼を通り越してボールを叩きつけられるとは期待していなかった。
エイデンは腕をスイングしたが、手首を曲げたので、ボールはブロッカーの指の上で転がった。勢いよく回転するボールは、コート中央に素早く落ちた。ウィングの女子二人がそれを取ろうと両側から飛び込んだ。
得点、サイドアウト。
「ナイスショット」ネットの下で、ブロッカーとエイデンは手を叩いた。
「サンキュー」
向こうのサーブ。相手チームは、同じ選手にトスを回した。彼のボールをねじ込めることは期待できなかったが、エイデンはキャンプで覚えたブロックをやってみた。(コートで自分の場所を守ればいいだけ)
(バン!)ボールは手をかすめ、高く弧を描き、パスが楽になった。ジルは、またエイデンにボールを回した。目の端に、前衛二番目の選手が、少し遅れてダブルブロックに入ったのが見えた。エイデンが急角度で叩いたボールはサイドラインに落ちた。
副審がポールの脇に立っていた。「ナイスカット」
「どうも」
レックスの叫び声が聞こえた。エイデンが振り向くと、彼女は手を叩きながら、彼に笑いかけていた。
彼に笑いかけていたのだ。
エネルギーが溢れてきて、足がピクピク動いた。天井より高く跳べそうだ。いいゾーン、いい調子、エイデンは燃えていた。
次のサーブ——相手チームはボールをそらし、それを戻さなくてはならなかった。キャロルがトス、ボールは高く弧を描いた——
エイデンは好機を捉えた——ブロッカーはラインショットをオープンにしている。ボールを叩いた。
(バーン!)相手チームの女子が地面に倒れた。
心臓が止まった。不安が胸の中で渦を巻いている。息が詰まり、荒い息を吸い込んだ。(自分は何をしてしまったのか?)
ネットの下をくぐって、彼女の方に走った。「ごめん」
彼女はぼんやりと天井を見ていたが、ひどい怪我のようには見えなかった。
ただ、彼女の鼻の上と左目の上に、「タチカラ」(ボールのブランド名)の字がくっきり描かれていた。
「心配するな、っていうのが無理だろ?」エイデンは、折り畳まれた観客席に頭の後ろをぶつけた。
レックスは席を調整して、足を伸ばした。ハイヒールで仕事に行くのは嫌だった——短い時間でも、ふくらはぎとハムストリング筋が痛くなる。「選手だったらこういうこともある、って分かってると思うよ」
「試合を抜けた方が良かったよ」ジェスチャーをしている方の腕が、レックスにかすった。木のブリーチャー席(観覧席)で、彼女は横にずれた。
「ダメ、抜けるのは臆病よ。試合に出たら、最後までやるの。そうやって自分の足を引っ張るべきじゃないわ」
「僕のボールが当たったあの子は試合を抜けた——」
「キャミー? あの子は磁石みたいにボールを吸いつけるの。ウォームアップ中にコートの後ろを歩いてるだけで、ボールを当てられるんだから」
「だって、僕は彼女のど真ん中——」
「あなたはボールを正しい方向に打った。ブロッカーがそうさせてくれたのよ。ボールが飛ぶべき場所は、まさにそこだったの。キャミーはもっと下がって、レシーブするべきだった」
エイデンは、不機嫌に次の試合を見ていた。「残りの二試合も座ってようかな」
「もう、何言ってるの」
レックスの不愉快な声の調子を彼は楽しんでいるようだった。この臆病者を立ち直らせることだったら何でも言う。ヒッターが角ギリギリにショットして、相手チームの後衛センターがボールに飛び込むのを見ながら、レックスは手を叩いた。「あなた、最近良くなったわよ」
無表情なエイデンの顔が少し温かみを帯びた。かすかな笑顔が見えた、と断言してもいい。「そう?」
「うん」
「ここ何週間か、スタンフォードのバレーボールキャンプに行ってるんだ」
「そうなんだ! あれはすごく役に立つわよ。何てったって——」
「ヘイ、レックス」
キンムンが目の前に現れた。全然気がつかなかった。「ハーイ」
彼はいつもの笑顔を見せた。温かいホットチョコレートを飲んで、お腹の中が温かくなるような笑顔だ。「新しい仕事、始めたんだって?」
彼女はうなずいた。「SPZの同窓会リエゾン」
「すごいじゃん。どう? 楽しい?」
「最高よ。大学のスポーツチームのことを調べて、その同窓会の代表と話すだけでお給料がもらえるんだから」
キンムンは笑った。「天国だね。いとこが昔、同窓会の代表をやってたことがある。スポーツですごいお金儲けしてたよ」
変に躊躇気味な彼の言葉が少し引っかかった。彼女はそれを振り落とした。「そうね、SPZのウェブサイトで自分の学校のスポーツの宣伝をしたいみたいよ」
「UW(ワシントン大学)とは話した?」
「ああ、来週電話をかけることになってる。どうして?」
「別に」キンムンはまだ終わっていない試合の方に目を移した。「来週末、シアトルに行くんだ。できればフットボールの試合を見に行きたいんだけど、チケットが手に入るかどうか分からないんだ」
レックスは、チケットを取ってあげることができるだろうかと考えた。電話で話しているときに、フリーチケットをくれると言うAA(同窓会担当者)はいるが、いつもそうなるとは限らない。それに、ワシントン大学の同窓会と話すのは来週が初めてだ。
「まあ」キンムンが笑って彼女を見下ろすと、ホットチョコレート入りのカップがまた温かくなった。「仕事がうまく行っててよかったよ。今日はみんなと食べに行く?」
「うん。チリーズへ行くのよ」
「やった、僕の席、取っといてよ」
「もちろん」
キンムンは、ぶらぶらと歩いていった。
「彼はいい友達なの?」
レックスは、エイデンが隣に座っているのをすっかり忘れていた。「うん、昔からのね」
ただ、今日のキンムンは、まるでレックスに興味があるような様子だった。変だ、違う、心が弾んでいる。それも違うな、変だけど心が弾むようだ。
レックスはそのチケットを手に入れることができるだろうか。
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