【独身淑女のクリスマス】 第6章

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第6章


ジェラルドは、笑顔に見せかけようと口を横に大きく引っ張って、ミス・チャーチプラットンにモミの枝を渡した。

「ああキャプテン・フォーモント、本当に足は痛くありませんか?」彼女は青い目が引き立つような、感傷的な表情を見せた。

「ミス・チャーチプラットン、私は本当に大丈夫です」ジェラルドは膝の痛みを無視した。

「手伝ってくださるのは助かりますが、また怪我をされると困りますわ」

 自分の動きが注目されないように、足を伸ばそうとした。今朝、森で起こった出来事による痛みは、ほとんどなくなっていた。動きが少し遅く、ハシゴに登ってシャンデリアを飾り付けることはできなかったが、緑樹を集め、家の周りに並べる女たちに届けることは十分にできた。運が悪いことに、もっと緑樹が必要だと言ってひっきりなしにジェラルドを呼ぶのはミス・チャーチプラットンだった。

「キャプテン・フォーモント、あなたに言っておかなくては」ミス・チャーチプラットンは、モミの枝の周りにリボンとツタを一本巻きながら言った。「恐ろしいほど足を引きずって家に入ってこられたのを見て、驚きましたのよ」

 あの騒ぎは思い出したくもなかった。その上、男子生徒が声を限りに叫びながら出入り口の広間で追いかけっこをし、ジブシーが森で子供達を襲うと言ってミセス・オーガスタ・ハザウェイが金切り声を出している……エリーの泣き声は、家に戻る頃にはすすり泣きに変わっていたが、騒々しいのでまた泣き出してしまった。ジェラルドはミランダと話したかったのだが、彼女の近くに行くことができないでいた。

「本当に大変でしたわね」

 ミス・チャーチプラットンがジェラルドのことで騒いでいるのには閉口したが、彼女は単純に心配しているだけなのだと、ジェラルドは自分に言い聞かせようとした。

「だって、あなたが男性方とユールログを取りに行くのではなく、緑樹を取りに行かれることが分かっていたら、私も皆さんと一緒に行きましたのに」ミス・チャーチプラットンが言った。

 彼女が今朝の緑樹グループに参加しなかったことについて、ジェラルドは密かに安堵していた。そもそも子供達に付き添う気があるはずがないと疑っていたから。

「気が狂った女からあなたを守って差し上げることができたかもしれません」と笑って大きなエクボを見せた。

 エリーが否応なしに目撃することになった身の毛のよだつ暴力を思えば、ミス・チャーチプラットンの発言は不適切であるとジェラルドは思い、彼女を冷ややかに見下した。「もう手助けは必要ないようですね、ミス・チャーチプラットン。母を手伝いにいきますので」会釈もそこそこに部屋を横切って、応接間に続く開いた戸口のすぐ上にキッシング・バウをかけようと、はしごに乗っている召使いに指示している母親の方に行った。

 ジェラルドの母は、彼の警戒心と若干の苛立ちの表情に目を留めた。「ジェラルド、そこまで怪我のことばかりを考えるのはやめてくれると嬉しいわ。気が付いてないかもしれないけど、周りが暗くなるの。思慮に欠けてるわ、あなた」

 母の非難が正当であるとは思わなかったが、ここ数ヶ月間、最悪の気分でジェラルドのことを見てきたために、母が怒りやすい気性になっていることは分かっていた。決して真新しい感情ではないのだが、実際のところ彼は自分自身に苛立っていた。早く立ち上がることができないために、一人の女を追いかけることができなかった。立ち上がれたとしても、足を引きずっていては彼女の後を追うことはできなかっただろう。

 それに、不満に加えて強い罪悪感を感じていた。女が彼に向かって枝を振り投げた時、近すぎる場所に立っていたというだけで、エリーが怪我をしたことを思うとぞっとした。

「違うわ、もっと右よ」母は召使いに言いつけ、召使いは従順にキッシング・バウをジェラルドの右側に動かした。「違うったら、反対側の右」自分の右側だと言う。「ミランダ、ちゃんと真ん中になってるかしら?」

 ミランダは、手すりに垂らしてかける長い花輪に緑樹を結びつけていたが、立ち上がって開いた戸口の前に立ち、頭を横に傾けた。「多分もう少し右……」

 ミランダはいつもより青白く見えたが、普段の冷静な彼女であるように見えた。家に戻ってから三十分後、ジェラルドがナーサリーのエリーに会おうと階段を上がっていくと、ミランダはもうそこにいて、少女をなだめてやっと寝かしつけたところだった。ミランダは、神経がすり減っているようにも、ベッドに休みに行ったようにも見えなかった。ジェラルドが戻ってから一時間ほどの母の様子とは大違いだ。ミランダは、頭を殴られた後、軽い頭痛がしただけだと言い張った。

 他のみんなと同じように、彼女は夕食のために洋服を着替えていた。濃いブルーのガウンのため、肌の色はさらに白く、髪の毛はワタリガラスの羽のように艶があるように見えた。はじめ、ミランダはとても愛らしく見えたので、ジェラルドは一瞬言葉を失った。幸い彼女はこちらを見ていなかった。そしてゲストはみな、緑樹で家の中を飾る作業を始めた。

「大丈夫なの?」ミランダに尋ねた。

「少し頭が痛いだけ」

 口と目に沿った、額を横切る線に苦痛を見ることができた。ショールの折り目で隠れている首の付け根が見たかったが、そんなことをするのは不適切だ。「医者に見てもらった?」

「いいえ、だけどメイドの一人に見てもらったわ」

「メイドの一人?セシールは君とエリーのためにモーガン先生を呼ばなかったの?」

「メイドのベティは治療がとても上手なの」その落ち着いた声が、ジェラルドの憤りを和らげた。「ベティのお母さんは地元の助産婦で、住人はモーガン先生にきてもらえない時に彼女を呼ぶのよ。正直に言って、私はモーガン先生よりベティの方が信頼できるわ。だってモーガン先生はよくワインの匂いをさせて来るのよ」

 ジェラルドは、自分の膝が悪くなってもモーガン先生を呼ばないことに決めた。そして、何があっても彼がミランダやエリーに近寄ることができないようにしなくては。「エリーはどう?」

「数時間前に目を覚ましたの。いつもより静かだったけど、大丈夫そうよ。いとこたちとジャックストローで遊び出したから、置いてきたわ」

「ああよかった」エリーの顔に血が付いているのを見た時ほど心配したことはなかった。だが、ミランダが地面に倒れているのを見た時は、心臓が止まるかと思った。

「違うわ、反対側の右よ」母は召使いに言った。

「キッシング・バウがきれいだね」そう言った途端、ジェラルドは何と無意味なことを言ってしまったのかと後悔した。少し前フェリシティは、自分が期待する速さで食堂に緑樹をかけないという理由で、ミランダに対してイライラしていたため、彼女にキッシング・バウを作る作業を与えていた。ミランダは、針金の枠を付けたヤドリギに深紅のリボンと、ねじった赤い紙で作ったバラを巻いていた。金の紙で切り取った星が、濃い緑の葉と、真珠のように白いベリーの下から顔をのぞかせていた。

「ありがとう」ミランダは言った。ミス・チャーチプラットンだったら笑って彼をからかっただろうが、ミランダは、彼の滑稽な言い方を裁くことなく、彼の言葉を受け入れた。「膝が痛いの?」答えは既に分かっていたが、落ち着いた口調で尋ねた。

「いやそうじゃなくて僕は——」

「湿布を使ったら少し痛みが和らぐと思う。後で作って、あなたの下男に渡しておくわ」

 大丈夫だから湿布は必要ないと言いたかったが、ミランダの湿布作りの腕前は食料貯蔵室では有名だった。本当に痛みが和らぐのなら、プライドに溺れて愚かな振る舞いをするべきではない。ありがとうと言うんだ、ジェラルド。「あの……ありがとう、ミランダ」

「どういたしまして」

 文句ではない。非難でもない。膝に当てるだけの湿布だ。ミランダはジェラルドをホッとさせてくれる。このように気遣ってくれる人はこれまで誰もいなかった。

 ジェラルドは母が二人を見ているのに気づいたが、その表情を解釈するのは難しかった。何か警戒してる?——ミス・チャーチプラットンがそうであったように、ミランダが彼を誘惑しようとしているのではないかという気恥ずかしくなるような嫌味をジェラルドは忘れていなかった。あるいは困惑?罪悪感も少しあるのかもしれない。いや違う、勘違いだ。母はまた目を逸らした。

「あんなに沢山の人が近くにいるのに、どうしてあの女は君を襲ったのかな?」彼は尋ねた。

「みんなから離れていたから」彼女は言った。

「エリーが君を見失って心配し出したのが幸運だった。だからタイミングよく君を探しに行ったんだ」

「盗まれるようなものを何も持っていなかったのも幸運だったわ」

「さあ試してみる時間だ」父は応接間に入ってきて、母の条件に合うように召使いがやっと吊り下げたキッシング・バウに見惚れていた。

 父は母の手をつかんでキッシング・バウの下にぐいっと引っ張った。母は驚いて甲高い声をあげ、それは楽しそうな笑い声になった。父は母の唇にしっかりとキスをしてから、手を伸ばしてベリーを一つ取った。ベリーが全部なくなったら、もうキスを盗むことはできなくなる。

 セシールは嫌悪感とともにあきらめの表情を見せた。ベルモア家でクリスマスを祝い続ける限り、ウィントレルホールにはいつもキッシング・バウがあるのだから。

「もうすぐですよ!」応接間の外から呼ぶ声がした。皆は食堂に行こうと戸口までぞろぞろ歩き、そこでセシールは、底を金の紙で飾った大きなろうそくを持っていた。

 子供達が階段を降りて大人のところに集まり、セシールは鼻高々に総勢を見て、自分が重要人物に見える演出を喜んだ。

「日暮れだから、ユールのキャンドルを灯すとしよう」声に抑揚をつけて言った。セシールの案内で食堂まで進むと、そこは豪華に飾られ、クリスマスイブの饗宴の準備が整っていた。子供も入れてゲスト全員が座れるように、長テーブルの周りに椅子がぎっしりと並んでいた。

 セシールがテーブルの真ん中に置かれた特別なガラスのろうそく立てまでろうそくを持っていく間、ゲストはドアのところで待っていた。召使いが灯りをともした細長く小さいろうそくを持って近づくと、セシールは厳粛そうに火を灯した。

「メリークリスマス」葬式のような雰囲気の中で言った。

 これとは対照的に、みんなは熱狂的に答えた。「メリークリスマス」

「ユールのロウソクの光によって祝福がありますように」セシールが言った。

 テーブルの上では本当に美しく、クリスマスの朝まで燃え尽きないほど大きかった。家の者が全員教会へ出かける直前に、セシールがその火を消すのだった。

 これから出されるご馳走の匂いに感謝しつつ、たくさんの笑顔がテーブルの周りに集まってきた。みな自分の椅子の後ろに立ち、各人が自分の場所を見つけるのを待った。そして、セシールの合図で同時に席に着いた。いつもそうしていたのである。子供の時ジェラルドは、悪運を寄せ付けないためにこうするのだと聞いていた。

 またミス・チャーチプラットンの隣の席だ。かなりぎゅうぎゅう詰めだったが、反対側に座っているミセス・ハザウェイの娘のリリアナよりもずっとジェラルドの方に腕をこすりつけているように思えた。

 ガチョウのロースト、イノシシの頭、チキン、七面鳥と、とても贅沢な食事だった。席からは見えないが、ポテト、パースニップ、芽キャベツ、人参と詰め物のような野菜料理もあった。明日の夜の食事はさらに豪華になる。

 そして伝統により、全員が同時にテーブルから立ち上がった。紳士用に食後のポートやシガーはなく、みなは応接間に集まった。召使いがロウソクの火を消すと、部屋は期待からくる緊張で満たされ、その後、息を呑む沈黙の時がきた。

 ドアが開き、執事が大きく浅いボールに山のように積まれたレーズンを持ってきた。従僕が細長く小さいろうそくに火を灯し、ブランデーに浸したフルーツに火をつけた。

 青い炎が暗闇の中で燃え、執事の真面目な顔が不気味に見えてくると、子供たちから「おお——っ」という声が上がった。部屋の中央の低いテーブルにボールを置くと、大人たちのリードで古い歌を歌い始めた。

 火を吐くボールを持ってやって来た
 悪さをしに来たわけじゃないよ
 スニップ!スナップ!ドラゴン!
 取り過ぎないように気をつけて
 欲張ってつかんじゃいけないよ
 スニップ!スナップ!ドラゴン!

 それから大人も子供も丸くなって集まり、一人ずつ手を伸ばして火がついたレーズンをつかみ、火傷をしないように食べるという、スナップドラゴンのゲームを始めた。うっかり落としたレーズンの火をいつでも消すことができるように、召使いが周りを歩いていた。

 暗がりの中で、ジェラルドは何とかミス・チャーチプラットンから離れ、影になっている各人の顔を見ようと目を細めて暗い部屋の中を歩いた。すると、腕の中に何かを抱えて窓のそばに座っているミランダが見えた。近づいて見ると、ミランダの膝で眠っているのはエリーだった。

「スナップドラゴンをさせないの?」彼は尋ねた。

「もちろんさせませんとも」ミランダは言い返した。

「僕たちもかなり若い時にしたように覚えているけど」

「そんなに若い時だったら、袖も眉も燃えたでしょうね、覚えてる?」

 ジェラルドは笑った。「忘れたよ」

 ミランダは、誰かが前を通るとチカチカする、部屋の真ん中にある青い光を見ていた。「あの光が好きなの。神秘的できれいだわ。でも、正直言うと遠くから見た方がもっと好き」顔をジェラルドの方に向けると、暗闇の中でもジェラルドはキラリと光るその笑顔が見えた。

 ジェラルドは微笑みを返し、手を伸ばしてミランダの頬に触れた。そうすることがとても自然で、そうするべきであるように思えたから。馬車の中で彼女の手に触れた時のように、自分でも理解することができないほど強く、ミランダにかかわりたかった。

 彼の指の下でミランダの皮膚は震え、そして彼女は顔を逸らした。

 彼は突然気まずくなった。手を前で握り、それから後ろに回し、足の位置を変えた。ただ、怪我をしている方の膝に重みをかけすぎて、顔をしかめた。

「痛い?」ミランダは尋ねた。

 暗いのにどうして分かったのか、不思議に思った。「硬くなってるだけだよ」

「エリーを寝かせたら、湿布を届けるわ」ミランダは出て行こうとしたが、ジェラルドは、何故彼女を探していたのかを思い出した。

「ここにいてくれる?聞きたいことがあるんだ」ジェラルドは、その必要もないのにミランダの肩に手をおいた——また、彼女に触れたいという願望だ。ミランダが椅子に腰を下ろした後も、彼は少しの間、手をそのままにした。エリーは彼女の腕の中ですやすやと眠っていた。

「あの女のことについて何か考えた?」

「ええ」いつものように、ミランダはジェラルドを驚かせた。「あの襲撃は偶然ではなかったのかもしれない。本当は……」

 ミランダがそこで止まってしまったので、ジェラルドは言った。「君はとても洞察力があるね。君の考えを聞いてみたい。君に危害を加えたいと思っている人は誰かいる?」

 ミランダは、ジェラルドが予想していたより長く戸惑っているようだったが、「いいえ、私は家族がいないし財産もない。ロンドンにいたのはほんの一時期で、それ以外はずっと田舎暮らし、最初は両親の家、その後はセシールの家でね」

「でも、納得がいく動機が思い当たらないという理由で単純にその可能性を排除することはできないよ。君も気をつけなくちゃ」

 ミランダはまたジェラルドを見上げた。彼女の目を見ることはできなかったが、何故か少し興奮してきたような気がした。「とにかく、エリーは君といることが多い。もちろん僕は君達二人のことが心配だ。森の中では、エリーはたまたま僕の近くにいて、君は他のみんなから離れていただけなんだ」

「もちろんそうだけど」その声はうつろだった。ミランダはエリーを抱えて立ち上がった。「失礼するわ。明日は早く起きて、フェリシティのために舞踏会の準備を手伝わないといけないから」キッシング・バウと同じく、クリスマスの舞踏会はウィントレルホールでの伝統行事だった。

 ジェラルドは彼女に行ってほしくなかった。「フェリシティは村中を招待しているようだね」

「今年は去年より来客が多いの。明日は、地元の人をいつもの二倍雇って手伝ってもらうのよ」彼女は突然硬直した。

「どうかした?」ミランダの近くに移動した。

 ミランダは方向を変え、二人は顔を近くに向き合わせて、エリーがその間で眠っているような形で立っていた。ジェラルドは、落ち着きがある一方で辛辣なミランダらしいラベンダーとレモンの香りを嗅ぐことができた。

「村の人たちはみんな私のことを知ってるの」ミランダは低い声で言った。「私が貧乏な親類で、何の価値もないってことは誰でも知ってるから、私を攻撃するはずはないわ。だから、新しく村に越してきた人に違いないと思う」

「最近引っ越してきた人がいるかどうか聞いてみるよ」

「私を襲った女を知ってる人だったら、なおさらあなたに話してくれることはないと思うわ。あなたの従者を送ってもらうことはできる?」

「父と同じ従者を使ってるんだ。父とミスター・ベルモアの友好関係は長いから、地元の住人だったら彼のことを知っている」

「他に召使いはいる?全く知られていない人は?あの女が知らない人で、ベルモア家とつながってる人」

「それにふさわしい召使いは他にいないと思う、だけど……」突然、頼めそうな人が思い当たった。「ちょっと考えさせて」

 ミランダはもっと情報を得ようとしてジェラルドを苛立たせたり、自分を信用しないと言って不機嫌になるのではなく、穏やかに微笑んだ。「おやすみなさい、ジェラルド」

「おやすみ、ミランダ」

 ジェラルドは、まだエリーを抱えている彼女が出て行くのを見とどけ、それから別のドアを通って応接間を出た。書斎のドアをノックしてから、ドアを開けて誰もいない部屋へと出て行った。

 そしてセシールのデスクに座り、羽ペンと紙を取り出して、何か書き始めた。

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