【独身淑女のクリスマス】 第17章
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十二月三十一日
子供達はひどい状態だった。ミランダ、ミス・ティール、そしてベルモア家のその他のナーサリーメイド達は、彼らを落ち着かせるために今にも足元でぐるぐる縛り付け始めそうなほど、忍耐の限界に来ていた。
だから、ミランダは下の装飾庭園でかくれんぼをしようと提案した。ミス・ティールはそれに反論しなかったが、他のナーサリーメイド達は、子供達を外へ連れ出す前に着込ませないといけない手間を考えて、反対した。しかし、子供達はミランダの案に乗り気だった。庭は壁で囲まれているので、監督する必要はほとんどなく、子供達は自分達で遊ぶことができるというミランダの意見に、メイド達はやっと納得した。
ウィントレルホールにある上と下の装飾庭園は、壁に囲まれた大きな庭園だった。下の庭園の端に位置する門から出入りするようになっていて、上の庭園の方が小さく、二つの庭園を隔てた壁にある石のアーチを通って行き来するようになっていた。
下の庭園には子供達が隠れる場所が多く、ミス・ティールと二人のナーサリーメイドが門のところに立って、子供達が見えないところへ行かないよう見ていた。ミランダは、曲がりくねった小道を通ってアーチ道まで歩いた。
一年のこの時期、上の庭園は殺風景で、葉が落ちた木々が雪に覆われ、小石が敷かれた歩道にはやせ細った藪が並んでいるだけだった。まるでミランダの憂鬱な気分と同じ——彼女は壁に沿う凍った石のベンチに腰掛け、ただ空間を見つめていた。春には花々が我先にと咲くのだが、今日は横たわり眠っている。
高い石の壁を超え、また開いたアーチ道を通り抜け、子供達の甲高い声と笑い声が漂ってきて、氷に覆われた石の上で妙にこだましていた。鋭い空気が鼻と肺に噛み付いてくるようだったが、その痛みが何故か心地よかった。
二十年前に取った自暴自棄の行為——ついにその報いを受ける時がきた。責められるのは自分以外の何者でもない。
ミランダは心から恐怖を感じていた。
「ああ、神様」彼女の唇から漏れたその叫び——その柔らかい響きは湿った雪のようだった。ローラおばさんは主の存在を確信しているが、ミランダは庭でたった一人。今までの人生の中で、主が近くにいると感じたことは一度もなく、今もそれは変わらなかった。全能の神とそのような交わりを持つよう招かれるのは、多分ローラおばさんのような人だけなんだろう。
ジェラルドの母のミランダに対する気持ちが変わったように見える今、ハリエットを食い止めることができなくては、それも無意味だ。ああ、ミランダは何ていつもタイミングが悪いんだろう。
その時、やさしくリズミカルな音が聞こてきた。男性のブーツと松葉杖が小石の歩道をザクザク踏む音がだんだん近づいてくる。
理由のない恐れと喜びで、心臓がドキドキした。音が近づくにつれ、だんだん緊張してきた。
ジェラルドはアーチ道を抜けて、上の庭園に入ってきた。彼の眼差しが彼女を捉えると、彼女は庭の隅に置かれている、苔で覆われた大理石の像のように動けなくなった。
彼女を見たときにジェラルドの目に灯った炎は、ミランダが決して予想していないものだった。
「ミランダ」いかりをおろした船のように、彼の声がミランダをつなぎとめた。
ジェラルドは注意深く小石の歩道を歩いて来て、ミランダの前で立ち止まった。ミランダがそれを許すべきではないほど近くで。彼女の方から彼に近づくべきだったと気付いた時は遅かった。後ろにはベンチと壁があり、まるでジェラルドに包囲されたようになった。
「子供達から隠れてるの?」ジェラルドが尋ねた。
「まあね」
少し近すぎるようだが、彼はミランダの隣に座った。確かに、彼の側には十分な余裕があった。彼の肩がミランダの肩をかすめ、ブーツは彼女のマントにもつれた。
ジェラルドには、恐らく従兄弟のコールトン–ジョーンズ大尉と練った計画があったはずだ。それは、みんなを危険にさらすことになる計画かもしれない。あるいは考えを変えて、ミランダを助けないこともできるだろう。正気に戻って、ミランダはその価値よりも、問題の方が大きいことに気付くかもしれない。
「ミランダ」前の方をじっと見ながら言った。「さっきから巨大な糞みたいに見える藪をずっと見つめてることに気が付いてる?」
ミランダは息を詰まらせ、そして笑った。声を上げた調子にお腹が引き締まった。「ジェラルドったら!」
「あんまり深刻そうな顔をしてるから、ちょっと気分を和らげてあげようと思ったんだよ」問題の藪の方に向かって手を振った。「しかし本当に糞のように見える。セシールの庭師は実にユーモアのセンスがあるなあ」
ミランダはしゃっくりをしてから鼻を鳴らし、そしてまたしゃっくりをした。
「息が詰まってるんじゃないよね?」横目でミランダを見た。
「息ができなくなったら、あなたのせいよ」
「少なくとも、怯えているようには見えなくなった」
「まだ怯えてるわ、ジェラルド」
「君が恐いと思うものなんて何もないよ。だから、今日はとても危険な提案があるんだ」
彼の言葉は真剣だったが、軽い調子の言い方だったので、ミランダは混乱した。「何なの?」
ジェラルドは彼女の方を向き、その手を取った。手袋を通り抜けて、彼の温かみが感じられた。
「ミランダ、僕と結婚してください」
その質問よりも、ジェラルドの目の表情のためにミランダは身震いした。その目は琥珀色の炎のように輝いていて、彼女はそれに引きつけられる蛾のようだった。
ミランダはこの瞬間を、この問いかけを夢見ることを決して自分に許さないことにしてきた。こんなことを夢見れば、人生はさらに佗しくなるだろう。そしてジェラルドにプロポーズされている今、二人は凍った石のベンチに座っていて、ミランダは何を考えていいのか、何を感じればいいのか、分からなかった。
何故ジェラルドはこんなことを言うのだろう?真剣ではないに違いない。ただ思いやりがあるだけで、すぐに自分の軽率な言葉を後悔するだろう。
ミランダは息を呑み込み、目を閉じて、愛情が見える彼の表情を閉め出した。目を開けた時、落ち着きが彼女を覆うように滑り込んできた。「ジェラルド、どうしてあなたと結婚するべきなの?」
「君を守るためにできることは何でもする。決して一人にはしない」
自分はいつも一人だった、一人でいるように思えた。両親は自分のことが好きではなかったと思う。婚期にロンドンで会った人達とも合わなかった。
ジェラルドが自分の言葉に誠実であることは分かっている。決して彼女を一人にしないだろう。一瞬、それをつかみたい、自分のものにしたいと思った。そうすればハリエットから、そしてセシールとフェリシティから自由になれる。
しかし、自分の人生に対する新たな脅威のために、ミランダは後ずさりした。いや、ジェラルドと結婚すれば、彼を同じ脅威にさらすことになる。彼女は下を向き、皮膚は大理石のように冷たく感じ、目は伏し目がちになった。「危険だし、無謀だわ、ジェラルド」
「構わないよ」
「そんな理由じゃあなたと結婚できないわ」これは恐ろしい夢だ。そうに違いない。とても長い間彼を愛していたのに、決して叶うと思っていなかったこの瞬間になると、ミランダは彼を拒否していた。彼を愛しているからという理由で。こんな厄介者を彼の人生に持ち込むことはできない。だから、ミランダは彼に嘘をついた。「愛のない結婚はできないわ」
こうすれば彼を黙らせることができると思った。彼はミランダのことを、馬鹿でロマンチックな女の子だと思うだろう。だが、予想もしていなかった言葉が彼の口から転がり出た。
「ミランダ、僕は君に恋してるんだよ」
ミランダは彼を見、心の中が真っ白になった。彼の目、そのきれいな目は、しっかりミランダに向けられている。彼に真実を言いたかった。彼の笑顔を見、笑い声を聞き、彼の腕の中で喜びを見出したかった。
その一歩を踏み出すことがこれほど難しいとは。彼のような男性は、ミランダのような女性を好きにならない。彼の感情ははかないもので、いつかその狂った夢から覚めるということを彼に理解させなくては。ミランダは、悲しみと不信感を込めて短く笑った。「たったの一週間で?」
彼が傷ついた表情で尻込みしたので、ミランダは笑って言ったことを後悔した。
「君が僕の気持ちを違ってるということはできないよ」ジェラルドは言った。
ミランダは歯を食いしばった。「こんなに不利な取引をあなたにさせることはできないわ」
ジェラルドも歯を食いしばった。このように頑固な彼を見たことはあったが、それが自分に向けられたことはなかった。「君に恋することがどうして不利な取引なの?」
恋……ジェラルドはこの言葉を繰り返す。まるで本当にそう思っているように。そんなはずはない。彼を説得しなくては。あるいはもしかしたら……ミランダは自分を説得しようとしていた。
深呼吸してから、まっすぐ彼に向き合った。「私はあなたを愛してないからよ、ジェラルド」
そう言いながら手が震えたので、ミランダは彼に握られていた手を引っ込め、指の骨が鳴るほど強く握った。彼女はこのような平静心の仮面、いや仮面ではなく盾を、生涯かけてマスターしていた。それは自分でも認める。そして今、ミランダはジェラルドを遮断していた。
彼は信じられないという様子だったが、凝視するミランダを前にして疑念が湧き始め、内なる強さに追い詰められた彼女の苦痛が見えてきた。ミランダもそれが分かっていた。両親に何か傷つくことを言われた時や、フェリシティにきつい言葉を言われた時に、よく感じたことだったから。
そして、同じことをジェラルドにしてしまった。
「あの……ごめんなさい。率直すぎたわね」
ジェラルドは答えなかったが、その目が答えていた——彼女の言っていることを信じたくなかった。彼女が彼と同じように感じていないとしても、自分がこんな気持ちになるとは信じられなかった。
本当は、彼女も同じように感じていた。彼を愛していた。しかしミランダは、庭に自分で壁を作り上げ、その鍵を握っていた。そして彼女も弱く、門の鍵を開けて外に踏み出すことができなかった。
傷つきやすい自分でもいい、そして人を信頼してもいいということを信じたかった。しかしあまりに長い間こうやって生きてきたので、一歩を踏み出すのが恐かった。多分、彼女の中で壊れすぎた部分があったからだろう。
ミランダは立ち上がった。いつもと変わりなく、何も感じていないように見せかけたかった——しかし不安そうに下唇を噛み、彼と目を合わせることができなかった。
ジェラルドは松葉杖を取り、感覚を失ったような表情で彼女の前に立った。
ミランダは自分の足元を見つめた。「ごめんなさい、ジェラルド。あなたにプロポーズされるっていう光栄には感謝するけど、あなたと結婚することはできません」
子供達の方へ急いで戻ろうと、向きを変えた。
背中で彼が怒鳴る声が聞こえた気がした。「感謝なんて要らないよ!」
そして彼の手がミランダの肘を掴んだ。強く掴んだのではなく、彼女を引き止めるために十分なほどしっかりと。ミランダは、離して欲しいと頼むために振り返った。
ジェラルドは松葉杖を地面に落として、腕を彼女に回して引っ張り、自分の体にしっかりとくっつけた。彼は彼女にキスをした。唇をしっかりと感じるほど。
そしてミランダは腕を彼の首に回し、彼の頭を下に引っ張った。耳の血液の循環が早くなり、彼女は自分の気持ちのできる限りを込めて、彼にキスした。
彼の舌が彼女の唇に触れ、彼女は唇を開いた。彼の手は彼女の腰にしっかりと巻かれ、彼女は自分の体を彼に押し付けた。
なんと美しい光景。一瞬、上の庭園の花は満開になった。
彼は息を切らして彼女を離した。その目は琥珀色の炎のようで、ミランダはその中に見えた愛情のために、泣きたくなるほどだった。
ミランダの息は軽い息切れになったが、やさしく彼を押して、自分に巻かれた腕を緩めた時、まだ息を吸うことができなかった。
「ミランダ、僕に嘘をついたね」ジェラルドの顔は、激しい喜びで輝いていた。「僕のことを愛してるんだね」
「嘘をついたんじゃないわ」ミランダは彼を押し、数フィート後ずさった。
ジェラルドは足を一歩、彼女の方へ引きずった。「そうやって自分を騙すことはできないよ。僕はそう感じたんだから」
ミランダは彼に背を向けた。ジェラルドはミランダの愛情を感じたと言う。
「ミランダ、君は僕と結婚しなくちゃいけない」
「あなたとは結婚したくない」彼を愛しているから、彼を傷つけるために一番辛い方法も分かっていた。「私を守ることができるって言うけど、体の不自由な人がそんなことできないって、分かってるでしょ」
後ろからは何も聞こえなかった。振り返って彼の顔を見ることができなかったので、振り返らずに急いで庭を出て行った。下の庭園へつながるアーチを通り抜けたとき、よく手入れされた藪の影に少年が隠れているのを見つけた。確かに、巨大な糞のように見える。
「ポール、見つけた!」ミランダはポールのところへ走り、嫌というまでくすぐろうとするかのように腕を広げた。
ポールは笑い声を上げながら逃げて行った。
ミランダはその後三十分ほど子供達と遊んでいたが、ジェラルドは現れなかった。お茶の時間になり、ミランダとミス・ティール、そしてナーサリーメイドが子供達を集めて屋敷まで歩き出した時、ジェラルドはまだ殺風景な上の庭園に残っていた。
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第17章
十二月三十一日
子供達はひどい状態だった。ミランダ、ミス・ティール、そしてベルモア家のその他のナーサリーメイド達は、彼らを落ち着かせるために今にも足元でぐるぐる縛り付け始めそうなほど、忍耐の限界に来ていた。
だから、ミランダは下の装飾庭園でかくれんぼをしようと提案した。ミス・ティールはそれに反論しなかったが、他のナーサリーメイド達は、子供達を外へ連れ出す前に着込ませないといけない手間を考えて、反対した。しかし、子供達はミランダの案に乗り気だった。庭は壁で囲まれているので、監督する必要はほとんどなく、子供達は自分達で遊ぶことができるというミランダの意見に、メイド達はやっと納得した。
ウィントレルホールにある上と下の装飾庭園は、壁に囲まれた大きな庭園だった。下の庭園の端に位置する門から出入りするようになっていて、上の庭園の方が小さく、二つの庭園を隔てた壁にある石のアーチを通って行き来するようになっていた。
下の庭園には子供達が隠れる場所が多く、ミス・ティールと二人のナーサリーメイドが門のところに立って、子供達が見えないところへ行かないよう見ていた。ミランダは、曲がりくねった小道を通ってアーチ道まで歩いた。
一年のこの時期、上の庭園は殺風景で、葉が落ちた木々が雪に覆われ、小石が敷かれた歩道にはやせ細った藪が並んでいるだけだった。まるでミランダの憂鬱な気分と同じ——彼女は壁に沿う凍った石のベンチに腰掛け、ただ空間を見つめていた。春には花々が我先にと咲くのだが、今日は横たわり眠っている。
高い石の壁を超え、また開いたアーチ道を通り抜け、子供達の甲高い声と笑い声が漂ってきて、氷に覆われた石の上で妙にこだましていた。鋭い空気が鼻と肺に噛み付いてくるようだったが、その痛みが何故か心地よかった。
二十年前に取った自暴自棄の行為——ついにその報いを受ける時がきた。責められるのは自分以外の何者でもない。
ミランダは心から恐怖を感じていた。
「ああ、神様」彼女の唇から漏れたその叫び——その柔らかい響きは湿った雪のようだった。ローラおばさんは主の存在を確信しているが、ミランダは庭でたった一人。今までの人生の中で、主が近くにいると感じたことは一度もなく、今もそれは変わらなかった。全能の神とそのような交わりを持つよう招かれるのは、多分ローラおばさんのような人だけなんだろう。
ジェラルドの母のミランダに対する気持ちが変わったように見える今、ハリエットを食い止めることができなくては、それも無意味だ。ああ、ミランダは何ていつもタイミングが悪いんだろう。
その時、やさしくリズミカルな音が聞こてきた。男性のブーツと松葉杖が小石の歩道をザクザク踏む音がだんだん近づいてくる。
理由のない恐れと喜びで、心臓がドキドキした。音が近づくにつれ、だんだん緊張してきた。
ジェラルドはアーチ道を抜けて、上の庭園に入ってきた。彼の眼差しが彼女を捉えると、彼女は庭の隅に置かれている、苔で覆われた大理石の像のように動けなくなった。
彼女を見たときにジェラルドの目に灯った炎は、ミランダが決して予想していないものだった。
「ミランダ」いかりをおろした船のように、彼の声がミランダをつなぎとめた。
ジェラルドは注意深く小石の歩道を歩いて来て、ミランダの前で立ち止まった。ミランダがそれを許すべきではないほど近くで。彼女の方から彼に近づくべきだったと気付いた時は遅かった。後ろにはベンチと壁があり、まるでジェラルドに包囲されたようになった。
「子供達から隠れてるの?」ジェラルドが尋ねた。
「まあね」
少し近すぎるようだが、彼はミランダの隣に座った。確かに、彼の側には十分な余裕があった。彼の肩がミランダの肩をかすめ、ブーツは彼女のマントにもつれた。
ジェラルドには、恐らく従兄弟のコールトン–ジョーンズ大尉と練った計画があったはずだ。それは、みんなを危険にさらすことになる計画かもしれない。あるいは考えを変えて、ミランダを助けないこともできるだろう。正気に戻って、ミランダはその価値よりも、問題の方が大きいことに気付くかもしれない。
「ミランダ」前の方をじっと見ながら言った。「さっきから巨大な糞みたいに見える藪をずっと見つめてることに気が付いてる?」
ミランダは息を詰まらせ、そして笑った。声を上げた調子にお腹が引き締まった。「ジェラルドったら!」
「あんまり深刻そうな顔をしてるから、ちょっと気分を和らげてあげようと思ったんだよ」問題の藪の方に向かって手を振った。「しかし本当に糞のように見える。セシールの庭師は実にユーモアのセンスがあるなあ」
ミランダはしゃっくりをしてから鼻を鳴らし、そしてまたしゃっくりをした。
「息が詰まってるんじゃないよね?」横目でミランダを見た。
「息ができなくなったら、あなたのせいよ」
「少なくとも、怯えているようには見えなくなった」
「まだ怯えてるわ、ジェラルド」
「君が恐いと思うものなんて何もないよ。だから、今日はとても危険な提案があるんだ」
彼の言葉は真剣だったが、軽い調子の言い方だったので、ミランダは混乱した。「何なの?」
ジェラルドは彼女の方を向き、その手を取った。手袋を通り抜けて、彼の温かみが感じられた。
「ミランダ、僕と結婚してください」
その質問よりも、ジェラルドの目の表情のためにミランダは身震いした。その目は琥珀色の炎のように輝いていて、彼女はそれに引きつけられる蛾のようだった。
ミランダはこの瞬間を、この問いかけを夢見ることを決して自分に許さないことにしてきた。こんなことを夢見れば、人生はさらに佗しくなるだろう。そしてジェラルドにプロポーズされている今、二人は凍った石のベンチに座っていて、ミランダは何を考えていいのか、何を感じればいいのか、分からなかった。
何故ジェラルドはこんなことを言うのだろう?真剣ではないに違いない。ただ思いやりがあるだけで、すぐに自分の軽率な言葉を後悔するだろう。
ミランダは息を呑み込み、目を閉じて、愛情が見える彼の表情を閉め出した。目を開けた時、落ち着きが彼女を覆うように滑り込んできた。「ジェラルド、どうしてあなたと結婚するべきなの?」
「君を守るためにできることは何でもする。決して一人にはしない」
自分はいつも一人だった、一人でいるように思えた。両親は自分のことが好きではなかったと思う。婚期にロンドンで会った人達とも合わなかった。
ジェラルドが自分の言葉に誠実であることは分かっている。決して彼女を一人にしないだろう。一瞬、それをつかみたい、自分のものにしたいと思った。そうすればハリエットから、そしてセシールとフェリシティから自由になれる。
しかし、自分の人生に対する新たな脅威のために、ミランダは後ずさりした。いや、ジェラルドと結婚すれば、彼を同じ脅威にさらすことになる。彼女は下を向き、皮膚は大理石のように冷たく感じ、目は伏し目がちになった。「危険だし、無謀だわ、ジェラルド」
「構わないよ」
「そんな理由じゃあなたと結婚できないわ」これは恐ろしい夢だ。そうに違いない。とても長い間彼を愛していたのに、決して叶うと思っていなかったこの瞬間になると、ミランダは彼を拒否していた。彼を愛しているからという理由で。こんな厄介者を彼の人生に持ち込むことはできない。だから、ミランダは彼に嘘をついた。「愛のない結婚はできないわ」
こうすれば彼を黙らせることができると思った。彼はミランダのことを、馬鹿でロマンチックな女の子だと思うだろう。だが、予想もしていなかった言葉が彼の口から転がり出た。
「ミランダ、僕は君に恋してるんだよ」
ミランダは彼を見、心の中が真っ白になった。彼の目、そのきれいな目は、しっかりミランダに向けられている。彼に真実を言いたかった。彼の笑顔を見、笑い声を聞き、彼の腕の中で喜びを見出したかった。
その一歩を踏み出すことがこれほど難しいとは。彼のような男性は、ミランダのような女性を好きにならない。彼の感情ははかないもので、いつかその狂った夢から覚めるということを彼に理解させなくては。ミランダは、悲しみと不信感を込めて短く笑った。「たったの一週間で?」
彼が傷ついた表情で尻込みしたので、ミランダは笑って言ったことを後悔した。
「君が僕の気持ちを違ってるということはできないよ」ジェラルドは言った。
ミランダは歯を食いしばった。「こんなに不利な取引をあなたにさせることはできないわ」
ジェラルドも歯を食いしばった。このように頑固な彼を見たことはあったが、それが自分に向けられたことはなかった。「君に恋することがどうして不利な取引なの?」
恋……ジェラルドはこの言葉を繰り返す。まるで本当にそう思っているように。そんなはずはない。彼を説得しなくては。あるいはもしかしたら……ミランダは自分を説得しようとしていた。
深呼吸してから、まっすぐ彼に向き合った。「私はあなたを愛してないからよ、ジェラルド」
そう言いながら手が震えたので、ミランダは彼に握られていた手を引っ込め、指の骨が鳴るほど強く握った。彼女はこのような平静心の仮面、いや仮面ではなく盾を、生涯かけてマスターしていた。それは自分でも認める。そして今、ミランダはジェラルドを遮断していた。
彼は信じられないという様子だったが、凝視するミランダを前にして疑念が湧き始め、内なる強さに追い詰められた彼女の苦痛が見えてきた。ミランダもそれが分かっていた。両親に何か傷つくことを言われた時や、フェリシティにきつい言葉を言われた時に、よく感じたことだったから。
そして、同じことをジェラルドにしてしまった。
「あの……ごめんなさい。率直すぎたわね」
ジェラルドは答えなかったが、その目が答えていた——彼女の言っていることを信じたくなかった。彼女が彼と同じように感じていないとしても、自分がこんな気持ちになるとは信じられなかった。
本当は、彼女も同じように感じていた。彼を愛していた。しかしミランダは、庭に自分で壁を作り上げ、その鍵を握っていた。そして彼女も弱く、門の鍵を開けて外に踏み出すことができなかった。
傷つきやすい自分でもいい、そして人を信頼してもいいということを信じたかった。しかしあまりに長い間こうやって生きてきたので、一歩を踏み出すのが恐かった。多分、彼女の中で壊れすぎた部分があったからだろう。
ミランダは立ち上がった。いつもと変わりなく、何も感じていないように見せかけたかった——しかし不安そうに下唇を噛み、彼と目を合わせることができなかった。
ジェラルドは松葉杖を取り、感覚を失ったような表情で彼女の前に立った。
ミランダは自分の足元を見つめた。「ごめんなさい、ジェラルド。あなたにプロポーズされるっていう光栄には感謝するけど、あなたと結婚することはできません」
子供達の方へ急いで戻ろうと、向きを変えた。
背中で彼が怒鳴る声が聞こえた気がした。「感謝なんて要らないよ!」
そして彼の手がミランダの肘を掴んだ。強く掴んだのではなく、彼女を引き止めるために十分なほどしっかりと。ミランダは、離して欲しいと頼むために振り返った。
ジェラルドは松葉杖を地面に落として、腕を彼女に回して引っ張り、自分の体にしっかりとくっつけた。彼は彼女にキスをした。唇をしっかりと感じるほど。
そしてミランダは腕を彼の首に回し、彼の頭を下に引っ張った。耳の血液の循環が早くなり、彼女は自分の気持ちのできる限りを込めて、彼にキスした。
彼の舌が彼女の唇に触れ、彼女は唇を開いた。彼の手は彼女の腰にしっかりと巻かれ、彼女は自分の体を彼に押し付けた。
なんと美しい光景。一瞬、上の庭園の花は満開になった。
彼は息を切らして彼女を離した。その目は琥珀色の炎のようで、ミランダはその中に見えた愛情のために、泣きたくなるほどだった。
ミランダの息は軽い息切れになったが、やさしく彼を押して、自分に巻かれた腕を緩めた時、まだ息を吸うことができなかった。
「ミランダ、僕に嘘をついたね」ジェラルドの顔は、激しい喜びで輝いていた。「僕のことを愛してるんだね」
「嘘をついたんじゃないわ」ミランダは彼を押し、数フィート後ずさった。
ジェラルドは足を一歩、彼女の方へ引きずった。「そうやって自分を騙すことはできないよ。僕はそう感じたんだから」
ミランダは彼に背を向けた。ジェラルドはミランダの愛情を感じたと言う。
「ミランダ、君は僕と結婚しなくちゃいけない」
「あなたとは結婚したくない」彼を愛しているから、彼を傷つけるために一番辛い方法も分かっていた。「私を守ることができるって言うけど、体の不自由な人がそんなことできないって、分かってるでしょ」
後ろからは何も聞こえなかった。振り返って彼の顔を見ることができなかったので、振り返らずに急いで庭を出て行った。下の庭園へつながるアーチを通り抜けたとき、よく手入れされた藪の影に少年が隠れているのを見つけた。確かに、巨大な糞のように見える。
「ポール、見つけた!」ミランダはポールのところへ走り、嫌というまでくすぐろうとするかのように腕を広げた。
ポールは笑い声を上げながら逃げて行った。
ミランダはその後三十分ほど子供達と遊んでいたが、ジェラルドは現れなかった。お茶の時間になり、ミランダとミス・ティール、そしてナーサリーメイドが子供達を集めて屋敷まで歩き出した時、ジェラルドはまだ殺風景な上の庭園に残っていた。
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